麒麟の田村さん、若手の色彩わんだー、励まされる言葉って大切だよね〈徳井健太の菩薩目線 第140回〉

“サイコ”の異名を持つ平成ノブシコブシ・徳井健太が、世の中のあらゆる事象を生温かい目で見通す連載企画「徳井健太の菩薩目線」。第140回目は、励まされるメッセージについて、独自の梵鐘を鳴らす――。

徳井健太

『デイリー新潮』で「逆転満塁バラエティ」のスペシャル版として、麒麟さんについて書かせていただいた。この連載がベースとなり、『敗北からの芸人論』は誕生したわけだけど、特別版なので本書には未掲載。未読の方は、ぜひお読みいただければうれしいです。

 正直に言うと、麒麟のお二人とは特別に仲がいいというわけではない。勝手に、私徳井健太が畏敬の念を持って眺めているだけの存在。でも、自分なりに思っていることを素直に書いたつもりだ。

 今では麒麟さんと言えば、スーパーサイヤ人よろしく、なんでもできる最強芸人の川島(明)さんが目立っているかもしれないけど、田村(裕)さんだって、芸歴わずか8年目に刊行した自叙伝『ホームレス中学生』で225万部の大ヒットをたたき出したすごい人。

 麒麟は、お二方とも品が良くて、とんでもない才能を持っているコンビだと思う。コラムでは、川島さんだけではなく、田村さんのすご味についても書かせていただいた。 田村さんは、世間的には“いじられる”キャラクターのように思われているけど、そのキャラクターを甘んじて受け入れている……本当はもっと絶対にできるすごい人だと思っている。

 コラムが掲載されると、田村さんから LINE が届いた。「ありがとう」と感謝の意を伝えるメッセージだった。滅相もない。届いた文面からは、田村さんの人柄がにじみ出ていて、そのメッセージを受け取った俺はとてもうれしかったし、心が温かくなった。田村さんは、品が良くて優しい人なんだ。

 勝手に考察することに対して、眉を顰める芸人がいることも知っている。でも、その一方でこんなに温かくて勇気が出るようなメッセージを送ってくれる人もいる。やっぱりやってみて初めてわかることってたくさんある。だから、やったほうがいいんだなと思う。

 この前、『出張!徳井の考察』で無限大へ行くと、東京NSC20期生の「色彩わんだー」という若手がライブ前に楽屋を訪問してきた。「見学させていただきます」。そう挨拶され、二言三言、言葉を交わす。

 終演後、まだ彼は残っていた。

「あの……徳井さんのお酒飲んでしゃべるラジオ(「酒と話と徳井と芸人」)、全部聴いていました。徳井さんがいなければお笑いをやめていたと思います」

 突然、言われた俺は、「こんな奴がいるんだ」とびっくりした。ささやかながら謝意を伝え、ひげを剃っていると、まだ彼は帰らない。どうしたの? と聞くと、

「僕らはトリオでやってるんですけど、一回やめようと思って。でも、徳井さんのラジオを聴いて。今まで賞レースに向けて頑張っていたんですけど、ちょっと人間ぽい漫才をやろうと思っていて」

 そして、 「それが完成しかかっているんです」と続けた。

 自分から「完成しかかっている」なんて豪語するからには、首を突っ込まずにはいられない。

 話を聞くと、どうやら彼らは神保町をベースに経験を積んでいるらしい。おそらく、 9番街レトロや10億円あたりとしのぎを削っているんだろう。その世代、神保町というワードを聞いた俺は、「だったら尖っている奴がかっこいいみたいな風潮があるんじゃない?」なんてことを聞いてみた。

 すると、わんだーは「そうなんですよ」と教えてくれた。裏側についてはまったく口を開かずに、真面目なことなんて言わずに、ひたすらボケ倒していく――。若手特有のそんな世界が広がっている。俺たちが若かった頃もおんなじ。

 人間っぽい漫才をしているだろう色彩わんだーのようなネタは、メインストリームからは外れることになる。評価されたり、ウケたりする機会も少なくなると思う。 

「徳井さんの YouTube などを拝見してると、結局最後は人間の感情だっていうことを教えられるので、それにすごく励まされているんです」

 まだ29歳だと言っていた。頑張りすぎないくらいで頑張って――としか声をかけることはできなかったけど、そんな言葉をかけてくれる子が若手の中にもいるんだなと思うと、うれしいやら申し訳ないやら面映ゆいやら。でも、やっぱりうれしかった。やりがいがある。自分が放つ言葉には、きちんと責任を持たなきゃいけないなと襟が正される思いがした。

 どこの誰が、自分が発した言葉に影響を受けているかなんてわからない。まさか、やめようと思っていた子を勝手に勇気付けていたなんてね。俺も頑張ろう。明日もまた頑張れるのは、どんなにささやかでも血が通っている言葉があるからだと思う。

【プロフィール】
1980年北海道出身。2000年、東京NSC5期生同期の吉村崇とお笑いコンビ「平成ノブシコブシ」結成。「ピカルの定理」などバラエティ番組を中心に活躍。最近では、バラエティ番組や芸人を愛情たっぷりに「分析」することでも注目を集め、22年2月28日に『敗北からの芸人論』を発売。「もっと世間で評価や称賛を受けるべき人や物」を紹介すべく、YouTubeチャンネル「徳井の考察」も開設している。吉本興業所属。
公式ツイッター: https://twitter.com/nagomigozen 
YouTube: https://www.youtube.com/channel/UC-9P1uMojDoe1QM49wmSGmw