たばこ反対原理主義では話にならない。現状を踏まえた議論を!【猪瀬直樹氏インタビュー前編】
東京都が昨年9月に「受動喫煙防止条例(仮称)」の基本的な案を公表したことから、たばこをめぐる議論に拍車がかかっている。だいたいがたばこを絶対悪のように扱うケースが目につくのだが、別の視点からこの問題について発言する識者も多い。そんななか、本紙では元東京都知事で作家の猪瀬直樹氏にこの問題について聞いてみた。
セカンドベストの加熱式たばこで受動喫煙の問題はクリアされている
インタビューは猪瀬氏のオフィスで昨年末に行った。猪瀬氏はかつては紙巻きたばこの愛用者だったのだが、最近ではもっぱら加熱式たばこを愛用している。
「完全に切り替えましたよ。去年(2016年)の6月からだから1年半くらい。加熱式タバコが出てから約2年。出て半年くらいは気づかなかったんです」
昨年9月の東京都の「受動喫煙防止条例(仮称)」の基本的な案では加熱式たばこも規制の対象にしようという動きがあります。
「それについてはいろいろな意見があるんです。この前行った居酒屋は加熱式たばこはOKでその吸い殻用の紙の灰皿が置いてあった。吸い殻といっても燃やしているわけじゃないから紙でOKなわけです。お医者さんとも話したんですが、“加熱式たばこは紙巻きたばこのようなタールを煙として吸い込んだり吐き出したりするわけではない。問題はタールだから、タールがないだけで雲泥の差です”と言っていました。紙巻きたばこだとタールで壁が黄色くなったりする。僕も壁紙を全部張り替えて、もう黄色くなることもないから快適なんですよ(笑)。なんでも100%ということはあり得ない。逆に言うと99%は加熱式たばこで解消された。だからそれで十分だと思うんです。実際、僕のパートナーも僕が加熱式たばこに切り替えてうれしいみたいで、被害感情なんか全然持っていないようです」
とはいえ、昨今では禁煙を声高に叫ぶ人が急増中です。
「まずは現状認識から入らないといけない。僕はいま、アイコス、グロー、プルームテック、そしてこの禁煙パイポみたいなフレヴォを使っています。最初のうちはご飯を食べに行った時に、ふと“灰皿忘れた”と思って100円の灰皿をわざわざコンビニに買いに行ったんです。でもよく考えてみたらいらないんですよね(笑)。紙巻きたばこと違って燃やしているわけじゃないし、吐くのは水蒸気だから。今、吸っているけどたばこのにおいなんて全然しなかったでしょ? ということは、副流煙なんかで誰にも迷惑をかけていない。それでも禁煙原理主義の人はにおいをかいだだけで嫌だと言う。それは科学とは別の問題、好き嫌いの問題になっているんです」
猪瀬氏はその時々、気分によってさまざまな加熱式たばこを使い分けているよう。
「加熱式たばこが出しているのは水蒸気で、においもほとんどしない。そのなかでもちょっとにおいが強めなのがアイコス。これが一番普及している。後からグローが出てきて、そしてJTのプルームテックが出てきた。でもプルームテックが一番においが少ない、というかほとんど分からない。平和的に共存するために、飲食店などでもルールに応じて使い分けています」
ビジネスモデルとしての加熱式たばこについても言及
また猪瀬氏は加熱式たばこをひとつのビジネスモデルという観点でもみている。
「ビジネスモデルとして上手だと思うのは、スマホと同じなんですよね。例えばアイコスは本体が1万円、グローは約5000円くらいかな。大した金額じゃない。アイコスを買うとそれ用のフレーバーしか吸えない。そうするとフレーバーは携帯電話でいう通信費なんです。もう考え方が違う。この構造をビジネスモデルとしてよく考えたなと思うんです。つまりはイノベーション。やっぱりそういう考え方を、凄いと思うことが大事なんですよね。今まで別のたばこを吸っていた人やいろいろなたばこを吸っていた人が、このたばこしか吸えなくなる。そうするとユーザーを確実に取り込める。だから携帯と同じ発想なのです。三種三様の利点と欠点がある。価格も違うし、それぞれが競争をしていけばいいんです。ただもったいないのはプルームテックは手に入りにくいんです。最初に福岡で試験販売とかやって、いまやっと東京でも買えるようになった。フレーバーもやっとコンビニで売るようになったんですけど、本体がなかなか手に入らない。実は僕、プルームテックは小池百合子東京都知事が当選してしばらく経ってから僕のところに来た時にもらったんです(笑) 。つまり彼女の気持ちとしては、迷惑をかけなければいいんだという考え方なんだと思うんですよね」
そしてこの問題に対する議論の進め方にも言及する。
「まずそこまでイノベーションが進んでいるということをきちんと踏まえて、それから禁煙論議を始めないといけない。従来型の受動喫煙の問題は実質的に解決されているのに、こういうイノベーションというものを間に挟んだ論争をしていない。“まずは、たばこをゼロにしましょう”というのはある観点からは正しいかもしれない。だけど税金も取らなければいけない。そうするとこの問題は沖縄の基地問題に似ているわけです。普天間と辺野古。辺野古はセカンドベストじゃない? 鳩山さんは“県外に”って言ったわけだけど、それは実現しなかったわけでしょ。それで結局、一番ダメな普天間が残ってしまった。辺野古は沖縄の北のほうで人口が過密でない地域。だから町中にある普天間から辺野古に行くというのはセカンドベストで、ある種の提案としては正しい。初めから県外というのは無理なんですから。加熱式たばこもそうで、ゼロにするというのは税金も取らないといけないので無理というなかで、セカンドベストが生まれたということなんです。沖縄も県外か普天間かで争っているからいつまでも解決していない。たばこの問題も大事なことは解決する方向を見つけなければいけない、ということなんです。ただ現実と今の空気感は別。今は僕がこれだけ説明したから意味が分かると思うんですけど、たばこがいいか悪いかという単純な白黒論争のほうが分かりやすいんで、“やめましょう”と言ったほうが早いんです。でもそうなると税金はどうするの?っていう話になる。“じゃあ値上げしましょう”って言う人もいますが、値上げしてあまりにたばこの値段が上がったら吸わなくなる人が増えて結局、税収は減る。これは大事なことなんですが、たばこの税収っていくらか知ってますか? トータルで酒2兆:たばこ2兆って言われていて、合わせて約4兆円のすごい世界。ところが発泡酒などのせいで1.6兆円に減っている。たばこは値上げもあって2.2兆円に増えている。しかもたばこは半分は地方税。ということは2兆のうち1兆は地方に行く。直接地方が取れる税金というのはなかなかない。ガソリン税は国ですが自動車取得税は地方。どちらが多いかというとガソリン税のほうが圧倒的に多い。たばこは1兆:1兆で地方税と国税が平等。これはすごいことなんです。そして東京都のたばこ税収は1300億円。すごい金額ですよ、1300億円というのは。その中で都の取り分と区市町村の取り分があって、都が800億円で区市町村が500億円とかそんな感じだと思うんです。そうすると区には20億〜30億円くらい入ることになる。それなのに区役所なんかには“禁煙”って紙が張ってあったりする。“たばこの税収がいくらだと思っているの?”って話ですよね(笑)。それにそれがなくなったら“保育園のお金とかどこから出すんですか?” って。そして職員が外でたばこを吸っている。“いま仕事中じゃないの?”って話ですよ。こういう矛盾した現象が起きている。でも都庁には各階だったかな、廊下に喫煙所がありましたよ」
分煙ですね。
「だからそれでいいわけです。以前、松沢さんが神奈川県知事だった時に“全面禁煙だ”って言ったんですが、その時だってみんな県議会で吸っていたんです (笑)。議会といっても議場じゃないですよ、議員の控室。でもそこでは吸っていましたよ。“どうせやるなら足元からやってくださいよ”っていう話です。僕が都知事をやっていた時はそういう話はまだなかったんですが、そういった感じなので僕も分煙でいいと思っていました」
〈後編に続く。後編は1月23日公開予定〉