公演中止という体験をそのまま映画化した「アイスと雨音」公開
松居「この映画は止めちゃダメだと思った」
映画「アイスと雨音」が3月3日から公開が始まり、初日舞台挨拶が渋谷のユーロスペースで行われた。
舞台挨拶には松居大悟監督、主演の森田想をはじめとした主要キャスト、音楽を担当したMOROHAが登壇した。
この映画は松居監督に実際に起こった演劇の公演中止という体験をもとに映画化されたもので、“現実と虚構”“映画と演劇”の狭間でもがく若者たちの1カ月を「74分一発撮り」という演劇的手法を用いて撮影した。
松居監督は映画について「1年前に実際に舞台が中止になった。悔しくて、どうしようと思っていた時に、ただ普通の演劇公演をやるのではなくて、なんとかしてこの感情を形にできないかということをMOROHAのアフロと話していた。感情って時間が経つと忘れてしまったり変わっていってしまうけれど、今ある感情は本物だから、それを表現に落とし込むのは価値のあることだと思ったので、こういう映画を作らせていただいた。最初から一発撮りでやろうと思っていた。舞台だったら始まったらカーテンコールまで止まらない。この映画は止めちゃダメだなと思ってこういう形になりました」などと話した。
森田「3日前に“全部1回忘れてくれ”と言われた…」
音楽と主題歌を担当したMOROHAのアフロは「こんな年下の子たちと同じ空気を吸うというのはそんなにないので、まずはそれがすごく新鮮だったが、音楽をやっている瞬間とか自分の歌詞と向き合っている瞬間なんかはやっぱり自分が一番若い心を持っているなというふうに思う瞬間もあった。そんな意味でも楽しい空間だった」と撮影時を振り返った。
主演の森田は「稽古は2週間くらいしていたんですが、撮影の3日前に松居さんに呼び出されて、それまでは稽古場では何も言われていなかったのに“今まで固めてきたキャラとか言い方とかそういうことを全部1回忘れてくれ”って言われたんです。リスタートになってしまうので、それがあまりに怖かった。言われた時には“分かりました”と答えたんですが、いざ稽古場に行くと全然できなくて、すごく不安になったんですが、それがあったからいろいろとむしゃくしゃした自分の素みたいなものが全部、映画の中で投影できたんだと思います」などと撮影秘話を明かした。
松居「田中怜子のような人がこの映画には必要なんだと思った」
今回の作品で大きなキーマンとなっているのが田中怜子。田中は演技については未経験でオーディションに臨んだのだが、「まさか受かるとは思っていなかった。去年の自分からしたら1年後にこんなに大きな舞台に立っているとは自分でも思っていなかった。今のこの状況は私にとって大きな経験だし、人生の中でも宝物のような日々を過ごせることがすごいうれしいというか…。ありがとうございます」と話した。
この田中怜子の起用について松居は「この企画自体が、常識とか理屈とか“そうあるべきだ”といったそういうものによってフタをされたことが悔しい。でも俺やりたいし!といった感情から生まれたもので、そこに、いろいろな人がいろいろなことを度外視して参加してくれた。オーディションでの怜子は、ただやりたいから来て、ダメだったらこのまま深夜バスで帰ります、みたいな感じだった。セリフの読み方なんかもただただ衝動で発していた感じがして、すごく美しいなと思って、こういう人がきっとこの作品には必要なんだなと思った時にいろいろと見えてきた」と当時を振り返った。
アフロ「オーディションで合格しなかった人たちに届くような曲が書けたら」
続けてアフロが「監督の怜子への合格の電話の時に一緒にいたんですが、その時に“東京にいてください”っていう一言があった。その一言が自分がかつて上京したての時に誰かに言ってほしかった一言だなって強く思った。そこから気持ちを拾って曲を書いたというところはあるんですが、それに負けないくらい強かったのが、オーディションで合格しなかった人たち。その人たちが、例えばこのキャストが発表された時にどんな気持ちになるのかな?といったことをすごく考えました。俺の中ではオーディションで一番印象深かったのは、勝負を挑みに来る若い子たち、そして審査員席という1個高い所にのうのうと座っている自分自身という構図。それが俺は忘れられなかった。そこに座って“居心地がいいな”と思った暁には“もうマイクを持つのはやめたほうがいいな”と思いました。そんな中で一生懸命挑んで散っていった人たちのことを思うと、あの子たちに届くような曲が書けたらいいなという気持ちが強くありました」と主題歌の「遠郷タワー」へ込めた思いを語った。