【インタビュー】池松壮亮×満島真之介 突き進んだ純愛、友情、青春は、もう誰にも止められない!? 映画『君が君で君だ』

 世代を代表する俳優にして唯一無二の存在感を放つ池松壮亮。是枝裕和や大林宣彦、園子温ら次々と名監督の作品に出演し頭角を現す満島真之介。コメディーからシリアスまで幅広い役どころをこなす大倉孝二。演技派にして個性派でもある3人が本作で演じるのは、尾崎豊、ブラピ、坂本龍馬…になりきった男! “尾崎豊”役の池松と“ブラピ”役の満島が、鬼才監督・松居大悟の“内なる世界”で見つけた宝物とは。

撮影・鬼束麻里 

中国の映画祭で“偉い人”に怒られた!?

 最初は尾崎豊を演じるのだと思っていた、という池松壮亮。彼が演じるのは、好きな子の好きな尾崎豊になりきって生きる男。同様に、満島真之介が演じるのも、同じくブラッド・ピットになりきって生きる男。

満島真之介(以下:満島)「ブラピ本人には、まったく許可をとっていないはずなので、そのあたりはあまり触れないようにしていただいて(笑)」

 ブラピがこの映画を見ないとも言い切れない。何しろ第21回上海国際映画祭という海外の映画祭でも上映されているわけで…。

満島「映画祭、どうだった?」

池松壮亮(以下:池松)「尾崎とか坂本竜馬とかブラピですら伝わっているのかどうか、よく分からないんですよね。日本とは映画に対する距離感がちょっと違っていて、純粋に作品に対する反応が分かりづらくて」

満島「映画に対する感覚もやっぱり日本とは違ったりするからね。ネットも規制があったりするからか、逆に情報に対してシンプルというか、ピュアさみたいなものが残っている。僕も先日まで中国で撮影をしていたんですが、映画を撮る現場でスタッフたちが一つひとつに込める熱量がすごいんです。自分のやるべきことを迷いなくシンプルに突き進んでいく。撮影が終わったらそそくさ帰るけどね(笑)。だから中国の方たちが見たときにこの映画がどう受け止められるのか興味があったんだけど」

池松「僕ももう少し反応を知りたかったんだけどね。ただ、お客さんはワイワイとそれなりに楽しんでくれていたようなのですが、あちらの偉い人には怒られたみたいです(笑)」

満島「それはいいですね(笑)」

池松「今、中国ではあまり学生の恋愛を促すような作品は作るのも難しいらしいんです。それなのに、こんな映画を持って行ってしまったので…(笑)」

撮影・鬼束麻里

 一体どんな映画なのか。あらすじはこうだ。韓国から来た女性ソンに恋する3人の男はそれぞれ、彼女が好きな尾崎豊、ブラピ、坂本龍馬になりきって生きてきた。彼女と同じ時間に同じものを食べ、彼女の一部始終を記録する。ソンに存在を知られることなく、そのすべてをただ見守って10年。ところがある日、ソンが付き合っているクズ男・宗太(高杉真宙)を脅しに来た借金取り(YOUと向井理)に見つかったことで、彼らが過ごしてきた世界の歯車が狂いだす…。

 自分の名前すら捨て“好きな子の好きな人物”になり切り、ストーカー行為に没頭する3人。物語が進むにつれ、彼らの“純愛”はエスカレート。松居監督も上海で“変態が過ぎる”と文句を言われたとか。一見、このエキセントリックな作品を2人はどう受け止めたのだろうか。

池松「僕は20歳くらいに松居監督と出会ってから、わりと近い存在として監督のことを見てきたほうなので、初めて松居作品に触れる人よりも驚きはなかったですけどね。ただ、これまで松居監督がいろいろな作品を発表してきて、外に向かっているものもあれば内に向かっているものもあったけれど、本作はどこまでも内側を掘り下げて、核の周りにあるようなものに向かって暴力的に突き進んでいく、そんな作品を作る気なのでは、と思わせられる脚本でした。今までで一番、内側に向かった作品になるんだろうと思いました。誰のどの作品にも似ていない“松居大悟の感覚”が最大限に浮き出てくるんじゃないかと思っていましたね」

満島「確かに池松君は松居監督をずっと見てきたわけだし、僕らとはまた違う感覚で受け止められたんだろうね。僕や大倉さんは松居作品はこれが初めてだから…まあ大倉さんは年齢も上で経験も豊富だから、また僕とは全然違うとらえ方をしているとは思うんですけど、僕はこんなに客観的に脚本を読んだのは初めてじゃないかな。自分がこの作品をやるとかやらないとかいう次元を超えて、それすら忘れて、世の中にはこんな作品があるんだと、すごい刺激を受けたんです。そこから一息ついて、あ、これやるんだよね…と(笑)。池松君の言う通り、松居さんの内側を吐露されているような気がしました。会ったことも無いのに松居さんの心の奥を知ってしまうような。そういう脚本に出会うことはなかなか無いので、とても刺激的でした。ただ、役を演じていくにあたって、やはり一人で脚本を読んで作品に向かうのはちょっと無理だなと思ったので、監督と池松君、大倉さんとで話をしたいとお願いしまして。それで4人で何度か集まって話す場を作ってもらい、読み合わせをしつつ、ここはよく分からないとか、ここはどういう気持ちなんだろう、というような疑問を監督に聞いていきました。やっぱりすべては監督の頭の中にしか無いことなので。監督が普通だと思っていても、こっちからするとそれは普通じゃないですよ、ということもあったりしますし(笑)。そういったことのすり合わせをする時間が持てたことは本当に良かったし、あれが無ければ多分この役を演じることは難しかったかもしれない」

池松「今、話を聞いていて思ったんですけど、それって本当はすごく当たり前のことなんじゃないかと。脚本を受け取って何も聞かずともハイハイ了解、でやれるような作品は僕にとっては物足りないのかも…。話し合うことによって時間もかかるけど、何でも効率化、システム化していってしまったら人と人とが作るクリエイティブも潰れてしまうと思う。誰かの内側に迫った表現を表に出そうとしているわけですから、最初は意味が分からなくて当然、なんじゃないかな」

満島「そうだね。しかもそれを、意味が分からないとか、理解できないとか、共感できないとか、素直に言えることも大事なんだと思う。共感できないのに共感しているふりをしたり、分かった気になって満足してしまう、そんな作品も少なくないけど、この作品に関してそれは無いね」

撮影・鬼束麻里

池松は一輪の「花」、満島は「妖精」

 少なくとも、この作品を見ずしてもはや俳優・池松壮亮、満島真之介を語ることはできない。これまでにも、そしてこれからも見ることのできないであろう姿が、ここにある。

満島「そう言っていただけると、うれしいですね。でもそれも僕にとっては池松君との出会いが大きいんです。池松君がいたから、僕の“ブラピ”ができた。本人を前にしてこういうことを言うのは普通なら気恥しいことかもしれないけど、ぼくは平気なので言ってしまいますけど(笑)。池松君のように、まったく違う素養を持っている人、しかも同年代で、生き方のエネルギーの色が全然違う人と出会えて、力のある作品を作ることができた。それは僕の中で、すごい宝物なんです。これまで僕は、なかなか同世代と作品を作る機会が少なく、自分でも特にそれを求めることも無かったんですけど、どこか欠けているものを感じていたんです。同じくらいの年齢で、語らずとも同じ空間にいるだけで、グラデーションのようにお互いがにじみ合うような存在があることに憧れていた気がする。実は池松君とは、この作品の前にプライベートで出会っているんですけど、映画を作る現場でも、カメラが回っているかどうかに関係なく、同じ空間にいるだけでお互いの“内側”が自然と出てくる。すごい出会いをしたと思っています。もうこれは、告白ですよ(笑)」

池松「僕も、今回は本当に満島さんには助けてもらったと思っています。にじみ合う、というのはよく分からないけど(笑)。僕より1歳上なだけなのに、本当に大きな目で現場を見守っていてくれるんです。自分の主観で突き進んでいくのが俳優という職業とされているけれど、満島さんは俯瞰の目を持っていて、簡単に作品世界を飛び越えた大きな目で作品を見ることができるので、小さな表現にとどまらないんです。さっき、人と人が物を作るとき本当の共感は簡単には生まれないという話がありましたけど、異なる目線で見る人がいるから面白くなるんだと思うんです。そこに新たな根が生えることで広がりが出て、大きな表現になっていく。自分はそうは思わないけどとか、分からないけど、と言うことで、新たな根が広がる。つまり作品を見た人の視点の数だけ、広がっていくんじゃないかなと。そんな中にあって満島君は、一俳優にとどまっていない感じがするんです。太陽のように現場を見つめていてくれて、現場と作品を導いてくれる。主演としてやらせていただきましたけど、今回僕ができたことなんて、いつもより多めに差し入れを入れるくらいで、あとは全部、満島さんがやってくれた感じなんです。まず、本当に気がいい人なんですよね。スタッフのほとんどが、現場での満島さんの居かたを見て“ひと現場に、ひと真ちゃんが欲しい”と言うくらい。誰もを幸せにできる何かを持っているんです」

満島「僕からするとすべては池松君が居たからなんですよ。僕の現場での居かたはどの現場でも変わらないんですけど、信頼できる人が中心にいると軸がブレない作品が立ち上がるんです。池松君が中心に立つ花だとしたら、僕はその横でにぎやかしをする妖精だと思っていただければ(笑)」

 自然と内側がにじみ合う、宝物のような特別な出会いを果たした2人。一方で、どこまでも内側に突き進んだ尾崎、ブラピ、龍馬たちの愛の行方は…。

池松「いろいろな恋愛映画がありますけど、ちょっと違う恋愛映画が見たいと思ったら刺激を求めに見に来てくださればいいかな、と思います。ちょっと刺激が強いですけど、まあ、夏だし」

満島「この映画は、本当にそう言うしかないですね。この3人が揃って、しかも尾崎だブラピだ坂本だと言っているだけでもかなりセンセーショナルだと思いますし(笑)。映画だけど映画の枠を超えて人の内側を見ている気がしてくると思うので、その目撃者になってみてほしいし、自分の内側はどうだろうか、と考えてみるのもいいと思います」   
(本紙・秋吉布由子)

©2018「君が君で君だ」製作委員会
『君が君で君だ』  

監督・原作・脚本:松居大悟 出演:池松壮亮、キム・コッピ、満島真之介、大倉孝二、高杉真宙、向井理、YOU他/1時間44分/ティ・ジョイ配給/全国公開中 https://kimikimikimi.jp