活気って愛なんだ。センスよりも活気を意識してみませんか?〈徳井健太の菩薩目線 第162回〉

平成ノブシコブシ・徳井健太

“サイコ”の異名を持つ平成ノブシコブシ・徳井健太が、世の中のあらゆる事象を生温かい目で見通す連載企画「徳井健太の菩薩目線」。第162回目は、活気について、独自の梵鐘を鳴らす――。

 仕事で福岡へ行く機会があったので、“鉄板焼肉”というソウルフードを初めて食べてみた。その名の通り、鉄板の上で焼かれた肉とキャベツとニンニクが、これでもかというほどジュージューと音を立てている。

 これをそのまま食べても十分おいしいんだけど、“鉄板焼肉”の食べ方には流儀があるらしい。まず、鉄板の端っこに専用の木の棒を置き、傾斜を作り出す。すると、傾いた鉄板を流れるように、肉やキャベツの旨汁が鉄板の谷へと流れていく。そこに特製の辛味噌を溶いて、そのタレとともに肉やキャベツを食べるという具合だ。

 お世辞抜きで、マジでうまい。昭和の佇まいを残すその店は、のれんをくぐることに少しの勇気がいるけれど、異様な熱気に包まれ、次々とお客さんが押し寄せる。地元でも有名な超人気店だった。

「お味噌汁は何杯でも無料なんで召し上がりください~」

 そんな言葉にすら活気がまとっている。いや、活気だらけなんだ。スタッフであるおばちゃんたちは、方々のお客さんに対して、「おいしい!?」とか「味噌汁飲んでね!」なんて声をかけ、まるでお客さんを鼓舞するかのように立ち居振る舞う。ワールドカップで見たアルゼンチンのロッカールームみたいだ。

 うまいし安いし優しい。その多幸感を生み出しているのは、この店の活気に他ならない。

 お笑いをやってきて、活気というものをあまり大事にしてこなかったように思う。そもそも、平成ノブシコブシでいえば、相方である吉村が活気担当みたいなところがあるから、自ら活気を意識するということがなかった。

 でも、この地元から愛される人気店を体感して、活気ってあるにこしたことがないんだなと痛感した。お客さんに楽しんでもらうための明るさや声の大きさ、元気さって、実はそれだけでお金を出す価値がある。

 あいさつも同じだ。「こんちわー」ではなくて、「こんにちは!」と声をかけた方が気持ちがいい。自分にそれができているかと問われると、なかなか自信を持てないけれど、そういう意識が頭の片隅にあることが大事なような気がする。

 たとえば、ロケ番組。「すいません……今ロケをやってるんですけど」と断りから入ってしまうのと、「こんにちは! 今、テレビで〇〇をやってるんですけど、お話いいですか!?」では、その後のリアクションがまったく変わってくる。

 断りから入ってしまうと相手は身構えてしまう。でも、後者のようにこちらから飛び込むように活気を伝えると会話のキャッチボールが成立しやすくなる。すべては活気次第なんだ。

 ちょっと想像してみる。ものすごく活気にあふれたお祭りに遭遇したら、なんだか楽しくなって、財布の紐も緩みそうじゃないか。でも、何やら儀式めいた厳かなお祭りだと、萎縮してしまって、楽しもうなんて気持ちにはなれない。

 活気って愛だ。だから、どんなお店にも、どんなジャンルにもあった方がいい。でも、ただ単に声を出して盛り上げればいいって意味ではない。活気と喧騒は別物。静かなスペースでも、たくさんお客さんがいて独自の楽しみ方をしていれば、言葉として矛盾しているかもしれないけど静かな活気を感じる。

 年齢を重ねてくると、結局、センスよりも活気が大事なんだなっていうことがわかってくる。年を取るからこそ活気が必要だ。若い頃は、自分のセンスを見てくださいよ――なんて気持ちもあって、活気の部分に対して斜に構えてしまったり、おざなりにしてしまったりすると思うけど、活気って愛なんだからあった方がいい。

「あいつは元気しか取り柄がない」と言われている人が、なんだかんだで仕事でそれなりに結果を残しているのは、そういうことなんだろう。「なんであんなセンスのない奴が」と釈然としない気持ちになるかもしれない。だけど、活気に勝るものはない。ほんの少し活気を自分の中に宿してみるだけで、現状って変わってくるものだと思う。

 定期的に自分の中に活気を取り入れていこうじゃありませんか。活気を宿すためには、活気のある場所へ足を運んでみるのが手っ取り早い。 飲食店に行くにしても、イベントに出かけるにしても、活気があるという視点で選んでみると、きっと発見がある。

【プロフィル】
1980年北海道出身。2000年、東京NSC5期生同期の吉村崇とお笑いコンビ「平成ノブシコブシ」結成。「ピカルの定理」などバラエティ番組を中心に活躍。最近では、バラエティ番組や芸人を愛情たっぷりに「分析」することでも注目を集め、22年2月28日に『敗北からの芸人論』を発売。「もっと世間で評価や称賛を受けるべき人や物」を紹介すべく、YouTubeチャンネル「徳井の考察」も開設している。吉本興業所属。
公式ツイッター:https://twitter.com/nagomigozen 
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