金融教育ディレクター・橋本長明さんに聞く 知っているようで知らない「金融教育」
今年度から高等学校で「金融教育」の授業がスタートした。これに合わせて、小学生から金融リテラシーを学べる解説書『すてきな相棒!おかね入門』(リトルモア)が出版された。著者は日本銀行で「金融教育」の概念作りや「金融教育元年」事業などに携わり、現在は金融教育ディレクターとして活動する橋本長明さん。橋本さんに、なぜ今「金融リテラシー」が必要なのか教えてもらった。
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毎日使っているのによく分からない「お金のこと」
今回、「金融教育」が学習指導要領に組み込まれた経緯を教えてください。
「金融教育は、日本でもさまざまな団体が幅広い層に対して地道に行っていたものです。2000年代に多重債務や自己破産が社会問題になり、2005年を『金融教育元年』と位置づけ、学校における金融教育の推進に力を入れるようになりました。同時に2006年から『金融教育フェスティバル(現・金融教育フェスタ)』を開催するなど啓蒙活動を行い、ようやく2020年度に小学校、2021年度に中学校、2022年度に高等学校の学習指導要領に金融教育が導入されています。
私自身は大人への金融教育の必要性も感じていて、2006年から個人でクリエーターやアーティスト向けに金融教育のワークショップを主催し、金融教育ディレクターとしての活動をスタートしました」
今年度から高等学校の家庭科と公民科を中心に「金融教育」がスタートしました。なぜ「金融教育」を学校で学ぶことが必要なのでしょうか。
「今、金融教育が騒がれている理由のひとつは、今年度から成年年齢が20歳から18歳に引き下げられたことです。高校在学中に新成人になる人が出てきて、親の同意を得ずにクレジットカードやローンなどさまざまな契約ができることになります。
もうひとつは、『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)』という書籍で提唱された“人生100年時代”という言葉です。日本では2007年生まれの子どもの半数が107歳まで生きると推計され、これまでの財政・社会保障制度を変えなければいけません。若いうちから資産形成を考えてもらう必要が出てきて、高校の家庭科に資産形成の視点を取り入れるという項目が追加されたんです。預貯金や保険、株式に加え、債券、投資信託など基本的な金融商品の特徴も授業で学ぶことになりました」
『おかね入門』では、お金の使い方に「消費」「投資」「浪費」の3つの意味があり、消費税の使い道やライフ・プランニングなど、大人でも知っているようで知らないことが書かれています。
「お金というのは、皆さんが持っていて毎日使っているのに、よく分からないことも多いですよね。お金にまつわることを知っていると、毎日暮らしている中で買い物ひとつとっても考え方が変わります。たとえば各国の経済状態を表すGDP(国内総生産)で、日本の半分以上を占めるのは個人消費です。皆さんがお金を使うことで、日本社会を元気にすることも確かなのです。 そういう知っているようで知らないことが、もう少しうまく皆さんに伝わるといいのになと思います。
この本では金融教育の『お金の価値観』『お金を使う』『お金を稼ぐ』『おこづかい帳のつけ方(金銭管理)』の4つの基礎教育を中心に、小学5年生の習熟度に合わせた漢字表記とふりがなで解説しています。本の中にも書いているのですが、お金というのは何かをするための道具に過ぎません。もちろん使い過ぎてもいけないけど、ずっと大事に抱えて人生を終えるといった“使わな過ぎ”もよくないと思っています」