英語も話せずアートを学びにNYへ…女性画家からのメッセージ「世界のどこかにある自分のright spotを見つけて」

KOH…東京出身。油絵画家。2016年にニューヨークに移住。パーソンズ 美術大学で成績優等生で美術学士号を取得。交換留学生としてロンドン芸術大学 美術絵画学士過程でも学ぶ。

「アメリカに渡ったのは3.11がきっかけだったんです」と振り返る現代アーティストKOHさん。

「実は震災の日、エレベーターに閉じ込められ初めて死を実感するという経験をしました。人生、いつ終わるか分からないんだ、と。自分が本当にしたい生き方って何だろうと考えるようになったんです」

 驚くのはそこからの決断力と行動力。

「自分が今一番やりたいことって何だろう、今一番住みたい場所はどこだろうと考えてみたら“NYに住みたい!”だったんです。どうせならと、ずっと憧れていたNYに一カ月後には住み始めました。自分でもびっくりでした(笑)」

 家族の仕事の都合で海外で暮らすことも多かったという。

「でもどこも短期間だったので、NYに渡ったときも私はまったく英語が話せなかったんです。それまで海外旅行にも1人で行ったことがないくらいで。もともとアートは好きでしたけど日本でアートを学んでいたわけでもなかったので伝手もなく、英語も話せないという状態だったんですけど…好奇心や“自分が一番したいことは何か”だけを考えて行動に移してしまった感じです(笑)。でもあれから8年が経って、本当にあのとき行動してよかったと思っています」

 昼間に語学学校に通い、夜は誰もが参加できる老舗のアートスクールからスタートしたという。

「最初の1年は自分の部屋から出るのも恐怖でしたね。自分は言いたいことを何とか伝えられても、向こうが言っていることが聞き取れないんです。普通にスラングを使ってくるので日常会話が難しいんですよ。勘で理解してました。なので最初の一年半くらいは英語習得の為に日本人相手でも基本英語でしか話さなかったので変な人と思われていたと思います。しかも私が住んでいるタイムズスクエアの辺りは変な人もいっぱいいるので、自分で言うのもなんですけど、英語ができない人が最初に住む場所ではないと思います(笑)」

 まさに体当たりで英語を習得したKOHさん。

「私もそうでしたけど日本の学校で英語を勉強したのに話せない日本人がほとんどですからね。本を出版するとかアカデミックな世界で論文を書くことを目標にするなら日本の英語教育が最高かもしれませんけど、日常生活で生きていくためには会話ができないと話にならないので、日本がそういう英語力が身に付く英語教育になればいいのですが。もし自分が何をしたいか迷ってるなら海外を経験することをおすすめします。旅行じゃなくて短期間でも住んでみてほしい。旅行だとお金を落としてくれるのでみんな優しいけど、住んだとたんに変わりますから(笑)。日本にいるときとは全く違う視点を持てるようになると思います。私の場合は家族で住む海外と一人で住む海外は風当たりが全然違いました。より現実に直面します」

 さまざまな困難に直面しながらも、NY生活を満喫。やがてコロンビア大学やロンドン芸術大学での学びを経てパーソンズ美術大学を卒業し本格的なアーティスト活動に。

「日本にいるときから写実スタイルが好きなのは今でも変わらないんですけど、やはりアカデミックにアートを学ぶことで自分の中でアートへの姿勢がガラリと変わりました。知った上で選んだ事と知らなくてそうなってしまう事は同じ結果でも納得感が違いますね」とKOHさん。

「私は、どんな嫌なことがあっても絵を描いていれば忘れられるんです。それって私の武器(HOME)だな、と思って。ファッションや音楽も好きですけど、やっぱり自分には絵しかないな、と。これなら海外でもやり続けていける、と思いました。それにアートは言葉の壁も何にもないので、どこへ行っても絵を見せれば自分が何者なのか、見えない物や気持ちを伝えられる。見せた絵を通じて、むしろ絵画系以外の友人がたくさんできました」

 現在はプロとしてもさまざまな依頼を受けながら、現代アーティストとして充実の日々を送っている。

「私が海外で暮らそうと思ったのは、日本から出たい気持ちが強かったことがあります。ずっと見た目で判断されることが多くてどこか窮屈さを感じることが多かったんです。他人の目を気にしてたら他人の人生になってしまいそうで…。見た目で判断されるのは日本もアメリカも同じですけど、アメリカの基準って貧乏そうかそうじゃないかといった単純な基準が多いというか(笑)。日本だと“出る杭は打たれる”というところがあるじゃないですか。とくに女性はおしとやかに、控えめにしておくのが良しとされがち。私は日本にいるときは“出る杭”だったんですけど、NYに来たら目立たな過ぎて。地味すぎて覚えてもらえいなので何とか“出る杭”になろうと日々頑張っています(笑)。

 NYのアート界も自由ですね。どこの大学を出たとか、どの先生に付いたとかあまり関係なくて、自分でコンセプトを込めれば何でもアートって言えちゃう、誰でもアーティストと言えちゃう自由さがあります。逆になんでそれがアートなの?って首をかしげるときもありますけど(笑)」

 自分のしたいことを選択できる環境を選んだ結果、NYでアーティストとなった今「どこで暮らしてもいいこととイヤなことがある」と語る。

「自分がどこでなら輝けるか、好きなことに夢中になれるか。私はたまたまNYのほうが、自分が悲観的にならない種類の“イヤなこと”だった。これは、私も人から言われたことなんですけど…“right spotに身を置きなさい”と。自分がいるべき場所で自分を認めてくれる人たちとつながれば可能性はさらに広がる。自分のright spotを見つけてほしいなと思います」

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