“夜の街”でダブルワークする女性たちの生活事情【コロナ禍と女性】

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新型コロナは私たちの生活を大きく変えてしまった。毎日満員電車に揺られなくてよくなってよかった、という人もいれば、生活が立ち行かなくなった、という人もいる。コロナ禍での東京は”諸悪の根源”とされた。しかし、そこで働き生きる人々にもその生活があり、生活のために、生きるために。働き続けなければならなかった。東京をもがき生きる人たちの暮らしが、コロナによってどう変わってしまったのかを聞いていく。


東京で働くフリーランスにコロナが与えた影響



 秋山かれんさん(仮名・30歳)は、東京で保育士として働いている。もともとは地方公務員として埼玉で保育士をしていたが、働き方を見つめ直すため、2年前上京した。

「地方で市立保育園に務めていた頃、生活は安定していました。一定の給料と、公務員ならではの多めのボーナス。でも、年功序列で子どもを産むことにすら順番待ちがあって、現場を知らない市の方針で保育指針がコロコロ変わって、自分らしい働き方を選択できないことに嫌気がさして、東京でフリーランス保育士として働くことを決意しました。

 保護者とフリーランス保育士をつなぐマッチングサービスを使って、派遣型のベビーシッターの仕事を始めました。時給制の仕事ですが、子どもと私、1対1での保育には手応えがあって、安定はしていなくても、前よりも自分の保育に自信が持てるようになりました。

 でも、やっぱり最初はフリーの仕事だけでは安定せず、東京の高い物価での暮らしに不安はありました。だから、家の近くのスナックの求人にも応募して、ダブルワークを始めました。保育とスナック、ちぐはぐな2足のわらじですが、お酒の場で上手に振る舞うことにも、これはこれでやりがいがあって。私には合っていました」

 そんな時、突然訪れたウィズコロナの生活。東京で働く保育士女性の生活を、どう変えてしまったのだろうか。

「外出自粛制限が出てから、一瞬は需要が増えたものの、テレワークが一般化してベビーシッターの仕事は激減しました。保護者が自宅で子どもの面倒をみることができるようになったからです。

 しかも、生活の頼みの綱でもあるスナックは、東京ではコロナの温床の“夜の街”扱い。それでも、自粛制限が緩和されてからは、営業時間を短縮しているスナックにも、積極的に出勤せざるを得ませんでした。シッターの仕事はコロナ前の月収の半分以下になり、生きていくためにはなんでもするしかなかった。もっとしんどい夜職にも手を出さないといけないかな、とも覚悟しました」

“夜の街”で働く女性たちの事情



 新型コロナウイルスの蔓延とともに、内閣府から「ベビーシッター割引券」なども配布されるようになり、保護者側はベビーシッターを利用しやすくなっている。しかし、未だ平常時の売上は取り戻せないという。結局秋山さんは、東京でのウィズコロナの生活で、仕事もプライベートもうまく行かなくなったと語る。

「東京で知り合い、付き合って1年になる恋人は、それまでは出会えなかった余裕とセンスのあるステキな男性でした。でも、コロナでテレワークが始まってから、みるみる”コロナ鬱”的な症状に侵されていった彼。仕事の愚痴が多くなり、一人で寂しく家にこもるストレスから、私を束縛するようになりました。

 一方私は、保育の仕事量は減らしたくなかったので、どんなに割の悪い仕事でも、遠い家でも仕事を受けて、稼げなくてもそれなりに忙しい毎日を送っていました。そんな私を応援するでもなく、彼は私にこう言いました。

『こんなご時世にさ、子どもと関わる仕事をしながら夜の街で働くなんて頭がおかしいよ。相手の家族や子どもにコロナを感染させたらどう責任取るの?』

 私の生活を保証できるのは、私だけなのに。保育の仕事で生活を担保できればそれが一番だけど、私だって必死で。仕事のしやすさを考えて、世田谷区に借りた家の家賃は9万円。彼が言っていることは正論かもしれないけれど、なんて無責任な言葉なんだろうって、とても傷つきました。

 東京には、生活のためにと“夜の街”で働かざるを得ない女性もたくさんいます。周りのことを何も考えていないから、楽して稼ぎたいだけだから、夜の街で働き続けているわけじゃない人だっていっぱいいます。コロナでしんどいのはみんな一緒。夜の街で働く私あっちだってそうなんです」

「つらいのは自分だけじゃないよ」なんて言われても、何も救いにはならない。それでもやっぱり、つらい時だからこそ、人は受け入れ合わないと、悲しみは大きくなるばかりなのかもしれない。

「彼もしんどかったのでしょうが、その時の私には、彼のメンタルをケアしてあげられる余裕はなかった。だから結局、お別れしてしまいました。持続化給付金の給付もあり、今はなんとか生活していけていますが……。コロナ前、スナックとシッターの仕事で合わせて30万円ほどだった月収は、今20万円以下になってしまっています。貯金までにはなかなか手が回らない状態です。だから私は『夜の街』にも行かないといけないんです」

 手取り20万円以下という数字は、リアルでありふれた数字だ。そのくらいの金額感で生活する人もたくさんいるが……それなら“夜の街”で副業して“人並み”の生活を手に入れたい、と考える女性も、同じくたくさんいるのだろう。

 東京と、“夜の街”。どちらもはたから見れば諸悪の根源、コロナの温床であることは間違いない。しかし、そこで暮らす人たちにも、それぞれの事情があるのだ。

(取材と文・ミクニシオリ)