義理かお金か面白さ。そのどれかがあれば、どんなことでもやります【徳井健太の菩薩目線 第230回】

平成ノブシコブシ・徳井健太

“サイコ”の異名を持つ平成ノブシコブシ・徳井健太が、世の中のあらゆる事象を生温かい目で見通す連載企画「徳井健太の菩薩目線」。第230回目は、事前にギャラを知るべきか否かについて、独自の梵鐘を鳴らす――。

 慈善事業ではないけれど、ギャラが支払われないおまけの仕事――みたいなことがあったりする。メインの仕事に付随する仕事なので、そちらのギャラは発生しません的な。

 そんなわけだから、仕事をしたのに、「実はギャラがありません」と告げられて、がっくりと肩を落とす芸人は少なくない。それを回避するために、事前に「この仕事のギャラはどれくらいですか?」と聞くタイプの芸人は多い。

 フリーランス、自営業者の皆さんなら少なからず思い当たるであろう「事前にギャラを聞くか聞かないか」問題。不老不死と肩を並べる、人類永遠のテーマの一つだと思うんです。

 僕は、事前にギャラを聞くことはしない。だから、ギャラを聞くタイプの芸人に会うと、「どうして聞くのか」と尋ねる。

 すると、大体の芸人は、「以前、聞かないまま仕事に臨んで、割に合わないと思ったことがあったので、ある時期から聞けるときは聞くようにしている」といった答えが返ってくる。とても理に適っていると思う。

 では、どうして僕は聞かないかというと、想定していた以上にギャラが低かったら、テンションが低い状態でその仕事に望んでしまうことになりそうで。その逆もしかりで、想像以上にギャラが高いと、いつも以上に元気なあいさつをしたり、気持ちがかかりすぎたり……態度に出ないように配慮しても、 人間である以上、どこかでダダ漏れてしまうことが想像に難しくないからだ。ギャラによって、自分の気持ちにムラが生じるのが、なんか悔しいのかもしれない。

 そのため、後日送られてくる明細書を見て、「あの仕事はこれぐらいのギャラだったんだ」と、そのとき知る。想定していた以上にギャラが低かったり、割に合わないと感じたりすれば、次回以降はマネージャーに相談して可否を決めればいいだけ。契約更改がシーズン終了後に行われるように、終わった後に考えればいい。シーズン中は、試合に集中したいじゃないですか。

 菩薩目線の担当編集であるA氏もフリーランスなので、彼にも尋ねてみた。すると――、

「初めて仕事をする媒体がギャラについて言及してこない場合は、あえて原稿料は聞かないようにする。もちろん、書籍をはじめ大きな仕事であれば、事前に原稿料や初版部数などの確認はするけれど、雑誌やウェブメディアで一記事を書く場合は聞かない。後日、明細を見て、その金額で次を決める。“金にうるさいヤツ”という印象を与えかねないので、結果的に仕事の幅が狭まる可能性もあるし、もしかしたらものすごく優秀な担当編集かもしれない。だから、お試しの気持ちを持てるようにしている」

 と話していた。A氏は、「主従で言えば、仕事を振られる側は“従”である以上、代わりはたくさんいる。そんな存在が、お金に重きを置く時点でどうかしている。自分が“従”から脱却してから、はじめて交渉のテーブルがある」とも付け加えていた。

 おそらく、世の中の大半の人は「聞くべき派」なんだと思う。自分の時間や労力を費やす対価なんだから、事前に知っておく方が精神衛生的にもいいだろう。でも、それって確かな実力や信頼がないといけないと思うし、そもそも、僕らは自営業者であって、社会的には不適合な人間だという自覚も少なからずあるのだから、そんな人間がギャラに嗅覚を研ぎ澄ますのはなんだか違うような気がしてしまう。

 金額に見合った仕事をしようと思うと疲れる。いや、分かっている。金額に見合うように仕事をするのもプロだろうし、こだわること自体は悪いことじゃないって。だけど、自分のモチベーションや疲労感を、お金という枠の中で完結させたくないという、よく分からないこだわりがある。やる気の主体性は、他の何かでありたいんだろうな。

 お金以外でも、きちんと自分のモチベーションを上げられる基準を作ることが大事だと思うんです。お金以外に必要なこと。僕の場合は、一つは義理。もう一つが面白さ。

 この3つすべてが揃えば最高だけど、仮に後日、明細書に記載された金額が想像以上に安かったとしても、その人にお世話になったとか、その人のプラスになれたとか、めちゃくちゃ笑ったなと感じられれば良い仕事じゃないかと思える。きれいごとで結構。お金では買えない自分の血と肉になるものがあることって幸せじゃないですか。

 逆に言えば、この3つのどれにも該当しないのであれば、断るという選択肢もあって良いのではないかと思う。お金は大事です。でも、お金ありきの判断基準になってしまうと、付き合う人間関係もお金第一の人たちばかりになりそうで。

【プロフィル】徳井健太(とくい・けんた)1980年北海道出身。2000年、東京NSC5期生同期の吉村崇とお笑いコンビ「平成ノブシコブシ」結成。「ピカルの定理」などバラエティ番組を中心に活躍。最近では、バラエティ番組や芸人を愛情たっぷりに「分析」することでも注目を集め、22年2月28日に『敗北からの芸人論』を発売。「もっと世間で評価や称賛を受けるべき人や物」を紹介すべく、YouTubeチャンネル「徳井の考察」も開設している。吉本興業所属。
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