エロメンを自在に操る男・鄭光誠インタビュー

 女性向けアダルトコンテンツで活躍する「エロメン」を中心に結成された劇団Rexyの第6回公演『風呂ダンサーズⅡ 今度は人助け!』の上演が5月24日から中野のテアトルBONBONで始まる。同作は昨年12月に上演された『風呂ダンサーズ』の続編。続けて作・演出を担当する鄭光誠(チョン・ガンソン)に話を聞いた。

稽古場での鄭光誠

劇団Rexy『風呂ダンサーズⅡ 今度は人助け!』が5月24日から上演開始
 鄭とRexyの関係は2017年の『晴れときどき、わかば荘』という作品で演出を担当したのが始まり。そして前作の『風呂ダンサーズ』、今回の『風呂ダンサーズⅡ』と3作続けて作・演出を担当している。そもそもRexyとはどういうきっかけで?

「『地獄少女』という舞台を2年前にやったときに、Rexyのプロデューサーの野口さんと知り合ってからのつながりです。それから“こんな話があるけどやってみない?”ってお話をいただいたのが『晴れときどき、わかば荘』」

 それまでRexyを見たことは?

「ないです」

 では演出するにあたりDVDなどを?

「それがね、見てないんですよ(笑)」

 Rexyは通常の劇団とは成り立ちがちょっと違う。いざ現場に来てどう思った?

「いや~、昔お世話になっていた方々の会社というか…、映像とか動画に出ている方々と同じ系列の人たちじゃないですか。同じ畑になるとは思っていなかった人たちが同じ畑になっちゃった、みたいな感じで、すごく面白かったですけどね。その後、風呂ダンサーズのお話をいただいたときも、“僕なんかでよければ”という感じでした」

 前回の風呂ダンサーズは途中で脚本ががらりと変わったとか。

「180度変わりましたね(笑)」

 それは実際に稽古をしてみて“違うな”と思ったから?

「風呂ダンサーズは半年ほど時間をかけて作った作品なんです。その間に公開稽古という形でお客さんの前で稽古をしたりとかいろいろなことをしました。実際に稽古をしていく中で、ダンスの方向性なんかについてもいろいろな提案をいただいたり意見が出たりしました。時間もあったので、“なるほど、それ面白そうですね”という話になって、話の流れなんかを変えることになった。最初は70%くらい書き直しかな?と思ったら、結局100%書き直しになった(笑)。でも面白かったですけどね」

前作のひとコマ。有馬芳彦(中央)は舞台で豊富なキャリアを持つ

「みんな真面目。真摯にお芝居に取り組んでいる」
 前作は銭湯を舞台にした家族の物語。父親が亡くなり、銭湯を閉める決意をした息子たちの前に死んだはずの父が幽霊となって現れる。成仏できずに戻ってきた父の望みは「四十九日までに親戚の男全員で銭湯に活気を取り戻せ」というもの。その願いをかなえるべく息子と甥を含めた14人の男たちが立ち上がるのだが、失踪中の者もいれば引きこもりもいたりとなかなか全員が揃うことは難しい。果たして彼らは父を無事成仏させることができるのか…という家族をテーマとしたコメディーが繰り広げられた。

 クライマックスのダンスのシーンはけっこう感動ものだった。

「もっとダンスに意味を持たせるというか、なぜ踊らなければいけないのかというところなんかをもっとシンプルに見せたかったんです。一番最初にやった公開稽古の時は、話の筋が3本くらいあったので、もっともっとシンプルに、ということを考えて“死んだはずの親父が成仏できなくて、それを成仏させるためには全員が揃ってダンスを踊らなければいけない”といった簡単なあらすじにしました。それに向かって走っていったら脚本的にもすんなりいったし、ストーリー同様に俳優たちの団結力も強くなったように思います」

 チラシに「奴らが意外と早く帰ってきた…」というコピーがあるが、まさにそんな感じでパート2。

「1カ月経つか経たないかくらいで、“次もやろう”という話にはなっていましたね。“でもまだ先だよね”って話をしていたんですが、もうすぐなんですよね(笑)」

 稽古場でのエロメンってどんな感じ?

「意外に、意外にって言っていいのかな(笑)。みんな真面目ですね。別に不真面目だと思っていたわけではないんですが、ちゃんと真摯にお芝居に取り組んでいるなっていうのが率直な感想です。楽しんでくれるようにこっちも現場づくりをしますけど、いろいろ楽しんでくれているのかなという感じはします」

 ふだん映像という現場で活躍している者の中には舞台で生の演技を見せるということに戸惑いがある人もいると思うが…。

「前回でいえば、夏目(哉大)君は初舞台だったので、最初は戸惑いがあったらしいんですね。でもそれをうまく隠しながら一生懸命やっていたと思います。僕の稽古で“早回し稽古”という、僕が鬼のようになる稽古があるんです。追い込み稽古みたいなもの。1時間くらいずっと切れ続ける。本気でやらないと先に進まないんです。“その台詞はうそだろう”とか“もっと続けられるだろう。そんなところで止まるのか”と言った感じでずっと怒鳴りながらやると、人間の内に秘めて隠してしまっている感情が出てきて、思わず泣いてしまったりということが起きるんです。彼はそれを経験して素直に“面白かった。楽しかったです”ということを言ってくれたので、そこから変わったのかな?とは思っています」

 Rexy以外の現場でも経験の少ない俳優さんに演出をつけることが多そう。そこの現場でもそういった感じ?

「みんなカッコつけるというか、感情を表に出すことを苦手というか、下手というか…。なので、そこをもっと単純にシンプルに、頭も使わずに、台詞を生きた言葉にすること、生きた芝居をすることはどういうことなのかということを教えるためには体で覚えさせるしかないので、どんどん追い込んで、考えられなくしていくんです」

前作から。前列の右から2番目が北野翔太

「Rexyの魅力は無茶な提案ができるところ。セオリーに固まっていない」
 Rexyの中心人物である北野翔太は現在では小劇場の舞台に頻繁に立つようになった。

「翔ちゃんは僕の作品に、Rexy以外だと3本出ているのかな。去年出てもらった作品の再演なんですが、6月にも『チェンジオブワールド』という作品に出てもらうんです。三枚目の役なんですが、去年はすごい楽しそうにやってくれていた」

 鄭さんのなかでは北野翔太は欠かせない俳優になりつつある?

「見た目はチャラそうな感じはあるんですけど、でも真剣にやるべきところは本当に真剣に取り組んでくれるんです、不器用ながらも。そこは素直でまっすぐでいいなと思います。そして普通の俳優の子が持っていないものを持っているように思います」

 今回は消防団の話。後半はやはり必然的に脱ぐ設定?

「そうですね(笑)」

 Rexyの作品はそこから作っていく感じ? やはり脱がないわけにはいかないでしょうし。

「わかば荘の時に“Rexyの公演は全員乳首までは見せないといけない”みたいな事を聞いていまして、ストーリーがBLものだったので、ちょっとやりそうになるシーンとか、服を貸すという時に脱ぐシーンがありました。まあ無理やり作った部分もありますが、その時は“まあいいか”という感じだった。でも次にやる時は変に脱ぐ理由を探すよりも、最初から脱いで当たり前のところにしよう。それってどこだろうって考えたらお風呂だったんですね。あとは夏の海とか。そういうシチュエーションを3つくらい提案させていただいて、そのうちのお風呂が引っ掛かった。そこでダンスをしたりというのはアリなんですかね?みたいなところから生まれた話。僕はRexyに関してはいかに裸に(笑)、上裸が自然かというところからスタートしていますけどね(笑)」

 鄭さんから見たRexyの魅力って?

「ぶっ飛んでるところですかね、企画に対しても。でも普通の企画は通らない。一般的ではなく、ちょっと突出したようなアイデアじゃないと通らない。僕が無茶な提案をしても“面白そうだね”という答えが返ってくる。普通のところだと“いやいや、お金がかかるし”とか数字の計算の段階で弾かれちゃうものをRexyさんの場合は、“面白いですね、やってみたいですね”となる。もちろん現実的でなさすぎたら、さすがに、というところはありますが、基本なんでも提案したら、面白いと言い合える。無茶な提案ができるというのは面白い。セオリーに固まっていないというか。僕は自由にやらせてもらっている感じはします」

 今回もあるであろう「風呂ダンス」。リニューアルというかパワーアップ?

「もうちょっと激しくなる予定です。もっと際どくなる。前回を多少踏襲するところはありますが、もっともっと攻めたいと思っています」

 前回より激しくなって大丈夫?

「多分大丈夫だと思うんですよね。ちゃんと隠し通せば隠せるものを目指していて、見せることに楽しみは求めてはいないので。“え? これで隠せるの?”という楽しさを追求している感じですね」

 前回のダンスは半端ない練習量を感じさせた。

「みんなであらゆる角度から検証しましたよ。“ここからは見えてる!”とか(笑)。前回も頭にオケが当たっちゃったりとか、どうしてもずれちゃったりするんですよね、大きさによって。それをずれないためにはどうすればいいのか、とか、実は上下逆のほうが良かったんじゃないかとか。身長差の問題とか。そういうこともいろいろ試してみたりとかしていました」

 隣の人にモノを隠してもらったりという振付を見て、互いの信頼関係は生半可じゃないなと思わされました。

「前回はみんな団結力がありましたね。公開稽古をやった後もみんなで銭湯にも行きましたし、みんなで飯も食いましたし。一緒にいる時間が長いので」

演出中はちょいちょい鬼の部分を見せる鄭

「来年は自分の世界観を出した映像作品を作りたい」
 鄭のプロフィルを見ると、ここ数年は舞台の作・演出を数多く手掛けているのだが、その前には映像でけっこう硬めというか社会派の作品を多く発表していた。

「映像もそうですが、舞台も3年ほど前までは真面目というか暗い話のほうが多かったんです。基本的には東日本大震災とかいじめとか自殺とか。阪神淡路大震災もそうですが、史実をもとにしている作品。自分が在日ということもあって、差別問題を扱ったりということが多かったです。あとは助産師さんとか男性保育士さんを扱った作品とか」

 舞台においては最近はこういう柔らかいものが多い?

「そういうオーダーを受けることが多いですね。暗いとお客さんがあまり来ないんじゃないかと思われているんじゃないでしょうか(笑)。せっかくお金を払って、時間を費やして見に来てくださるので、やはり楽しませて、エンターテインメントとして見せたいという要望が多いですね。正直なところ苦手といえば苦手なジャンルだったかなという気はしているんですが、僕がいる劇団も社会派ではあるけど笑いの要素を入れたりダンスも入れたりもしていました。だからやり方はなんとなく分かっていたので、やっていくなかでエンターテインメント性の強い作品も作っていけるようになりました」

 最近は年5~6本のペースで舞台の作・演出を手掛けているという。それでは映像作品を作る時間がなかなかないのでは?

「映像は3年くらいできていないです。舞台がプァーっと入ってきてしまったので」

 では今後は?

「来年は映像作品を作りたいと思っているんです。今年37歳になって、人生が4周目にかかってきた。ここ2~3年はずっと舞台が続いて、しかもエンターテインメント系が多いので、もうちょっと自分の世界観が出せるものを作りたい。そういうものも作っていかないと、今この仕事をしている意味がないんじゃないのかな?と思う部分もあるんです。もちろん仕事は大事です。その一方で自分の夢とか本懐みたいなものはしっかり持って生きていきたいんですよね」