前川知大による水木しげるへのオマージュ作。舞台『ゲゲゲの先生へ』8日開幕
佐々木蔵之介がねずみ男をモデルとした役を演じる
劇作家・演出家の前川知大が水木しげるの世界観をもとにオリジナルのストーリーとして作り出した、舞台『ゲゲゲの先生へ』の公開ゲネプロが10月7日、東京・池袋の東京芸術劇場 プレイハウスで行われた。
本作は水木の特定の作品を原作にしたものではなく、水木作品が持つ世界観、ひいては水木の人生観、世界や不思議とのかかわり方といったものを原案としたもの。水木の膨大な作品群、エッセイやインタビュー、登場人物や言葉、エピソードをヒントに前川が一つのオリジナルストーリーを編み上げた。
物語の舞台は平成60年の子供が生まれなくなって人口が激減した日本。都市では貴重な妊婦や赤子は政府の管理下に置かれている。そんななか突如現れた怪物によって都市は混乱する。その喧騒と離れ、廃村で一人暮らす“半妖怪”の根津のもとに都市から夫婦が逃げてくる――といったもの。
主演の「根津」を演じるのは前川の作品には5度目の出演となる佐々木蔵之介。この根津という役は水木の作品ではおなじみの「ねずみ男」がモデルになっている。
序盤から妖しげな水木ワールドが展開され、すぐに引き込まれる。とはいえただ水木作品をなぞるのではなく、徐々に前川ワールド的なエピソードも入り込み、妖とSFがいつしか融合。そして昭和と平成60年という架空の未来が地続きであることを実感させられる。
10月8日から21日まで池袋の東京芸術劇場で上演
物語が進むにつれ、根津のパーソナルな部分が明かされていくのだが、そのエピソードの数々と根津の人生には前のめりに引き込まれる。時折、根津の口からは前川がその口を借りて喋っているのではないかと思わされる言葉が飛び出す。水木がそうしたように。
本作は10月8日から21日まで池袋の東京芸術劇場で上演される。出演は佐々木蔵之介、松雪泰子、手塚とおる、白石加代子他。
主催者側からの演出の前川、主要キャストのコメントは以下。
【脚本・演出 前川知大】
今回集まっていただけたキャストの方々は、人間、妖怪、半妖怪と担う役割はそれぞれですが、「妖怪は自然に、人間はグロテスクに」という水木作品のテイストに基づいた演技や表現の住み分けを、両者の狭間にいる半妖怪の根津=佐々木蔵之介さんを始めとする11人全員が、本当に見事に果たしてくれています。水木しげる作品には、幼い頃から当たり前のように接していて大きな影響を受けています。この作品が恩返しになってくれたら幸いです。
【佐々木蔵之介】
4年ぶり、5回目になる前川作品ですが、日々の稽古を踏まえて戯曲ごと更新していくような作品作りを楽しみました。
水木先生の作品・世界観を丸ごと演劇に取り込む、という試みは、とても面白いです。前川さんの水木さんへの惚れ込みようと、嬉々として語ってくれるその熱が日々、俳優たちにも伝染ってきて、僕自身も水木さんの漫画だけでなくその破天荒なエピソードひとつひとつに心惹かれて、どんどん好きになっています。
今回演じる根津は、水木さんもとても愛着を持っていたキャラクター・ねずみ男と、水木さんご自身を重ねて作られた登場人物。怠け者でずる賢く、頭の中は金の事ばかり…と、妖怪なのにとっても人間臭い役。楽しくて、懐かしくて、ちょっと寂しい、水木さんらしい作品になったと思います。どんな「目に見えないモノたち」が現れるのか、その気配をぜひ劇場で感じてください。
【松雪泰子】
水木作品へのオマージュと、コラージュという今回の作品は、沢山のピースを組み合わせて、構築するパズルの様な稽古でした。何層にも、アイデアを重ねては壊し、再構築し、ベストな形に創り上げて行く稽古場は、役者全員が高い集中力で、毎日稽古に臨み体現し探して行く。そして、それを前川さんの感じている水木作品の世界観に落とし込んで行く。とても有意義な稽古場でした。前川さんが感じている水木作品、そして水木さんの感性、人間性を作品を、役者が身体を使い体現して行くのは、なかなか高度。水木作品がもつユーモアや社会風刺、そして精霊とされる妖怪。そしてその全てを包むなんとも言えない寂しさ。水木先生の描く背景には、いつもそれが漂っている。その感覚をつかむべく、稽古の合間も水木作品に触れ続けながら、この空気感を体現するにはどうしたら。。と、全員で模索する日々でした。
前川さんの稽古は、パティシエが材料を何層にも何層にも重ね、まるでミルフィーユを作っているみたいだなあと感じていました。
毎日毎日、違う味わいの層が重なって行く。重なって行く度に、驚かされる事が多く。楽しんでいました。私の中の前川さんは、水木作品のパティシエ。
出来上がった作品が、極上の味わいになる様にこれから私達がしっかりと、水木作品の質感を体現していきたいと思います。
【白石加代子】
軽い日常的な会話で紡がれながら、内実は奥深い戯曲。自分が今まで取り組んだことのないタイプに感じます。ブラック・コメディ、怪談、SF。色々な要素が、幾つもの層になっているようで、場面によって見え方が違う。
それを演出家としても丁寧に一場ずつ立ち上げ、俳優たちから出て来るものも尊重してくださるので、共演の方たちとも少しずつ近づき、理解し合える良い稽古場でした。平易な日常と地続きのその裏側、特に淡い境い目のところを楽しくお客様に提示するところが、前川作品の魅力だと思っています。