ポストコロナ時代にIRは社会課題の解決に有用なのかを議論

マカオの風景

オンラインワークショップを開催


 新型コロナウイルスの感染拡大防止による緊急事態宣言が5月25日、4月7日の最初の発令から約7週間ぶりに全都道府県で解除された。

 日本は今後、移行期間を設けたうえで社会経済活動の再開を目指していくこととなるのだが、新型コロナの特効薬が開発されたわけではないため、日常生活は常に万全な注意を払ったうえでの手探りの中でのものとなる。

 また新型コロナのによる緊急事態宣言下の生活は人々に大きな価値観の変化をもたらした。それは日本ばかりではなく世界に目を向けても同様で、ビフォーコロナの時代に考えていたさまざまな取り組みはポストコロナ時代において大きな変革を余儀なくされる。

 日本という国の単位で考えると日本は少子高齢化社会におけるさまざまな社会課題の解決が求められていたが、それに加えてポストコロナ時代においては地方創生やインバウンド回復が重要なテーマとなる。しかしそこにおいても多くの問題が表面化してきている。

 そんな中「統合型リゾート(IR)プロジェクト」はそれらを解決できる可能性を秘めているのかを取り上げるオンラインワークショップが5月26日に開催された。

「ポストコロナ時代の日本社会において統合型リゾート(IR)は社会課題解決として有用か?~ソーシャルアントンプレナー育成の重要性~」と名付けられた今回のワークショップには丸田健太郎氏(KPMGジャパン IRアドバイザリーグループ 公認会計士)、西村直之氏(一般社団法人 日本SRG協議会代表理事/精神科医)、中山彩子氏(一般社団法人 日本IR協会 代表理事)、そしてモデレーターとして朝日透氏 (早稲田大学理工学術院 教授)が参加した。

 ワークショップでは丸田氏はラスベガス、マカオといった既存の事例を挙げたうえで、「日本型IR」の可能性について言及。日本独自のモデルによる運営について解説した。そしてコロナによって世界中のIRが影響を受けていることを報告。そのうえで「New Normal後の日本におけるIRのポテンシャル」として、経済回復の起爆剤としてのIRへの期待、災害拠点としてのIRの可能性などを挙げた。

 中山氏は「日本型IRの状況と今後」というテーマでコロナがIRに投げ掛けたチャレンジとリスクを挙げた。その中で国内の事例として、IRを地域防災拠点として利用することも想定している長崎県の事例を紹介するなど、これまでカジノばかりが取り上げられがちのIRの別の側面についても解説した。

 西村氏は依存症の専門家として「健康」という視点からポストコロナ時代の社会におけるIRの可能性を述べた。「カジノを含むIRへの期待とリスク」として、感染症など輸入病原体による健康被害リスクといった「インバウンド・リスク」、ギャンブル関連の問題である「ギャンブリング・リスク」などを説明したうえで、新型コロナが投げ掛けた課題を挙げた。

 その課題というのは「リスクを伴うIRのポストコロナ時代の公的存在意義」「経済的中核としての発展を続けることの持続性リスク」「危機管理の新しい標準の必要性」といったもの。その一方で、人口減少によって医療体制や福祉サービスが維持できなくなり、大都市との格差が大きな問題となっている側面も挙げ、不均衡の問題を解決するための大きなインパクトになるという期待を示した。

 後半に行われた質疑応答では参加者から「カジノがIRにおいては3%にしか過ぎないということを初めて知った」といった初歩的な疑問から「いま議論しているのはIRのことではなくて、都市の未来というキーワードでアフター・ウィズコロナのスマートシティの問題なのでは」といった発展的なものまでさまざまな発言が寄せられた。