【東出昌大 × 宮沢氷魚】三島由紀夫の遺作にして最高傑作、全4部を舞台化!舞台『豊饒の海』
三島由紀夫が執筆に約6年の歳月を費やした、全4冊からなる大河小説『豊饒の海』。三島がこの小説を書き終え自刃を選んだことから遺作にして最高傑作とも言われる究極の小説を、脚本長田育恵、演出マックス・ウェブスターで舞台化。第一部「春の雪」の主人公・松枝清顕(まつがえ きよあき)役の東出昌大と、第2部「奔馬」の主人公・飯沼勲(いいぬま いさお)役の宮沢氷魚。“生まれ変わり”として同じ魂を持つ主人公を演じる2人が、壮大な舞台に挑む思いを語る!
三島と出会う、三島に迫る
三島由紀夫を、そして演劇を知る人ほど、この壮大な舞台化に瞠目するに違いない。
東出昌大(以下:東出)「僕も最初、タイトルを聞いたときは恐れのようなものを感じました。以前に原作を読んでいたので、自分の役者としてのキャリアの上でも大きな挑戦となるのは分かりましたし、そもそもこの壮大な物語を舞台化できるのだろうかという戸惑いを感じました。でも演出のマックス・ウェブスターさんが“僕は皆よりも有利な部分がある。日本人は三島をある意味、神格化して畏怖している部分があるけれど、僕はその恐れを知らず舞台化できると思っているし、やることは人間のドラマを描くことだ”とおっしゃっていて、僕もまさしくそうだなと思ったんです。僕も三島作品が好きで、だからこそ怖いなと思っていたんですが、映像化にしろ舞台化にしろ、原作を読んだ人それぞれが頭の中に自分の想像力で補填した世界を作っている以上、厳密に原作に勝るのは難しいことだと思います。ただ今回、血の通った人間ドラマとして描いたときに、より生き生きとした『豊饒の海』になるだろうと思っています」
宮沢氷魚(以下:宮沢)「僕も初めてお話を頂いたときに4冊のうちどれを舞台化するのだろうと思っていたら4冊全部だというので(笑)。不安と、どう舞台化するのだろうかという疑問も同時に生まれたんですが、先日、みんなで集まってワークショップを行っているうちに、もちろん原作に基づいているのですが、新しい観点が見える新たな作品のようにも思えてきたんです。脚本の長田育恵さんが4つの物語の核を汲み取って1つの作品にしてくださっていますし、そういう新しい試みに参加できたこともうれしく感じました。だからこそ責任感を感じてはいるのですが変なプレッシャーは感じずに向き合いたいな、と。僕を含め10代、20代の若い世代は三島作品を読んだことがないという人もけっこういると思うんです。そういう世代にも楽しんでもらえる作品になるだろうと思っています」
2人の三島作品の読書経験は?
東出「僕は以前から好きで、一通り読んだと思います。『禁色』、『音楽』、『午後の曳航』、『潮騒』…ほとんどの作品は読んでいます。東大の全共闘の人との対話集も読んだのですけど、三島の頭が良すぎて、さすがにちょっとついていけないんですよね(笑)。『金閣寺』も最初に読んだのは10代の終わりくらいでオリンピック周期くらいで読み返しているのですが、だんだん分かってきたかなという感じ。『豊饒の海』も30歳の今、読んでも分かったとは言い切れないんです。ただ今回の松枝清顕という役は今しかできない。若さ、無知ゆえに奔放なところは今しか表現できないと思います。とはいえ分かりきった人間が誰一人出てこないのも三島の魅力だと思いますが(笑)」
宮沢「僕はちゃんと読んだのは今回が初めてでした。何度も読んでは戻って、を繰り返して、読み終わった今でも理解度は20%もいってないと思います(笑)。でも今はそれでいいかなとも思います。24年生きてきて、今はまだこれしか理解できない、ということもそのままに受け止めるべき、というか。もちろん悔しいんですけど、また年を重ねれば理解も深まると思い、今は楽しめる部分を楽しもう、と。三島についても記録映像などでは見知ってはいましたが本当に存在していた人間なのだろうかと思うくらいカリスマ性があって。ある人間が演じていて、それが映像に残っているんじゃないかというような感覚すらあります。この作品と向き合ううちにその感覚にも変化があると思うんですが、今は深く考えすぎず自然に感じたことを大切にしていこうと思っています」
三島の世界ににどんどん魅了されている宮沢と、読者から演技者となりさらに深く分け入ろうとする東出。
宮沢「東出さんが初めて三島を読んだときの印象ってどんなだったんですか?」
東出「すごくきれいな文章だなということと、僕が今まで読んだことが無い比喩や形容の仕方があって、そこが素晴らしいと思いました。とくに『金閣寺』を読んだとき、衝撃を受けたんです。主人公には、まったくコンプレックスなんて無さそうな鶴川という友人と性格の悪い柏木という友人がいたんだけど、鶴川は失恋して自殺をしてしまう。後から主人公は、柏木が鶴川に宛てて“死ぬな”と書いた手紙を見る。鶴川はそれを読むことなく死んでしまったんだけど、主人公は、それは柏木が鶴川を殺そうとしてあえてそう書いたんだ、と思う。…なんという話を書くんだ、と思って(笑)」
宮沢「三島ってやっぱりすごいんだな(笑)。ますます興味が出てきました。こんなに辞書と向き合うこともないというくらい、辞書を片手になんとか原作を読み進めていったんです。こんなに時間を費やして1冊の本を読んだのは初めてのことでした。大変でしたけど楽しい時間でした」
舞台を見る人も事前に『豊饒の海』を読んでおくべき?
東出「読まなくてもいいと思います、難しいので(笑)。原作を読んでいない初見の方でも楽しめる舞台になっていると思います。原作は、三島の遺作であり、最高傑作だと言われていて、絢爛豪華な文章が…三島の腕がぶいぶい鳴っている感じです(笑)」
演じる2人も稽古前から楽しみ!
第一部「春の雪」は東出演じる貴族の子息・松枝清顕が禁断の恋の果てに散る物語。第2部「奔馬」は宮沢演じる右翼の青年・飯沼勲が活動に身を投じ壮絶な最期を遂げる姿を描く。清顕の親友・本多繁邦は勲、そして第3、4部の主人公たちを清顕の“生まれ変わり”と感じ、その生きざまを見守っていく。
東出「清顕は物語の出発点となる人物で、本多にとってよほど魅力的な存在だったんだと思います。しかしその実、本当のことは全部読んでも僕にも分からない。その分からないものを秘めた人物なのだろうと思うんです。何物にも染まらないし何の影響も受けていない、それが本多にとって魅力的に映っていた。その清顕が恋愛をするという、それが果たしてどうなのか(笑)。清顕のそれは恋愛と呼べるのか、稽古が楽しみな部分です」
宮沢「僕が演じる勲はまだ10代という若さながら、はっきりとした覚悟を持つ人物です。時代の影響もあるのかもしれないけど、なかなかあんな覚悟は10代で持てるものではないですね。僕も原作を読んでいて、勲に今の時代にはない魅力を感じましたし、少年から大人になるときの感性や、その変化をきちんと表現したいと思っています。勲は、覚悟はすごいんですけど本当にピュアで正義漢なのでそういうところも大切にしていきたい」
イギリス人演出家ウェブスターとの作品作りも楽しみ、と2人。
宮沢「マックスは役者との距離が近い気がしますね。役者と一緒にエクササイズにも参加するし、仲間意識も強い。何でも思ったことを相談できるので、いろいろ話して詰めていける距離感なんです。エクササイズを2日間やっただけでもすごく楽しい。みんなで楽しくこの作品を作っていける自信を感じています」
東出「僕の初舞台が敬愛する小川絵梨子さん演出の『夜想曲集』だったんですが、そのとき小川さんが“演技にNOは無い”とおっしゃっていたんです。人が生きていて、そこに存在し動いているわけだから、もっとこうしたらいいんじゃないかというのはあっても、それがダメということはない。ダメは演技に置いて一切ない、とおっしゃっていたのがすごく印象的でした。マックスにも同じような哲学を感じました。小川さんもNYで学ばれた方ですし根底にあるメソッドというか学問が、欧米の感覚なのかもしれませんね。宮沢君が言うようにオープンで距離が近いので、生きている人間というものを感じてダイレクトに演出してくれる方だと思います」
第一部「春の雪」は東出演じる貴族の子息・松枝清顕が禁断の恋の果てに散る物語。第2部「奔馬」は宮沢演じる右翼の青年・飯沼勲が活動に身を投じ壮絶な最期を遂げる姿を描く。清顕の親友・本多繁邦は勲、そして第3、4部の主人公たちを清顕の“生まれ変わり”と感じ、その生きざまを見守っていく。
東出「清顕は物語の出発点となる人物で、本多にとってよほど魅力的な存在だったんだと思います。しかしその実、本当のことは全部読んでも僕にも分からない。その分からないものを秘めた人物なのだろうと思うんです。何物にも染まらないし何の影響も受けていない、それが本多にとって魅力的に映っていた。その清顕が恋愛をするという、それが果たしてどうなのか(笑)。清顕のそれは恋愛と呼べるのか、稽古が楽しみな部分です」
宮沢「僕が演じる勲はまだ10代という若さながら、はっきりとした覚悟を持つ人物です。時代の影響もあるのかもしれないけど、なかなかあんな覚悟は10代で持てるものではないですね。僕も原作を読んでいて、勲に今の時代にはない魅力を感じましたし、少年から大人になるときの感性や、その変化をきちんと表現したいと思っています。勲は、覚悟はすごいんですけど本当にピュアで正義漢なのでそういうところも大切にしていきたい」
イギリス人演出家ウェブスターとの作品作りも楽しみ、と2人。
宮沢「マックスは役者との距離が近い気がしますね。役者と一緒にエクササイズにも参加するし、仲間意識も強い。何でも思ったことを相談できるので、いろいろ話して詰めていける距離感なんです。エクササイズを2日間やっただけでもすごく楽しい。みんなで楽しくこの作品を作っていける自信を感じています」
東出「僕の初舞台が敬愛する小川絵梨子さん演出の『夜想曲集』だったんですが、そのとき小川さんが“演技にNOは無い”とおっしゃっていたんです。人が生きていて、そこに存在し動いているわけだから、もっとこうしたらいいんじゃないかというのはあっても、それがダメということはない。ダメは演技に置いて一切ない、とおっしゃっていたのがすごく印象的でした。マックスにも同じような哲学を感じました。小川さんもNYで学ばれた方ですし根底にあるメソッドというか学問が、欧米の感覚なのかもしれませんね。宮沢君が言うようにオープンで距離が近いので、生きている人間というものを感じてダイレクトに演出してくれる方だと思います」
これも三島の引き合わせ!?
生まれ変わりほどでなくても、2人の間で相通じる点は?
東出「共通点があまり無いよね。2人ともお酒はわりと好きなほう、というくらい。…稽古前に飲もうか」
宮沢「そうですね(笑)。あと2人ともモデル出身ですね。背も高めで」
東出「でも役者として長身ってあまりメリットを感じないよね。デメリットは多くあげられるんですけど(笑)。ただ、モデルをきっかけに役者の仕事に就いているから、そこはこういう体格に産んでくれた両親に感謝しています」
宮沢「役者やっていて長身のメリットなんてありますかね?」
東出「電球を変える芝居とかがあれば、よし来た!となるけどね(笑)」
宮沢「そういえばよく、舞台映えするね、と言っていただきます。一番、背が高いからすぐ分かる、と(笑)。あと衣装がきれいに見える、とか。それは少しうれしかったです」
東出「僕はもともと宮本宣子さんの衣装が好きなので、今回は衣装もすごく楽しみです」
東京には、三島ゆかりの地も多い。
東出「三島の直筆の手紙を売っている店が骨董通りにあったり、初版本が水道橋や御茶ノ水あたりにあるので、そういうのをめぐるのも面白いだろうなと思います」
宮沢「今、三島の住んでいたところってどうなってるんですか」
東出「西馬込のお宅は公開されてないけど、それ以前に住んでいた場所はどうなってたかな…」
宮沢「僕は、その周辺に行ってみたいですね。人って自分が住んでいた土地に少なからず影響される部分があると思うんです。どんな街に住んでいたのか興味ありますね。近所の店とか喫茶店とか、今は変わってしまっているだろうけど、雰囲気だけでも感じてみたいです」
東出「三島の行っていた飲み屋みたいなのがあるんですけど、そこ行きたいですね」
宮沢「そんな店がまだあるんですか」
東出「あるんだよ。新宿の“どん底”という居酒屋さん」
宮沢「もしかして創業80年という居酒屋? えっ! よく行ってますよ、僕。すごくいいお店で、引き寄せられる何かがあるんですよ。あの店に三島が…知らなかった。鳥肌が立ちました(笑)」
東出「じゃ、そこに飲みに行きましょう(笑)」
史上初の舞台に挑む覚悟を持った2人。舞台で演じる瞬間を楽しみにしている場面やセリフは?
宮沢「勲は最後に究極の決断をするんですが、そのシーンですね。なかなかそういうシーンを演じることってないし、ああいう境地に至る心境と向き合うのが楽しみです。三島自身の心に迫ることにも通じる気もしますしね」
東出「僕は“また会ふぜ、きっと会ふ”です。稽古前の今の時点ではまだ解釈も方向性も定まっていないんです。そもそもこのセリフを本当に清顕は言ったのか、夢日記を本当に清顕がつけていたのか、すべては本多の作った印象なのでは…という解釈だってできるかもしれない」
宮沢「それ、僕も思いました。本多が聞きたいように聞いたんじゃないかって。もしかしたら全然別のことを言っていたのかもしれないのに、本田がそう聞きたかったから…」
東出「本当にいろいろな解釈ができるから、どういう声で、どんな音の響きで“また会ふぜ、きっと会ふ”なのか…。かなり重要な部分だと思うので、そこに至るのが楽しみですね」
彼らとなら三島の“海”にも深く潜ることができるはず。
(TOKYO HEADLINE・秋吉布由子)
【公演日程】2018年11月3日(土・祝)〜12月2日(日)
【会場】紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA ※11月3日(土)〜5日(月)はプレビュー公演
【原作】三島由紀夫「豊饒の海」(全4部)より 脚本:長田育恵 演出:マックス・ウェブスター
【出演】東出昌大、宮沢氷魚、上杉柊平、大鶴佐助、神野三鈴、初音映莉子、首藤康之、笈田ヨシ 他