マラソン 鈴木健吾 『最後のびわ湖』【アフロスポーツ プロの瞬撮】

 スポーツ専門フォトグラファーチーム『アフロスポーツ』のプロカメラマンが撮影した一瞬の世界を、本人が解説、紹介するコラム「アフロスポーツの『フォトインパクト』」。他では見られないスポーツの一面をお届けします。



撮影/文章:西村尚己(2021年2月28日 第76回びわ湖毎日マラソン大会)

今年で最後となったびわ湖毎日マラソン。

そのフィナーレは劇的なものとなった。


鈴木健吾が日本人初の2時間4分台となる2時間4分56秒の日本新記録で初優勝したのだ。

湖畔のコースであるため、例年は風が強く記録が出にくい大会と言われてきたが、この日は最高のコンディションに恵まれた。


“最後のびわ湖”はランナーたちに優しかった。


幸運にもこの“歴史的瞬間”に立ち会うことができた私のミッションは、その瞬間を確実に記録することだ。

鈴木のフィニッシュシーンとフィニッシュタイム(=日本新記録)“2:04.56”。

この2つの要素をうまく1枚に収めなければならない。


ポイントはフィニッシュラインの近くに設置されている大きなタイマー。


しかし、これが簡単なようで意外と難しい。

なぜならいくつかの不安要素が存在するからだ。


一つ目は、ゴール前のフォトポジション。

ランナーのフィニッシュ位置(どのレーンでフィニッシュするか)を想定し、ランナーとタイマーがうまく1つの構図に収まるように最適な撮影位置を決めるのだが、他のフォトグラファーとの場所取り合戦になるため、必ずしも希望通りにはならない。


二つ目は、ランナーのフィニッシュ位置。当然、これも必ずしも想定通りにはならない。


三つ目は、タイマー表示のタイムラグ。実際のランニングタイムとタイマーに表示されるタイムの間には僅かなズレがあるため、フィニッシュの瞬間は注意が必要だ。


いずれにしても、冷静に状況を見極めてシャッターを切らなければならない。


そして、ついにその瞬間がやって来た。

ゴール地点となる皇子山陸上競技場にトップで現れた鈴木。


トラックを走る姿は力強い。

ラスト100m。

最も内側の第1レーンをラストスパート。


ゴール手前でサングラスを外し、ゆっくりと第2レーンにシフト。


そのまま両腕を広げてフィニッシュ。


日本新記録達成!


私はシャッターを切りながら手応えを感じた。


“最後のびわ湖”は私にも優しかった。


■カメラマンプロフィル

撮影:西村尚己

1969年、兵庫県生まれ。大阪大学大学院工学研究科修了。

人間味あふれるアスリートの姿に魅せられ、学生時代にスポーツ写真の世界と出会う。

大学卒業後は、国土交通省に勤務しながらアマチュアカメラマンとして活動するも、どうしてもプロの世界で挑

戦したいという想いが募り、2016年にアフロスポーツに転職。

現在は国内外のスポーツを精力的に撮影し、人間の情熱や鼓動、匂いなど五感で感じとれる作品づくりに励む。

2007年 APAアワード写真作品部門 奨励賞

2013年、2015年 写真新世紀 佳作 ほか


★インスタグラム★

https://www.instagram.com/naoki_nishimura.aflosport/



アフロスポーツ

1997年、現代表フォトグラファーである青木紘二のもと「クリエイティブなフォトグラファーチーム」をコンセプトに結成。1998年長野オリンピックでは大会組織委員会のオフィシャルフォトチーム、以降もJOC公式記録の撮影を担当。
各ジャンルに特化した個性的なスポーツフォトグラファーが在籍し、国内外、数々の競技を撮影。放送局や出版社・WEBなど多くの報道媒体にクオリティの高い写真を提供し、スポーツ報道、写真文化の発展に貢献している。

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