顔出しNGの漫画家・松浦だるまと匿名デビューのセクシー女優・夏目響が異色対談
「顔に出る」「会社の顔」といった言葉があるように、顔は対社会においても大きな意味を持つ…のではあるが、現在、日本では新型コロナウイルスによる感染症の拡大防止のため、ほとんどの人がマスクをして人に会っている。顔のほとんどを隠し、表情すらも見えない状況の中で取るコミュニケーションにすっかり慣れてしまい、さほど不便も感じなくなった人も多いのではないだろうか。となると「顔」っていったいなんだろうとも思えてくる。特に美醜で一喜一憂することについてはなおさらだ。ということで漫画家の松浦だるまとセクシー女優の夏目響という異色の顔合わせとなった対談で「顔」や「美醜」について語ってもらった。
漫画『累 -かさね-』を通じて語る「顔」について「美醜」について
松浦は現在「ビッグコミックスペリオール」で『太陽と月の鋼』を連載中の漫画家。夏目はSODで昨年デビューしたセクシー女優。一見、接点のない2人をつないだのは松浦がかつて「イブニング」で連載し映画化もされた『累 -かさね-』という作品だった。
夏目「累の1巻を本屋さんで見たのが最初でした。4巻が出たくらいだったと思います。そのころ頻繁に本屋さんに行っていて、気になる漫画を買いあさっていたんですが、そのうちのひとつが累でした。漫画の単行本って何カ月かに1冊というペースで出るじゃないですか。こんなに次の巻を待ち遠しいと思った漫画はそれまでありませんでした」
松浦「ありがとうございます。私は夏目さんがポップを描いてくれているのを見て夏目さんのことを知りました。素敵なポップでした。あとはnoteで文章を拝見したんですが、今描いている作品の感想も素敵でしたし、それ以外の文章についてもすごく素敵な文章を書かれる方だなという印象を持ちまして、自分の作品の感想の記事以外も全部読んでしまいました。ファンの方をすごく大事にされていますよね。同じ目線で語っていらっしゃって、その人の人生にすごく気を使っていらっしゃる感じがしました」
ポップというのは以前、まんだらけの企画で夏目が『累』のポップを描いたこと。それをファンを通じて松浦が知ったことから今回の対談が企画された。
夏目「私は少年漫画も少女漫画も好きで、1巻しか読んでいないけど全4巻揃えているような作品もあるんです。読んだら完結してしまうじゃないですか。自分の中でまだ終わりたくなくて、ずっと1巻で止まっているんです」
という独特の距離感で漫画に接する夏目から松浦に質問。
夏目「現在連載中の『太陽と月の鋼』なんですが11話から読みがながひらがなからカタカナに変わったんですけど、それはなぜなんですか?」
松浦「それは明(あき)の話に切り替わったからです。それまでは月の話なので。単行本1巻のサブタイトルはずっと月の呼び名なんです」
夏目「あっ、そうか! それぞれどういう意図なのかと思いながら見ていたんですが、月の名前なんですね。なるほど」
松浦「新月からどんどん満ちていくように明の話に進んでいきました。なかなか明の話が終わらないので太陽の天文用語がネタ切れを起こしています(笑)。細かいところまで読んでくださっていてうれしいです」
夏目「すっきりしました。一つ一つのお話のタイトルも絶対意味があってつけていると思っていたんですが、勉強不足で気づきませんでした」
松浦「恐らく、夏目さんは日本一この作品を深く読んでくださっているんじゃないでしょうか」
夏目「漫画家になって良かったことってどんなことですか?」
松浦「いっぱいあるんですが、あえて言うとなると難しいですね。自分が描いた作品にお金を払ってもらえるというのがいまだに奇跡的なことだと思っています。自己肯定感が薄いということもあって“読んでくれる人がいるんだ。うれしい”みたいなチープな言葉になってしまうんですが“読んでもらっている”ということに尽きると思います」
夏目「書いている途中で投げ出したくなることはありますか?」
松浦「あります(笑)。最近の悩みで、調子が悪い時に自分が面白いと思うことが分からなくなるということがありました。面白いと思うことを描かないといけないのに“でもこれって面白いのかな?”と疑ってしまって。そんな時に“無理かもしれない。投げ出したい”と思うことはあります。切実な問題です」
夏目「そんな時の息抜き方法は?」
松浦「ツイッターとかYoutube…」
夏目「ラッコ?」
松浦「そうです(笑)。今はラッコが漫画以外のすべてなんです。ラッコを24時間配信しているカナダの水族館があるんです。いろいろな生態やキャラクターがあって面白いんです。ラッコが今の息抜きです。疲れた時に見るとラッコが悠々と泳いでいる(笑)」
夏目「ツイッターをフォローさせていただいていて、松浦さんを通して、ラッコを知りました(笑)」
夏目「台詞は今まで自分が読んできたものの積み重ねで出てくるのですか?」
夏目「作品を書くときは最初からある程度結末が決まっているんですか?」
松浦「おおまかな結末のイメージはあります。途中で思いついたことで変わっていくところはあります。でも完結した作品がまだ一つしかないので。累の時は最初から見えていました。逆に途中は見えていなかったので綱渡りでやっていました」
夏目「『いまかこ』もですか?」
松浦「そうです。作り方としては『累』も『いまかこ』も『太陽と月の鋼』も、自分のそのままを投影するようなことはしていなくて、自分の一部を取り出して、それをもとにキャラクターを作っています。でもいまかこは、大熊という男の子が出てくる話はちょっと自分を出しすぎたかもしれないです」
夏目「松浦さんが尊敬している人はいますか?」
松浦「手塚治虫先生です。ベタなんですけど。一番尊敬しています」
夏目「漫画家さん以外では?」
松浦「父ですかね。いろいろな漫画を見せてくれたり、影響が強いんです。水木しげる作品などの入り口を作ってくれたのが父。あまり自分の世代で出会わないような作品を読む機会を作ってくれました」
夏目「漫画を描くときって、描こうと思って題材を探すんですか? それとも気になるものがあって、それを漫画にするんですか?」
松浦「アイデアが先です。累だったらキスをすると顔が入れ替わるというアイデアからでした。太陽と月の鋼は武士なのに刀に触れられない、武士になり切れない人とか。そういうところから思いついて始めています」
夏目「累とはだいぶ流れの勢いが違うと思うんですが。違う人が描いているんじゃないかと思うくらいです。時代背景とか内容で作風を変えているから前とは違うのかなって思ったんですけど」
松浦「扱うテーマとか、たとえば絵柄は作品にあった絵柄が出てきたらいいなと思っています。累ももともとああいう絵ではなかったんです。1巻と最後のほうでは絵柄が違います。作品によって変えています」
夏目「台詞は今まで自分が読んできたものの積み重ねで出てくるのですか? それとも考えていなくても先生の中から出てくるものなのですか? 心に入ってくる台詞があったんですが、そういう台詞はどのように生まれているんですか?」
松浦「どうなんでしょう。詩なんかを読むのが好きなので。いろいろなものの影響を受けていると思います。文章も絵も、もともとないものを形にしていく作業だと思うんですが、自分の中にある状態だとすごくもやもやしていて、絵にも文章になっていないんです。それをどうやって作品にできているかは分からないです。本質的な質問ですね。文章だけではなく絵も一緒なんですが、ただ説明をするだけではないじゃないですか。作品で描かれている要素って箇条書きにもできてしまいます。でも、そうではなくて台詞で言う、キャラクターが言う。情景がある。それに感情があるとかで伝わり方が全然違うと思います。そういうものを伝えるうえで工夫したいとは常々思っています。その時に、例えば文章なら詩だとか、抽象的だけど語感が面白いとか、そういうものに影響を受けているのは良かったかなと思います。ストレートに説明するのではなく、別の形で表現するということですね」
夏目「時々、すごく心に来る言葉があって、読んでいる時の自分の心情とかにもよるんですが、泣きそうになることもあるんです。漫画だから絵ももちろん好きなんですけど、そういう言葉選びとかも好きな人はたくさんいると思います」
松浦「深く読んでいただいてありがとうございます」