がんサバイバーに“きれい”を届けたい!築地の美容室で「メディカルヘアスタイリスト」養成
女性のがん罹患部位の第1位を占める「乳がん」(※)。治療のひとつである化学療法に伴う副作用として、脱毛や爪の変形および変色に悩むがんサバイバーは多い。中央区築地のヘアサロン「上松」では、主に乳がん患者の外見の変化を美容師の立場からサポートする試みを続けている。同サロン代表の上野修平さんが主宰する「メディカルヘアスタイリスト養成講座」を取材した。
※2017年、国立がん研究センターがん対策情報センター資料より。
自身の顧客に聖路加国際病院ブレストセンター(乳腺外科)の医師がいたことをきっかけに、2013年からボランティアで乳がん患者向けのワークショップをスタートしたという上野さん。「自分の顧客の方が、化学療法を行う可能性があるのが当たり前になっていると感じ、美容師向けの講座を始めました。顧客の人生最大のピンチに、“きれい”や“かわいい”の提案を武器に一緒に闘うことができれば、生涯顧客にもつながります。僕たちはこの活動を通じて、純粋に美容師になって良かったなと思っているし、自分の仕事に誇りを持つことができるので、この思いを美容師の皆さんと一緒に共有したい」と講座の意義を説いた。
講座の内容は、カウンセリング方法から医療用ウィッグのカットまで実践的なもの。専用の個室がなくても、間仕切りやロールスクリーンなどを使ってパーソナルスペースを確保し、予約時間の調整などで配慮すれば患者を迎えることができるという。「患者さんはナーバスになっているからこそ、(カウンセリングで)『今どんな状況ですか?』と聞いたら堰を切ったように話す人がほとんどです。僕たちの仕事は、まずそのストーリーを全面的に受け入れること」といい、実際にカットのみだとしても通常の倍の時間を取っていると明かした。
抗がん剤投与前の準備について「髪が長ければ長いほど脱毛していく過程は精神的ストレスが大きい。また、ウィッグの使用期間は短いほうが良いとも思っています。そのためには脱毛前に思い切ってショートヘアを提案するべき」、投与中の頭皮ケアは「“抗がん剤”“脱毛”とネットで検索すると、オーガニックのシャンプー剤などたくさんの商品が出てくる。僕は新しいシャンプーに変えなくても大丈夫とお伝えしていて、自分はがん患者なので専用のものを使ったほうがいいと思い込み、ストレスを感じてしまうことのほうが心配」と率直な思いも語る。
ウィッグについての講義では、医療用とファッション用の違いを説明し、人毛と人工毛それぞれのウィッグを受講者に回覧。ハーフウィッグをつける際の帽子の選び方、カチューシャやターバンにエクステをつけた手作りヘアアクセサリー、治療中のメイクのポイントや爪の損傷に対するメディカルネイルまで紹介。最後に受講者をモデルに、上野さんがウィッグのかぶり方やカット方法を実演した。