しくじり先生の収録で目撃した、相方・吉村のあまりに蛮勇なスター気質〈徳井健太の菩薩目線 第129回〉
“サイコ”の異名を持つ平成ノブシコブシ・徳井健太が、世の中のあらゆる事象を生温かい目で見通す連載企画「徳井健太の菩薩目線」。第129回目は、『しくじり先生 俺みたいになるな!!』の収録で遭遇した相方・吉村崇の言動について、独自の梵鐘を鳴らす――。
『しくじり先生 俺みたいになるな!!』に出演させていただいた。
ご覧になった方もいると思うけど、“ネタは天才的におもしろいのに、大成できなかった芸人”をテーマに、僭越ながら俺が特別授業を行うという内容だった。
『カリカ』、『バッドボーイズ 』、『囲碁将棋』の三組を取り上げ、熱弁を振う。改めてこうやって三組を並べてみると、やっぱりもっと売れていてもおかしくない面子。『M―1グランプリ』の決勝に進出することは叶わなかったけど、お笑い好きなら万難を排してでもライブを見たい強者たちだ。
俺自身、楽しい収録だったので饒舌になってしまい、2時間くらいカメラは回っていたと思う。すでにカリカさんは解散をしているけど、今回しくじり先生で取り上げるにあたり、事前にお二人には許可は取って、いろいろな思いを吐露させていただいた。若手時代、単独ライブの手伝いをしに行くなど公私ともにお世話になったので、こういう形ではあったけど、カリカさんについて話をすることができて心の中がスッとした。
一方、バッドボーイズさんと囲碁将棋は解散していない。バリバリの現役。理想を言えば、本人たちが登場し、その上でストレートに気持ちをぶつけたいところがあった。当人たちがいないまま長所と短所を語るのは欠席裁判っぽくなってしまうため、感謝と申し訳なさを感じつつ、愛情をもってバッドボーイズと囲碁将棋について考察したつもりだ。
後輩とはいえ囲碁将棋の実力は折り紙つき。でも、舞台はしくじり先生。しくじりと名がつく以上、何がダメなのかを語らなければいけない。そこで俺は、「囲碁将棋はネタを M― 1仕様にフォーカスしすぎたんじゃないか」といったことを説明した。 M―1で勝つためだけの漫才を作っていたがゆえに、突き抜けられないところがあったんじゃないのかなって。ファイナリストであるオードリーの司令塔、若林君の考えを聞いて、やっぱり M―1の決勝は、「勝つ」だけを考るだけでは厳しいんだなと再認識した学びのある収録だった。
(ハライチ)澤部も若林くんも、「そうだよなぁ」なんて俺の話に頷いてくれる。この二人が頷いてくれるだけで、夏侯惇と司馬懿を手に入れた曹操のような気持ちになる。
気持ちよく湯につかりながら、レギュラー陣の一人である相方・吉村崇に、「俺たちも囲碁将棋とは無限大ホールで一緒だったけど、あのときから面白かったし人気も高かったよな」と振ってみた。すると、吉村は
「んま~俺の敵じゃないね」
と、言い放った。こんなところに悪来がいやがった。明らかに今は、みんなが囲碁将棋を持ち上げているアゲアゲのターン。にもかかわらず吉村は、たった一人で冷や水をまき散らしながらの騎単駆け。虚を突かれた俺たちは、いっせいに目を見開いた。
どう考えても、目の前にうまいラーメンが運ばれてきて、それ食べるなら第一声は「美味しい!」でいいと思う。それなりの人気店で、実際にお客さんもよく通うラーメンが目の前に運ばれている。でも、吉村は一口スープをすするなり、「ダメだ」と絶叫しながら食レポした。
「みんなが囲碁将棋のことを褒めるから俺は悔しくなった!」(吉村)
俺は嘘だろって思った。もう40のおじさんだぜ。そして、「こいつヤバいな」とも思った。
自分よりもチヤホヤされているというだけで、いつもは完璧なチームプレイができる人間が、突如狂う。とっくの昔に野生を忘れたと思っていた飼い犬が、ある日突然、獰猛な動物に戻るように、40歳が蛮勇をむき出しにする。ウケる、ウケないじゃなくて本能を丸出しにできる、 その姿勢に恐れ入った。
結果、若林君が「吉村君はテレビでいろいろ頑張ってるもんね」とフォローを入れる。突然泣き出した赤子をあやすように優しく手を握ってくれる若林君は、母性のかたまりだ。
吉村は、アイドル気質なのかもしれない。
思い返せば、あいつは他の芸人の単独ライブに足を運ぶのが好きではなかった。その理由は、自分より目立っている人間が同じ空間にいることが許せないから、らしい。単独ライブは、お笑いについて勉強できる機会でもあるわけだから、「俺もああいう風にウケたい」、そんな刺激を全身に浴びる同業者が多い。ところが、吉村は「俺より目立っている人がいることが許せない」という。
恐ろしいことに、その感情は芸人に限ったことではないようで、アイドルのコンサートなどでも同じだと言っていた。自分より目立っているのが悔しいらしく、「吉村がいる」ということを気付かれたいがために、過去には意図的に掛け声をずらして、自分に注目が集まるようにしていた――というから大出禁野郎だろう。
本人も迷惑をかけているという自覚があるため、以後、そういう場には苦手だから行けないと言う。でも、主宰・主演は譲りたくないらしい。令和の初代桂春団治。こうなったらスーパースターを目指してほしい。
1980年北海道出身。2000年、東京NSC5期生同期の吉村崇とお笑いコンビ「平成ノブシコブシ」結成。「ピカルの定理」などバラエティ番組を中心に活躍。最近では、バラエティ番組や芸人を愛情たっぷりに「分析」することでも注目を集め、22年2月28日に『敗北からの芸人論』を発売。「もっと世間で評価や称賛を受けるべき人や物」を紹介すべく、YouTubeチャンネル「徳井の考察」も開設している。吉本興業所属。
公式ツイッター:https://twitter.com/nagomigozen
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