「vs野田」という新しい要素も加わり混迷続く自民党総裁選

(写真:アフロ)
 自由民主党の岸田行雄総裁の任期満了に伴う総裁選挙が佳境を迎えている。党員投票は9月26日に締め切り、議員投票は27日に行われ、党員投票と合わせ開票される。
 
 今回、立候補したのは経済安全保障担当大臣の高市早苗、前経済安全保障担当大臣の小林鷹之、官房長官の林芳正、元環境大臣の小泉進次郎、外務大臣の上川陽子、元官房長官の加藤勝信、デジタル大臣の河野太郎、元幹事長の石破茂、幹事長の茂木敏充の9氏(抽選の結果による届け出順)。
 
 当初はダントツの人気を誇る小泉氏が告示の12日に行われた所見発表演説会で「今回の総裁選は自民党が本当に変わるか、変えられるのは誰かが問われる選挙。自民党が真に変わるには改革を唱えるリーダーではなく、改革を圧倒的に加速できるリーダーを選ぶこと」と切り出し「私が総理になれば1年以内に政治改革、規制改革、人生の選択肢の拡大。この3つの改革を断行する」と宣言し期待を持たせたが、翌日の共同記者会見以降、議論においては他の候補者のターゲットとされたこともあり失速。現在は石破氏、高市氏、小泉氏の3人による三つ巴の様相を呈している。
 
 ここまで小泉氏は規制緩和路線の目玉ともいえる「解雇規制の見直し」に各候補から疑問が呈され、徐々に軌道修正。「選択的夫婦別姓」については候補者の中でも上川氏のように「個人的には賛成」という姿勢を表明する者もいる一方、党内では賛否が分かれ、小泉氏が強引に進めると自民党が分裂しかねない問題となっている。
 
 石破氏は得意分野である安全保障の分野で安定した政策を掲げる。所見発表演説会、共同記者会見、街頭演説会、オンラインで行った国民の声に応える政策討論会等でも持論を展開。なかでも17日に沖縄・那覇市内で行われた演説会では「日米地位協定の見直し」といった日米間に長く横たわる懸案事項にについて触れる場面も。これは沖縄県民に限らず、多くの国民にとっても期待したくなる主張なのだが、党内では継続性が求められる外交・安全保障政策の急激な転換には疑問符をつける者もおり、先行きは見通せない状況だ。
 
 また重要政策として「防災省」の創設も掲げているのだが、21日からの大雨で石川県では甚大な被害が発生。今年1月の能登半島地震に続く災害に改めて国民の中には防災への意識が高まっている。
 
 高市氏は前回の総裁選では故安倍晋三氏の指示を受け大きく躍進。安全保障、経済政策、そして憲法改正問題などでは安倍氏の路線継承を訴える。今回の総裁選については、当初はさほど大きな存在とはいえない状況だったのだが、論戦が進むにあたり、かねてからの政策通の面で評価を高め、決選投票進出の有力候補と目される位置まで浮上。また18日に中国の深圳で起こった日本人学校の男子児童が登校中に中国人の男に刺されて死亡した事件においては、上川氏が外相という立場から「遺憾」という表現に留めざるを得ない状況の中、特に強い言葉で中国を非難するなど保守系議員の受け皿としても存在感を増している。
 
 こういった政策に対する自民党内の反応とは別に投票の4日前にして、自民党員を悩ませる問題が勃発。23日に行われた野党第一党の立憲民主党の代表選で野田佳彦元首相が代表に返り咲いたことから、国会論戦における「vs野田」という新たな要素を加味したうえでの投票が求められることとなった。
 
 小泉氏においては総裁選後に行われるであろう解散総選挙の際に「自民党の顔」としての期待感が高いのだが、来年行われる参院選までの国会論戦で野田氏を相手に持ちこたえられなければ参院選での敗北もあり得る。目先の解散総選挙と来年の参院選の両方で勝利を収めることができる候補は誰なのか…。
 
 総裁選は国会議員票と党員・党友票がそれぞれ368票の計736票を争う。1回目の投票で過半数を得た候補がいなければ、上位2人による決選投票が実施されるのだが、今回は9人と立候補者が乱立していることから決選投票となるのは確実。派閥解体により、敗れた7候補へ投じられた票がどう動くかが全く読み切れない状況となっている。