ココリコ 田中直樹「あのとき僕も“うつトンネル”の入り口に立っていたのかも」
10年間の“うつ(鬱)”との闘いのすえ、その長く暗いトンネルを抜け出した漫画家・田中圭一のベストセラーコミックエッセイ『うつヌケ うつトンネルを抜けた人たち』が実写ドラマ化!「本当に多くの方がうつと戦っていらっしゃる一方で、まったく意識したことのない人も多いと思います。でも実はどんな人も、うつと無縁だとは言い切れないと思うんです」と語るのは、本作の主人公“田中圭一”を演じる田中直樹。
「僕も、これまでまったくうつを意識することが無かったので最初は僕でいいのかと不安だったんです。でも原作を読ませていただいて、あれ、うつって遠い存在じゃないぞと思ったんです。自分の中にもそのタネはあるんじゃないか、と。これまで経験してきた、落ちこんだ気持ちや悲しい気持ち、鬱々とした思いというのは、もしかしたらうつへのトンネルの入り口にいたのかもしれない。つまり誰にとっても起こりうることなんだ、それなら向き合える、向き合いたいと思ったんです」
ドラマでは“うつヌケ”経験者である主人公・圭一が、全くうつとは無縁のアシスタント・カネコと共に毎回うつヌケ経験者の体験に寄り添っていく。ドラマに登場する経験者たちは世代性別、職業などさまざま。
「10人いたら10人ともがうつになるきっかけも、トンネルを抜けるきっかけも違う。人によっては傷つけてしまう言葉でも、別の人にはそれがうつヌケのきっかけになるかもしれない。大切なのは、相手をよく見ることなんでしょうね。この人には、どう言えば気持ちを楽にさせてあげられるかな、とか何か切り替えるきっかけになるのかな、とか。それってうつに限らず人と接するうえで、ある意味当たり前の大切なことかもしれません」
うつは誰もが他人事とは言えない“今そこにある危機”。
「だからこそ誰もがうつを考えることができるし、サポートだってきっとできると僕は思っています」
一見、常に笑いに包まれているお笑い芸人だって無縁とはいえない。
「どの仕事もそうですけど、お笑いも実は繊細な面のある仕事なんです。その繊細さが笑いにつながったりするんですよね。僕もつらい思いを抱えていた時期がありました。お笑いの世界に入ったばかりで仕事が無くて、生活もままならなかったとき、それを相方と互いに相手のせいにしてたんですよ。そんなコンビにいい仕事なんて来ませんよね(笑)。そんな悪循環に陥っていた時期があって。今でもあれは、自分でも良くなかったなと思いますね。若いから余計にそうだったんだろうと思うんですが、嫌なことがあるとそれを受け止められず、何でこんな目に遭うんだよ!って思ってしまって」
助けになったのはやはり周囲や先輩の存在だった。
「特に、デビュー当時からよくごはんに連れて行っていただいていたのが極楽とんぼの加藤浩次さん。加藤さんたちもまだブレイク前でしたね。僕らなんて本当に先が不安だったんですけど、加藤さんが、お前らは大丈夫だよ、やって行けるよって言ってくれたんです。それから、加藤さんたちがどんどん売れていって、その姿を見ていた僕らも希望を持てたし頑張るぞという気になることができた。そのころ僕らはココリコボンバーズというコンビ名でやっていたんですが、あるとき加藤さんから“ボンバーズをちぎっちゃえよ”と言われたんです。なにその言い回し…って思ったんですけど(笑)。それでココリコに名前を変えて…それからだんだん仕事も増えていったんですよ」
苦しい場所から抜け出した姿は、いま苦しんでいる人や助けたいと思っている人に勇気を与えてくれる。
「このドラマでもいろいろな“うつヌケ経験者”たちのエピソードが描かれていくので、彼らの姿が誰かの希望になればいいですよね。本当に人それぞれだから何がうつヌケのきっかけになるのか分からないけど、逆に言えば、きっかけはいろいろなところにあるのかもしれない。実際に経験していない自分が簡単に言えることでないのは分かっていますが、うつは最終的に抜けていくことができるんだ、抜けた人たちが実際にいるんだと、僕はこのドラマを通して思うことができました。なので、多くの方に何かのヒントやきっかけになる作品となれればいいなと思っています」
うつとは無縁と思っている人だって、嫌な気持ちを長引かせずに気持ちをリセットしたいもの。
「僕は生き物や自然が好きなので、生き物を見て気分転換しています。特に自分は、海に潜ると気持ちが落ち着くのを知っているので、つらくなったら海で生きものたちとたわむれたいです。一番好きな生き物? サメです」
たわむれるなら熱帯魚あたりで…。
「危険なサメかフレンドリーなサメかをしっかり見極めて、たわむれたいですね! 日本近海だとホオジロとかイタチとかオオメジロとかは刺激するとちょっと危険ですけど。あ、原作の田中先生も生き物好きなんですよ。特に昆虫が好きだそうで、カブトムシについて語る熱量は僕がサメを語る熱量と同じでしたね。“田中”以外にも共通点がありました(笑)」
気持ちを変える。視点を変える。難しいことだけれど…。
「お笑いは、ネガティブなことを笑いに変えることができる素晴らしい仕事だと思っています。笑いに変えてしまうと僕自身もそんなに悩む必要もないかと思えたり、ものの見方が180度変わることもある。本作にも、視点を変えることがうつヌケのきっかけとなった人のエピソードがあるんです。僕自身、笑いで救われていることは多い。まあ、純粋に好きで楽しいからやっているんですけど(笑)」
『うつヌケ』
監督・演出:畔柳恵輔 原作・脚本:田中圭一 出演:田中直樹、大後寿々花/Huluにて配信中(全6話) https://www.happyon.jp/utsunuke