中国の軍艦による射撃管制レーダーの照射。この信じ難い挑発により、尖閣をめぐる日中関係はさらに深刻なステージに進みかけました。我が国政府のみならず、米国政府からも非難の声が上がる中で、中国政府は暫しの沈黙の後、「自衛隊の艦艇が感知したのは射撃管制用ではなく通常の警戒監視用のレーダーである」との専門家でなくとも見破れるような虚偽の反論を行った上で、日本側の主張こそでっち上げだと非難したのです。ただし、「何が悪い」と開き直らなかったことから、北京政府がこれ以上のエスカレーションを望んでいないことも確認できました。
いずれにせよ、2度にわたる中国海軍による射撃一歩手前の蛮行が、中国政府の意思を体したものであるのか、最前線の指揮官による独断専行であったのか、未だ謎ではありますが、一触即発の危機的状況が尖閣諸島を取り巻く東シナ海の日中中間線の日本側海域で日常的に続いていることを、日本国民のみならず世界が再認識させられたのです。
すでに本欄で何度か指摘してきたように、中国の海洋国土の拡張は、70年代以来、「本気で」(弱体化した清朝末期に帝国主義国家によって奪われた失地を回復する正当な行為だという確信)、「計画的に」(80年代から「海洋強国」建設に向けた長期戦略の存在)、「着実に」(南シナ海から東シナ海へと漸進的に力の空白を埋めてきた)実行されてきたのです。
米国シンクタンクのシミュレーションにあるように、夜陰に乗じて「非武装の漁民たち」が一切の干戈を交えることなく上陸した場合、これを排除するために直ちに防衛出動(つまり武力行使)を下令することができるかは微妙です。中国政府の反発(「無抵抗の民間人に武力攻撃するのか!」など)や国際社会の反応、米国による軍事協力の困難性(日米安保条約には「武力攻撃」への共同対処のみ明記)と併せてかなり悲観的にならざるを得ません。
これを阻止する道は、私見では、たった二つです。日本人を尖閣に常駐させる(堅塁を築く)か、何らかの形で「現状維持」の固定化に持ち込んで我が国が尖閣防衛態勢を確立するまで時間稼ぎをするかです。前者が最善の策と信じますが、その政治決断ができないようなら、後者、すなわち力不足を悟って(小平氏がやったように実力をつけるまで)戦略的なクリンチ(speak softly while prepar
ing a big stick)に持ち込む以外にないのではないかと考えます。その決断のタイミングは刻一刻と迫っています。
(衆議院議員 長島昭久)