『ドキュメント72時間』、恵迪寮の“その後”を追って。そこは小さな国だった。〈徳井健太の菩薩目線 第143回〉
“サイコ”の異名を持つ平成ノブシコブシ・徳井健太が、世の中のあらゆる事象を生温かい目で見通す連載企画「徳井健太の菩薩目線」。第143回目は、北海道大学の恵迪寮について、独自の梵鐘を鳴らす――。
皆さんもご覧になったかもしれない。
8月12日と14日の2夜連続。過去321回の中から視聴者投票で選ばれたベスト10 を振り返る、『ドキュメント72時間~歴代ベストテンスペシャル~』が放送された。さすがはNHKさん、膨大な数のアーカイブ。津々浦々の72時間かけることの321回。25038時間のドラマの復習。
この番組の魅力は、「こんな世界って素敵でしょう」とか「こんなの良くないよね」なんて言わないところ。感想は視聴者が勝手に思うことであって、番組側からは余計な目線付けはしない。72時間、ニュートラル。フラットな目線で、現場を追い続ける。
私、徳井健太は、スペシャルに合わせる形で 、北海道大学にある、100年以上の歴史を持ち400人ほどの寮生が暮らす「恵迪寮」――の“その後”を取材するため、北海道へと向かった。
恵迪寮は、運営を寮生自らが行う、全国でも数少ない自治寮だ。家賃は月1万円ほど。寮費を含めたお金の管理や運営も寮生が行う自治寮(先生などは全く介入しない)は、かつては旧帝大を中心にそれなりに存在していたそうだ。しかし、時代が下るとともにその数は減っていき、今では北大の恵迪寮を含め、数えるほどしかないという。
恵迪寮を見学させてもらい、寮生さんたちの話を通じて感じたことは、恵迪寮は「小さな国のような場所」ということ。 家賃などのお金を収めると、寮生から選出された執行委員会などが、プールされたお金をどのように使っていくかを決めていく。代表民主制の下に運営が行われている。なんでも今年は雀卓を買ったらしく、当然、批判の声も届いたと話していた。政治そのものだ。
毎年、寮歌も作り変えるそうだ。もちろん、作詞作曲も寮生。歴代の寮歌がストックされ、寮歌用のアプリもあると教えてくれた。このアプリもメイドイン寮生。寮歌は、そこで暮らす人、ほぼ全員が歌える。
寮の中にも大部屋と個室があって、馴染もうとしない人は個室に住んでいる。彼ら彼女らは寮歌も歌わないし、寮の中で行われる選挙にも行かないという。
またある人は、北海道大学ではなく、東京大学や京都大学を望んでいたと吐露する。縁もゆかりもない北海道、お金に余裕があるわけじゃない。そういう人たちも恵迪寮に集まってくる――、「だからマウントを取るみたいなことは起こらない」と笑っていた。取材中、通り過ぎる女の子たちも普段の姿のままで、テレビ用に着飾るという雰囲気もなかった。
そうした世界が、一つの国を見ているようだった。
難関の国立大学を目指してきたような子たちは、たくさん勉強をしてきたに違いない。やりたいことやほしいものを諦めたことだって、一度や二度じゃないはずだ。受験戦争という言葉があるように、10代から周りの芝生の青さをいつも意識しながら、何かに追われながら生きてきた子どもたちもたくさんいるだろう。
そういう子たちが、恵迪寮のような世界に身を置いたとき、もしかしたら初めて自由を感じるのかな、なんてことを思った。良いか悪いかなんてわからない。でも、ここからはまったく嘘くささを感じなかった。
北大のなかでも、恵迪寮に暮らす寮生たちは毛色が異なるということを寮生たちは話していた。大学の中の独立国家。自由とアナーキーは表裏一体。自由な空気に魅入られ、楽しくなってしまったあまり、留年する学生も多いらしい。 北の台地で、寮生の姿を追っていくうち、いろいろな道があるのだと感慨深かった。
もし、自分が大学生になっていたらどんな大学生活を歩んでいただろう。一刻も早く家を出たかった俺は、高校卒業と同時に上京してNSCに入った。なんちゃってでもいいから自立したかった。
本当に自由気ままに生きていると思う。でも世の中には、そうではなくて壮年期を迎えた元学生たちもいる。自由を知っている恵迪寮生たちが、どんな大人になっていくのか――。だから、「その後」を知りたくなったのだと思う。
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