愛と平和と金とエンタメ、その絶妙なバランスを「さよなら ほやマン」から教えてもらった【徳井健太の菩薩目線 第186回】

平成ノブシコブシ・徳井健太

“サイコ”の異名を持つ平成ノブシコブシ・徳井健太が、世の中のあらゆる事象を生温かい目で見通す連載企画「徳井健太の菩薩目線」。第186回目は、試写会について、独自の梵鐘を鳴らす――。

 

 11月3日に公開されるMOROHAのアフロさんが主演を務める『さよなら ほやマン』の試写会へ行ってきた。

 アフロさんとは何度かお会いしたことがあり、「今度ご飯でも行きましょう」なんて話していたのに、口約束になってしまっていた。ごめんなさい。なのに、アフロさんは、「よろしければ試写会に来ませんか」と誘ってくれた。

 宙ぶらりんのような状況で、「~~しましょう(しませんか?)」と声を掛けるって、とても勇気のいることだと思う。おまけに、僕は気難しそうな雰囲気があると思うから、いろいろとアフロさんに気を遣わせてしまったなぁと申し訳ないやら、声をかけられてうれしいやら。

 試写会は、なんだか優しい空間に包まれている。試写会に来る人は、基本的に関係者やメディアにたずさわる人に限られる。これから、この作品に愛を注いで大きくしていこうという人たち、あるいはこの映画にかかわって、ものすごく汗をかいた人たち――。まるで、我が子を見守るように見つめている。愛と平和の約2時間。

 お金を使っている人と時間を使っている人と筋肉を使っている人は、エンターテイメントに優しい。たとえばお笑いのライブ。映画と比べるのも恐縮だけど、お金も時間も使って、そのライブに足を運んで、たくさん笑って、「面白かった」と言ってくれる。もちろん、中にはハズレもあるから、厳しく評すことだってある。お金や時間や筋肉(そこに来るまでの労力)を使っているんだから、「つまらない」と切り捨てたっていい。その感想は提言として、誰かの頭上に降りて来る。

 一方、無料で視聴することができるテレビとなると、なんだか優しさが消えてしまう。「もっと頭を使え」「○○はつまらない」などなど、その感想は上から目線で落ちて来る。

 どうして人は、お金を使わないものに対して厳しくなってしまうんだろう。逆に、どうして人はお金を使ったものに対して優しくなれるんだろう。愛を注いだ分だけ、思慮深さが生まれるのかもしれない。

 ネットニュースもそう。タダで読めるからなのか、やたらとコメントをしたがって、マウントを取りたがる。まるでお金を払って、時間を使って本を読んだかのように、あーだこーだと言いたがる。

 お金も時間も筋肉も使わない人のアドバイスや感想って、優しさがない。裏を返せば、優しさを育むためにはお金や時間や筋肉が必要なんだと思う。想像力は無料じゃないのだ。

 この世界でいろいろと仕事をするようになって、テレビはスポンサーさんがお金を提供してくれないと成り立たない世界だとしみじみ分かる。僕が若手だった頃、そんなことは一切分からなかったし、理解できなかった。お金=ギャランティー。その程度の認識しかないまま、芸人をやり続けていた。お金って直接的なお金と副次的なお金があって、後者の大切さを教えてあげないとダメだよなって、この歳になってようやく分かる。

 まだキャリアが浅い人には、お金の仕組みについて教えてあげた方がいいんじゃないだろうか。お金を出してくれる人がいるから、ライブやテレビに出ることができる。それってスポンサーさんだったり、足しげく通っているファンのおかげだよね。違う業界も、似たような構造があるはずだ。

 どれだけ面白いものを作ったって、それを表現できる場所がなければ、アンダーグラウンドで爆弾を作り続けているのと変わらない……かもしれない。別に、他者に感謝して芸を磨きましょう!みたいなことを偉そうに言いたいわけじゃない。そういう意識があるだけで、自分の選択肢って穏やかになるような気がするんだよね。

「丸くなったほうがいい」なんていう気はさらさらなくて、ふと立ち止まったとき、穏やかに考えることができるという選択肢を持つためにも、自分がいる世界の構造をきちんと理解しておくことはとても大切だと思う。

 お笑いだけを学ぼうとするなら、今はもうYouTubeにたくさん教科書になるような動画が散らばって落ちている。お笑いを教えるってことは、どうしたらウケるかだけじゃなくて、お笑いのシステムやお笑いのバックヤードも教えてあげないといけないんじゃないかな――なんてことを優しい世界を見て感じた。厳しさだけじゃ、もう想像力は育たない。

【プロフィル】
1980年北海道出身。2000年、東京NSC5期生同期の吉村崇とお笑いコンビ「平成ノブシコブシ」結成。「ピカルの定理」などバラエティ番組を中心に活躍。最近では、バラエティ番組や芸人を愛情たっぷりに「分析」することでも注目を集め、22年2月28日に『敗北からの芸人論』を発売。「もっと世間で評価や称賛を受けるべき人や物」を紹介すべく、YouTubeチャンネル「徳井の考察」も開設している。吉本興業所属。
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