話すことが苦手な人は、聞くことを得意なことにすればいいと思う〈徳井健太の菩薩目線 第176回〉

平成ノブシコブシ・徳井健太

“サイコ”の異名を持つ平成ノブシコブシ・徳井健太が、世の中のあらゆる事象を生温かい目で見通す連載企画「徳井健太の菩薩目線」。第178回目は、話を聞くことについて、独自の梵鐘を鳴らす――。

『敗北からの芸人論 トークイベント』、その vol.6のゲストはいとうせいこうさん。せいこうさんとは、『楽しく学ぶ! 世界動画ニュース』で共演させていただいていることもあって、オファーさせていただいた。

 いつもは芸人を呼んで、あれこれ聞いていくトークライブだけど、この日は異業種のビッグネーム、いとうせいこうさん。聞きたいことが山ほどあった。

 共演させていただいているものの、せいこうさんのことを知っているようで、知らない。そこで学生時代の話から尋ねると、勉強が好きで弁護士を目指していたと教えてくれた。

 早稲田大学法学部に受かったはいいものの、「いきなり燃え尽き症候群、今でいううつ病になってしまった。死ぬことばかり考えていた」と聞かされ驚いた。そんなせいこうさんを救ったのが、たまたま楽器屋で購入した打楽器のボンゴだったそうで、「光り輝いて見えた」というそのボンゴをきっかけに、せいこうさんはバンドを作り、それが局地的に話題となり、放送業界の人と接点を持つようになったという。その縁で、タモリさんの「オールナイトニッポン」の裏方を任される――。このとき、まだ大学生というんだから、どれだけ濃い時代を過ごしていたんだろうって想像してしまう。

 その後、日本のヒップホップに影響を与えるような活動を新たに始めるわけだから、せいこうさんはボンゴと出会い、リズムに救われた選ばれし人だったのかもしれない。

 せいこうさんに当時のヒップホップのことを聞くと、「休符をどうやって隠すかにこだわった」と返ってきた。「ナントカの、ウン」のウンの部分。句読点というか息継ぎの休符をそのまま残すとダサくなってしまう。だから、この「ウン」の部分を埋めるためにあれこれ考えた――そうだ。そんなこと考えたことなんてない。驚くとともに、少しうらやましくなってしまった。

 そして、駆け出しの芸人だった俺が、せいこうさんを強烈に認識した番組が、テレビ朝日の土曜深夜の名番組『虎ノ門』(のちに『虎乃門』など名称変更を繰り返す)だった。この番組でせいこうさんは、カメリハをはじめとした番組作りのルールを理解したそうだ。もっと早くからテレビのことを知り尽くしていたと思っていただけに、意外な告白だった。

 これだから人の話を聞くのは楽しい。芸人はインタビューを受ける機会もあるけれど、個人的には「聞く」方が好きなんだと思う。「聞く」側に回った方が自然な感覚で立ち回れるということもあって、音声コンテンツ『酒と話と徳井と芸人』は肩ひじ張らずにできたんだろうな。

 話を聞くとき、「順番」にとても気を遣っている。自分がインタビューをされると、若手の頃の思い出、ターニングポイント、ブレイクしたきっかけ……などなど順番通りに聞かれることが多い。自然と流れを振り返れるから、不思議なもので話しやすくなる。

『酒と話と徳井と芸人』のゲストとして、天竺鼠と話をする機会があった。彼らとは二回くらいしか話したことがなかったから、一筋縄でいくはずがない。特に、川原に対していきなりお笑いの話をしてもひらりとかわされることは目に見えていたから、天竺鼠の馴れ初めを含めた、彼らの生い立ちから聞くことにした。自分を『お笑いポポロ』のライターだと思って。

 最初から核心の話なんてしてくれない。だから、外側から順々に聞いていく方がいい。カレーパンを食べるとき、一口目でカレーの部分だけをほおばることはできない。まずは、衣を楽しむ余裕を持ちたい。

 そして、あまりハイスピードで突っ込まない。

「役に立たないがらくたを集めています」と言われたとき、心の中で「ウソでしょ!?」「なんで!?」と思っても、その人にとってはすごく大事なことなのかもしれない。傷つけてしまう可能性だってある。だから、一拍置いてから突っ込みたい。プライベートも同じ。お酒なんか入っているときは、とりわけアクセルを踏み込みがちだけど、そういうときこそブレーキが大事だと思うんです。

 そういえば、相方である吉村は、ハイスピードの王様みたいな突っ込み方をする。

 たとえばロケで出会った人と話をしている最中に、「両親がなくなってしまって」と告白された場合。吉村は、すぐに「大変ですね」と反応する。でも、俺は大変じゃないかもしれないし、もしかしたら亡くなったことで何かが好転したことだってあるかもしれない。だから、「待つ」。

 視聴者次第で、「吉村さんって優しい」となるかもしれないし、「徳井は無反応で冷たい奴」になるかもしれない。でも、隣でアクセルを吹かしている人がいるなら、誰かがブレーキにならないと。結果的に、それが面白さにつながればいい。「聞く」ということを意識すると、結果的に得るものがたくさんあるんだよね。話すことが苦手な人は、聞くことを得意なことにすればいいと思う。

≪インフォメーション≫
8/10(木)開場18:30/開演19:30
平成ノブシコブシ徳井
#敗北からの芸人論 トークイベント vol.7
ゲスト:マシンガンズ

会場¥2000+D
https://yoshimoto.funity.jp/r/nobukobutokui/

配信¥1500
https://online-ticket.yoshimoto.co.jp/products/nobukobutokui230810
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【プロフィル】
1980年北海道出身。2000年、東京NSC5期生同期の吉村崇とお笑いコンビ「平成ノブシコブシ」結成。「ピカルの定理」などバラエティ番組を中心に活躍。最近では、バラエティ番組や芸人を愛情たっぷりに「分析」することでも注目を集め、22年2月28日に『敗北からの芸人論』を発売。「もっと世間で評価や称賛を受けるべき人や物」を紹介すべく、YouTubeチャンネル「徳井の考察」も開設している。吉本興業所属。
公式ツイッター:https://twitter.com/nagomigozen 
YouTube:https://www.youtube.com/channel/UC-9P1uMojDoe1QM49wmSGmw