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政権を担い得る野党なくして、二大政党政治なし【長島昭久のリアリズム】

2019.06.10 Vol.719

 衆参ダブル選挙の声が喧しくなってきましたが、衆院解散は総理の専権事項ですから、私たち議員は「まな板の上の鯉」に他ならず、じたばたしても仕方ありません。「常在戦場」を胸に刻み、何があっても対応できるように準備だけは怠りなく進めるのみです。(苦笑)

 そのような中、小沢一郎さんなどは、「今のままでは野党は壊滅する」しかし、「野党が一つになれば政権交代は可能」と盛んに発破をかけています。さすが、小選挙区制度導入の立役者にして、平成時代を通じてあらゆる政局をつくり上げてきた方だけに、その言には迫力があります。

 私自身も、かつて小沢さんの『日本改造計画』に魅了され、政権交代可能な二大政党制を日本に定着させるとの強い思いを抱き、平成12年(2000年)10月の衆院補欠選挙に当時の野党第一党だった民主党から立候補しました。一敗地にまみれ、3年間の浪人を経て15年11月の総選挙で初当選し、以来お陰さまで6期連続当選し今日に至っております。その間の平成21年、悲願の政権交代を果たし、3年3か月という短い期間でありましたが政権を担わせていただきました。しかし、24年12月の総選挙に敗れ下野して以来、旧民主党は四分五裂、一昨年の「希望の党の反乱」もあえなく鎮圧されて今日の体たらくです。

 そのような中で飛び出したのが、先ほどの小沢発言です。しかし、二大政党(あるいは政治勢力)による政権交代可能な政治を標榜することについては人後に落ちぬと自負する私でも、小沢氏の発言には違和感しかありません。なぜなら、「二大政党制」というのは、とにかく大きな政治勢力が二つあればいいという話ではなく、いつでも政権党に取って代わって政権を担い得る野党の存在が大前提だと考えるからです。

「野党が一つにまとまれば政権党を倒せる」というのは、たしかに小選挙区制度の本質を突いた話ではありますが、「二大政党が切磋琢磨してより良い政治を行う」という二大政党制とは無関係であり、それは「より良い政治」ではなく政権打倒のみを目的にした「野合のすゝめ」に他ならず、無責任極まりないと考えるからです。

 現に、いまの野党は、現時点で多少勢いのある左派勢力を中心として、とにかく「アンチ安倍」で一つにまとまろうとする余り、憲法や安全保障やエネルギー政策など国家の基本問題に対する極論のオンパレードで、政権を担うことは到底考えられません。

 私は、そういった野合とは一線を画し、今後とも「政権を担い得るど真ん中の政治勢力」再結集をめざし、愚直に政策競争と熟議の国会を追求してまいります。

(衆議院議員 長島昭久)

令和元年の憲法記念日に誓う「現実的な平和への道筋」【長島昭久のリアリズム】

2019.05.13 Vol.718

 数か月前まで「激動の朝鮮半島をめぐる『不都合な真実』」と題して連載をしておりましたが、3月のハノイにおける米朝首脳会談の決裂によって事態は暗礁に乗り上げたまま動く気配がないたため、「閑話休題」として5回にわたって日韓問題や日露交渉について論じてきました。しかし、いつまでも閑話休題を続けるわけにもいかず、今回から正常軌道に戻してふたたび様々な国家的課題についてリアリズムの視点から論じてまいりますので、よろしくお願いします。

 さて、5月1日午前零時(4月末日24時)、202年ぶりの天皇ご譲位が無事行われました。2000年を超える万世一系の皇統の歴史に思いを馳せ、上皇陛下の最後のお言葉、天皇陛下の最初のお言葉を拝聴し、有難く胸が熱くなりました。令和の時代も平和を守り、世界の課題解決の先頭に立つ日本を築いてまいりたい、と決意を新たにしました。

 そして、令和元年が明けて3日目の憲法記念日、民間憲法臨調主催の「公開憲法フォーラム」に衆院会派「未来日本」代表として出席し、昨年に続き挨拶の機会をいただき、大要以下のようなことを述べました。

 まず、新天皇践祚(せんそ)の儀式が滞りなく行われたことを寿ぎ、その上で、私たちに課された重大な使命が、憲法の改正とともに、安定的な皇位継承を図るため速やかに皇室典範改正の議論を行うことであると述べました。その際、皇統の根幹たる男系継承の大原則と共に、占領下GHQによって強制的に皇籍離脱させられた11宮家51方の存在を忘れるわけにはいかないと指摘させていただきました。

 つぎに、平成最後の外国訪問を台湾とし蔡英文総統はじめ政府要人と会談を重ねたことを報告し、中国からとてつもない圧力にさらされた台湾の現状は、まさしく「明日の我が身」に他ならないと警鐘を鳴らしました。いま、中国は、圧倒的な軍事力の威嚇とともに、台湾社会の各層に凄まじい浸透工作(influence operations)を展開し、蔡政権の政治基盤は大きく揺さぶられています。

 そのような中、蔡総統からはアメリカとともに日本外交に対する期待の言葉をいただきましたが、「力の裏付けなき外交」は単なる社交辞令に過ぎません。いま我が国に必要なのは、台湾海峡の平和はもちろん、インド太平洋地域の平和と安定と繁栄をアメリカと共に下支えできるだけのリーダーシップであり、それを裏付ける「安全保障の力」(国際秩序を形成する力)に他なりません。その力を発揮するためにも、憲法9条の改正が急務であると述べました。憲法条文と我が国を取り巻く国際情勢の現実とのギャップを放置することは、憲法規範の空洞化を放置することと同義であり、まさしく立憲主義に反するのではないかと指摘しました。

 もちろん、この考え方に異論のある方もおられると思いますが、先ずは国会の衆参両院に設けられた憲法審査会の議論を一刻も早く再開すること。これぞ令和の時代における国際平和を「現実的なアプローチ」で築いていくために国会議員に課せられた重大な使命であると心得ます。

(衆議院議員 長島昭久)

閑話休題 その3:北方領土をめぐる日露交渉に、喝!(下)【長島昭久のリアリズム】

2019.04.08 Vol.717

 私の見るところ、安倍政権にとりロシアとの平和条約締結を急ぐ最大の理由は、対中戦略上の要請だと考えます。今の日本にとって、「中国の台頭」こそが最大の戦略的課題であり、同盟国である米国との関係を重視する(が故に集団的自衛権の行使に踏み切った)のも、インドや豪州、台湾、モンゴルなどとの連携を強化するのも、朝鮮半島情勢をめぐる日米韓の協力を緊密化させようとするのも、東南アジアや南太平洋諸国との協調体制を構築するのも、すべては中国との地政戦略的なバランスを安定化させるための努力の一環です。そこに、ロシアを引き込もうというのが安倍総理の外交戦略です。

 しかし、ロシアにはロシアの戦略があり、国益があります。たしかに、人口1億を超える中国東北部と国境を接するロシアの人口はわずか6%に過ぎず、経済的にも軍事的にも中国からの大きな圧力を感じていることは間違いありません。だからといって、プーチンのロシアは、日本が描く戦略図の中にはめ込まれるような軟(やわ)な国ではないでしょう。しかも、日本はロシアの仮想敵国ともいうべき米国の最大の同盟国です。しかも、北方領土(周辺海域を含む)は、冷戦期から軍事的な価値は変わらないのみならず、サハリンのガス油田開発や北極海航路などにみられる経済的な価値も増大していますので、なおさら妥協の余地は小さくなっています。

 このように地政戦略的にも困難な領土交渉に“止め”を刺したのは、他ならぬ安倍総理自身でした。イージス・アショア(AA:陸上配備型イージス弾道ミサイル防衛システム)配備の決断です。これは、ロシアにとり看過できない「新たな事態」です。そのことは、米国がルーマニアとポーランドにAAシステムの配備を決定した時のロシアの猛反発を想起すれば理解できるでしょう。にもかかわらず、安倍総理は、平和条約交渉が佳境に差し掛かった昨年7月にAAをロシアの目と鼻の先にある秋田に配備することを決めたのです。あれは北朝鮮の弾道ミサイル脅威への対応の一環だ、との日本側の説明はプーチン氏の耳に空しく響いたことでしょう。

 しかし、北朝鮮(さらには中国)の弾道・巡航ミサイル脅威に対処することは我が国の安全保障にとり死活的であり、ディールの対象になろうはずがありません。ましてや、巷間噂されているような「北方領土返還の暁には米軍の軍事施設を置かない」といった確約など論外です。ロシアの戦略目的の一つが日米同盟の弱体化であることをゆめゆめ忘れてはなりません。
 いずれにせよ、あれほど安倍総理が力を注いできた日露交渉ですが、ここへ来て改めてその困難さが浮き彫りになりました。ただし、筆者は、それでよかったと思っています。元島民の皆さまや漁業関係者には相すまぬことですが、やはり領土主権は国家統治の根本であって、拙速に妥協することは将来に禍根を残します。日本としては、改めて国力を立て直し、ロシアに足元を見られないような強固な交渉基盤をもって領土返還交渉に他日を期すべきです。
(衆議院議員 長島昭久)

閑話休題 その3:北方領土をめぐる日露交渉に、喝!(中)【長島昭久のリアリズム】

2019.03.11 Vol.716

 前回おさらいした過去の経緯を踏まえ、安倍首相は今、どのようなアプローチで北方領土問題を解決しようとしているのか、分析を試みましょう。結論から言えば、安倍首相は、「4島一括返還」を求めてきたこれまでの日本政府の姿勢を転換し、歯舞・色丹の2島(先行)「引き渡し」に焦点を絞り、平和条約の締結(を通じて両国関係の完全正常化)を急ぐとの戦略的決断を行った模様です。昨年11月のシンガポールでの日露首脳会談において「1956年の日ソ共同宣言を基礎にして平和条約締結交渉を加速化する」ことで合意したというのは、まさしくそのことを意味するのでしょう。

 この点をめぐり、国内から批判の声が上がっていることは周知のとおりです。すなわち、歴史的にも国際法の上からも我が国固有の領土である国後・択捉の2島を事実上放棄することは、竹島や尖閣など他の領土問題に対する悪影響はもとより、主権国家としての外交姿勢の根本が問われることになります。しかも、歯舞・色丹の領土面積は北方領土全体のわずか7%に過ぎないのではないかとの批判です。ここへ来ていきなり「日ソ共同宣言」の線で平和条約交渉をまとめたいと言われても、それは過去60数年間の日ソ・日露交渉の経過をあまりにも軽視した姿勢と言わざるを得ないのではないかと。我が国の国力は、敗戦から10年しか経っていない1956年当時とは比べものにならないくらい拡大しており、冷戦後の93年の東京宣言では「平和条約交渉の継続は4島の帰属問題の解決を意味する」という合意にまで、日本がロシアを押し返した外交成果を無にするのか、というわけです。

 したがって、安倍政権としては、たとえ93年の線から後退してでも今なぜ平和条約締結を急がねばならないのか、その理由を説得力ある形で国民に示す必要があります。そこには、日露の二国間関係を超えた地政戦略的な正当性がなければなりません。もちろん、(不法か否かに拘わらず)すでに島を占有しているロシアにその返還を求める日本としては、相応の妥協を強いられることは覚悟せねばなりません。たとえば、領土返還の代価として、ロシア側が求める経済協力プロジェクトや北方領土の共同管理などで日本側の歩み寄りは最低限必要といえましょう。

 最終回は、そのような一見不釣り合いともいうべき代価を支払ってでも、ロシアとの平和条約締結を急ぐべきだとの安倍政権による「戦略的判断」の是非について考察したいと思います。
(衆議院議員 長島昭久)

閑話休題 その3:北方領土をめぐる日露交渉に、喝!(上)【長島昭久のリアリズム】

2019.02.11 Vol.715

 北方領土返還を求める日露交渉が難航しています。二度目の首相に就任以来、安倍首相が北方領土問題の解決に並々ならぬ姿勢で臨んできたことは誰の目にも明らかです。在任6年の間にプーチン大統領との首脳会談はじつに25回に及びます。しかし、核心部分はしばしば「差し」の会談(通訳のみ同席)で話されてきましたので、肝心の情報は厳格に秘匿され外部の者からは窺い知ることはできません。以下、全貌を把握することが難しい日露交渉の現状を改めて分析し、私なりの考え方を述べたいと思います。本論に入る前に、まず議論の前提として、いくつかの歴史的事実を整理しておきたいと思います。

 1.日本の主張(固有の領土である北方4島の主権は日本にある)とロシアの立場(第二次大戦の結果、4島はロシア領となり主権はロシアにある)は、真っ向から対立している。

 2.近代国際法の下、日本とロシアとの間で初めて国境線を確定した「日魯通好条約」以来、第二次大戦末期まで国後、択捉を含む北方4島にロシアの支配が及んだことはない。

 3.対日参戦の条件としてソ連が千島列島の領有を要求し、米英がそれを容認したとされるヤルタ協定(連合国有志間の密約)に基づき、大戦末期にソ連が日ソ中立条約を破棄し満州などに侵攻。ソ連軍は、日本が無条件降伏(1945年8月15日、ポツダム宣言受諾)した後になって北方4島に侵攻。以来、ソ連による不法占拠が続く。

 4.終戦直後の混乱期、当時の吉田首相(1951年、サンフランシスコ講和会議での発言)や西村外務省条約局長(国会答弁)らは、国後・択捉島を「南千島」と呼び、色丹島と歯舞群島を「北海道の一部」と明言するなど異なる扱いを示した。
 5.早期解決を模索した鳩山首相は、日ソ共同宣言(1956年)により、歯舞・色丹の2島「引き渡し」で妥協しようとしたが、冷戦が深まる中で日ソ関係の改善を警戒する米国からの牽制(ダレスの恫喝)などにより、4島返還の原則に妥協を加えることができなかった。

 5.1960年の日米安保条約改定により、日本によるソ連への敵対姿勢が明らかになったとして、ソ連は日ソ共同宣言の線を後退させ日ソ間の「領土問題は解決済み」と主張し始めた。

 6.ソ連崩壊、冷戦終結後、日露間でいくつもの首脳会談および共同声明が発出され、ロシアは領土問題解決済みの旗を降ろし、4島の帰属の問題を話し合う姿勢に転換。とくに2001年の「イルクーツク宣言」では、日ソ共同宣言を平和条約交渉に関する出発点を設定した基本的な法的文書と位置づけ、「東京宣言」(1993年)に基づき、4島の帰属問題を解決することにより、平和条約を締結するための交渉を促進することが合意され、今日に至る。

(衆議院議員 長島昭久)

閑話休題 その2:レーダー照射事案の非を認めない韓国政府に、喝!【長島昭久のリアリズム】

2019.01.14 Vol.714

 北朝鮮をめぐり膠着状況が続く中、またしても日韓関係を悪化させるような事案が発生してしまいました。昨年12月20日、我が国の排他的経済水域(EEZ)内を航行中の韓国海軍駆逐艦「クァンゲト・デワン(広開土大王)」が、付近の海域を警戒監視活動中の航空自衛隊P-1哨戒機に対し、火器管制(Fire Control, FC)レーダーの照射を行ったのです。FCレーダーの照射は、軍事的には「ロックオン」を意味するあからさまな敵対行為です。

 したがって、このような敵対行為は、友好国に対するものとしては異例であり、普通に考えれば、韓国政府は直ちに非を認め、日本に謝罪し、現場関係者を処分し、再発防止策を発表するのが筋です。しかし、なんと、韓国政府は非を認めるどころか、我が国の防衛省自衛隊が公表した事実関係を否定し、その上空自P-1の行動を「威嚇的な低空接近飛行」だとして非難し、謝罪を求めたのです。韓国側の主張には多くの矛盾と混乱が見られ、看過できません。以下、できる限り客観的に検証しておきたいと思います。

 第一に、韓国政府の最初の説明は、「駆逐艦は遭難した北の船舶を迅速に見つけるためFCレーダーを含むすべてのレーダーを稼働させ、その結果、近くの上空を飛行していた日本の海上哨戒機に照射された」というもので、じつはFCレーダーの照射を認めていました。しかし、その後、韓国政府の説明は一変し、FCレーダー照射の事実を否定。非公開の日韓軍事当局者協議でも埒が明かないことに業を煮やした防衛省が、レーダー照射を受けたP-1哨戒機内の緊迫したやり取りを映像と共に公開すると、今度は、駆逐艦は別の射撃指揮レーダーを稼働させていたのであって日本側の主張するFCレーダーは作動させていないと主張。しかし、この主張は、結局12月25日の防衛省発表で覆されることとなりました。これに対し、年明けの1月4日、韓国政府はP-1の威嚇的な接近飛行を映像公開でアピールしてFCレーダー照射を正当化しようとしましたが、あまり説得力は感じられませんでした。

 いずれにしても、①韓国政府の説明は二転三転している上、②防衛省発表によればP-1哨戒機は高度150m、距離500mの国際ルールを遵守しており、③いかなる理由であれFCレーダー照射はCUESという韓国も署名している国際軍事ルールに違反し、④韓国駆逐艦がP-1からの再三の無線問い合わせに対し沈黙を貫いた事実などに鑑み、日本側に一点の非もないことは明らかです。これ以上否認し続ければ、韓国は日本のみならず国際社会の信頼を失墜させてしまうでしょう。隣国の政治家として、むしろそのことを憂えます。(本稿1/9執筆時点での情報に基づく) 

 (衆議院議員 長島昭久)

閑話休題:「元徴用工」をめぐる韓国最高裁判決に、喝!【長島昭久のリアリズム】

2018.12.08 Vol.713

 北朝鮮情勢について3回にわたって連載してきましたが、最近、南の韓国からも残念な不協和音がもたらされましたので、今回は「元徴用工」をめぐる韓国最高裁判決の問題点につき論じたいと思います。

 韓国の最高裁にあたる大法院は、10月30日と11月29日に、「元徴用工」を雇用していた日本企業(新日鉄と三菱重工)に賠償責任を認定する判決を下しました。これに対し、日本政府は、「断じて受け入れられない」と厳しい批判を繰り返しています。

 いったい韓国最高裁判決のどこが問題なのでしょうか。半世紀前に「完全かつ最終的に解決された」(1965年の日韓請求権・経済協力協定第2条)はずの問題がなぜ再び蒸し返されるのでしょうか。

 まず、日韓請求権・経済協力協定は、日韓両国も批准する「条約法に関するウィーン条約」第26条、27条により、韓国の立法、行政、司法の三権を等しく拘束します。韓国最高裁判決が国際法を逸脱していると批判される理由はここにあります。そして、同協定により日韓は相互に「外交保護権」を放棄したので、個人の請求権までは失われないものの、相手国の裁判所に訴えても法的に救済されないこととなりました。その代わり、「元徴用工」への慰謝料など個人の救済についての道義的責任は自国、すなわち韓国政府が負うこととされました。このことは、同協定に関わる全ての外交文書を公開し、官民のプロジェクトチームで再検証した結果に基づき、2005年8月に盧武鉉政権が国内外に正式に表明しました。

 そして、それら個人への救済のための原資は、同協定により日本側が提供した総額5億ドルの無償・有償援助をもって充てることとされ、現に1970年代および2007年、2010年に韓国は国内法を制定し、そのような方々への支援を実施しています。にもかかわらず、今回の韓国最高裁の判決は、上述した日韓両国政府による法的、政治的、外交的努力を根底から覆してしまったのです。

 2度にわたる最高裁判決が出てもなお、韓国政府は同判決に対する態度を明らかにしていません。これに対し、我が国政府は強い口調で非難はするものの、韓国政府の出方を見守っているだけです。しかし、事態を放置すれば、次々に類似の訴訟が提起されてしまうでしょう。したがって、ここは、同協定第3条に基づき、日韓両国の代表者に加え第三国の代表者も入れた「仲裁委員会」の速やかな開催を提起すべきです。同協定によれば、日本側の提起を韓国側は拒むことはできず、仲裁委員会の下す裁定には必ず従わねばなりません。これしか早期に決着をつける方法は見当たりません。日本政府の決断を促したいと思います。  

(衆議院議員 長島昭久)

激動の朝鮮半島をめぐる「不都合な真実」(その3)【長島昭久のリアリズム】

2018.11.10 Vol.712

 北朝鮮情勢は、6月12日のシンガポールでの米朝首脳会談からあたかも時が止まったままのように見えます。まさしく交渉の入り口で米朝双方が睨み合ったまま動く気配がありません。何故そんなことになっているのでしょうか?

「非核化」に向けた実質交渉入りを阻む最大のネックとなっているのは、休戦状態のまま65年の歳月が経過した朝鮮戦争にピリオドを打つ「終戦宣言」の是非をめぐる問題です。シンガポールの米朝首脳会談に先立ち4月27日に板門店での南北首脳会談で合意された「板門店宣言」では、「南北は、休戦協定締結65年になる今年中に終戦を宣言し」と明記されました。その上で、同宣言は「休戦協定を平和協定に転換し、恒久的で強固な平和体制構築のための南北米3者または南北米中4者の会談開催を積極的に推進していくことにした」などと、その後の具体的なプロセスにまで言及しています。しかも、シンガポールでの米朝首脳合意では、この「板門店宣言を再確認し、朝鮮民主主義人民共和国は朝鮮半島の完全な非核化に向け取り組む」と明記されました。

 したがって、北朝鮮サイドとしては、自分たちが非核化に着手する前に、南北で合意した年内の「朝鮮戦争終戦宣言」を行った上で、他ならぬ米朝首脳合意の第2項目に明記された「(米朝両国が)朝鮮半島での恒久的で安定的な平和体制の構築に向け協力する」との目的を達するため、南北朝鮮が模索する「南北米3者または南北米中4者の会談」を開催すべきではないか、という主張を繰り返すことになるわけです。

 もちろん私たちとしては、一刻も早く北朝鮮が非核化の具体的行動を取るべきだという立場ですが、いやしくも南北や米朝の首脳間で合意した事項はきちんとわきまえて物事を進めて行かねばなりません。その意味では、北朝鮮が無理筋の主張を繰り返しているとは言い切れません。しかも、朝鮮戦争を終わらせる政治宣言くらいなら、さっさとやってしまえとの意見も根強くあります。

 ただし、実際に「終戦宣言」を行うべきかについては、なお詳細な検討が必要です。紙幅が限られてきましたので、今回は懸念事項の頭出しにとどめますが、①「終戦宣言」によって、朝鮮半島の内外に展開する朝鮮国連軍の役割が終わるのか、②終戦宣言によって南北朝鮮の敵対関係まで解消されるのかどうか、③敵対関係が解消されるのであれば、在韓米軍の存在意義はどうなるのか、④在韓米軍が撤退あるいは大幅に削減されることによる我が国の安全保障への影響をどう考えるか、など検証すべき課題は少なくありません。   
(衆議院議員 長島昭久)

激動の朝鮮半島をめぐる「不都合な真実」(その2)【長島昭久のリアリズム】

2018.10.13 Vol.web Original

 9月上旬、文在寅大統領と金正恩委員長の二人による3度目の南北首脳会談が平壌で開かれ、暗礁に乗り上げている米朝交渉をなんとか動かそうと必死の努力が行われましたが、北朝鮮をめぐる非核化プロセスは依然として膠着状態に陥ったままです。

 近いうちにポンペオ米国務長官が4度目の訪朝をすると伝えられていますが、これも全く予断を許しません。トランプ大統領は、「金正恩委員長に恋をした」などと軽口とも本気ともつかぬ発言を繰り返すなど、相変わらず強気の姿勢を崩していません。しかし、当初期待されていたような金委員長による国連総会出席は実現せず、代わりに乗り込んできた李容浩外相は従来通りの原則論を強調するばかりでした。

 いったい何が障害となっているのでしょうか?明らかなことは、「非核化の手順」をめぐって米朝の間に根本的な食い違いがあるということです。米国側は、金委員長がシンガポールで約束したように「本気で」非核化に着手するなら、少なくとも保有している核兵器や核関連施設のリストをまず申告すべきではないかと主張しています。もっともな要求です。しかし、これに対し、北朝鮮は、シンガポールで金委員長が約束した内容は、「米朝共同声明」にはっきり書かれていますよと。すなわち、まず①「新しい米朝関係」を築き、②「安定的な平和体制」をつくり出す努力を双方が行い、しかる後に③朝鮮半島の非核化(北朝鮮の非核化でない点は要注意)を実現する、という手順で双方が合意したはずではないかというのです。李外相が国連演説で「一方的な核武装解除には応じられない」と強調したのは、米国が上記①②のプロセスを無視して、いきなり北朝鮮に非核化を求めるのは約束違反だという意味なのです。しかも、北朝鮮の側からすれば、ステップ①をめぐり誠意を示すために、すでに豊渓里の核関連施設(の一部)を破壊しており、今度は米側がそれに応える番ではないかというのです。

 そして、ステップ①②をクリアするために北朝鮮が米国に執拗に迫っているのが、「朝鮮戦争の終結宣言」なのです。たしかに、北朝鮮から見れば、安心して非核化に着手するためには、もはや核保有を必要としない環境が整わねばなりません。そのためには、せめて朝鮮半島の戦争状態を終結させる宣言を行うことによって、①新たな米朝関係をつくり、②安定的な平和体制構築に向け確実な一歩を踏み出すべきではないかと。ある意味で筋が通った要求と言えなくもないですね。他方、今日の交渉停滞は、トランプ大統領の過剰なリップサービスと米朝間の曖昧な合意が招いたともいえます。次回は、焦点となりつつある「朝鮮戦争の終結宣言」が何を意味するのか、改めてそのリスクやコストについて検証したいと思います。  
  
(衆議院議員 長島昭久)

激動の朝鮮半島をめぐる「不都合な真実」(その一)【長島昭久のリアリズム】

2018.08.11 Vol.709

「歴史的」と喧伝されたシンガポールでの米朝首脳会談から早60日。首脳会談の翌週には実務者協議が始まる、と豪語したポンペオ米国務長官もさすがに痺れを切らして、訪朝。結果は、北朝鮮外交伝統のお家芸である「遷延戦術」の頑健さを改めて痛感させられただけで終わったようです。(シンガポールで約束したはずの)非核化を迫るポンペオ長官に対し、北朝鮮は「盗人猛々しい」とやり返しました。非核化の前に「新しい米朝関係」を構築するのが先だろう(たしかに、これがシンガポール合意の第一項目に明記されています)というのです。新しい米朝関係のためには、せめて(4月27日の南北朝鮮「板門店宣言」で合意した)朝鮮戦争の終戦宣言に向け目に見える行動を示せと。

 こんな無理筋な北朝鮮の要求にもかかわらず、トランプ大統領はいつものようにブチ切れることもなく、朝鮮戦争で戦死した米兵の遺骨のほんの一部(55柱)の返還が実現されただけで、「金委員長に感謝する」などと述べ、驚くほど殊勝な振る舞いを見せています。ポンペオ長官も7月23日に行われた上院外交委員会公聴会で「中身が空っぽではないか!」と激しく迫る与野党議員の集中砲火を耐え忍んだのです。

 あれほど自信満々に米朝首脳会談の成果を誇ったトランプ大統領ですが、私は大変なミスを犯してしまったと見ています。それは、肝心の首脳会談に致命的な準備不足で臨んだために生じてしまいました。とくに米側の交渉実務者にとりあまりにも時間がなく、最も大事な「合意」内容を全く詰め切れなかったため、非核化の期限も、具体的なロードマップも不明、しかも、「非核化」そのものの定義も不明(一説には、米政府内ですら共通の理解には達していないというのです!)。先のポンペオ国務長官訪朝の結果を見る限り、合意内容の履行の優先順位についてすら認識を共有できていないことが露呈しました。

 にもかかわらず、それが「大成功」だったとトランプ大統領自身が世界中に喧伝したために、トランプ大統領の政治的な信頼性が金正恩朝鮮労働党委員長の行動に左右されることになってしまったのです。つまり、トランプ大統領が成功するか否かの生殺与奪の権限を、こともあろうに交渉相手の金委員長に握られてしまったのです。この点は、金委員長から見ればトランプ大統領の弱点と映るでしょう。はてさて、「ディールの天才」の名が泣くというものです。

 次回以降、この欠陥だらけのディールが、今後の朝鮮半島情勢にどのような悪影響を及ぼすことになるのか、リアリズムの観点から厳しく検証していきたいと思います。その上で、我が国ができること、なすべきことを明らかにしたいと思います。

(衆議院議員 長島昭久)

米朝首脳会談、その後【長島昭久のリアリズム】

2018.07.14 Vol.708

 6月12日のシンガポールにおける米朝首脳会談は、専門家からは酷評されています。

 肝心の「非核化」について、米朝共同声明には「完全な非核化」としか謳われず、非核化の定義も期限も、検証の枠組みすら示されなかったことから、プロセスを限りなく先延ばししようとする北の思うつぼではないかと。

 欧米の識者の間では、「会談の勝者は中国」だといわれています。共同声明によれば、両首脳が合意したのは北朝鮮の非核化ではなく、「朝鮮半島の完全な非核化」でした。朝鮮半島の南側(=韓国および在韓米軍)に核兵器は存在しない中、「朝鮮半島」全体の非核化とするのは、韓国に対する米国の「核の傘」も排除するという意図が感じられます。

 我が国の基本戦略は、戦後一貫して米国による日韓への安全保障のコミットメントをいかに維持、強化していくかにあり、米韓合同軍事演習の中止にとどまらず、(将来的な)在韓米軍の撤退にまで言及したトランプ大統領の交渉姿勢を看過することはできません。拉致問題についても、共同声明には盛り込まれませんでしたし、トランプ氏は、非核化の経費は日本、韓国、中国が負担することになるだろうとも述べました。さらに懸念されるのは、北朝鮮を真剣な対話のテーブルに向かわせた「最大限の圧力」が、米朝首脳による握手によって溶解してしまうことです。すでに中朝の交易は活発に行われており、韓国もロシアも北朝鮮への経済支援に前向きです。

 しかし、これが「トランプ流」なのでしょう。まずトップ同士で握手を交わし、あとは実務者に丸投げ。先行きは不透明ながらも、非核化に向けて物事をスタートさせたことは間違いありません。中止された米韓合同軍事演習も北朝鮮の「非核化」への誠意次第ではいつでも再開できるわけです。

 ここからの日本外交には中長期的な視点が重要だと考えます。非核化のプロセスは長く険しいものとなるでしょう。その間に懸案である拉致問題を解決するため、日朝首脳会談を真剣に模索すべきです。その前提として、ストックホルム合意に基づく拉致被害者に関する真の調査報告を求め、その上で、非核化支援のための国際的費用分担には応じればよいと考えます。

 さらに、日本外交は、拉致問題を超えた朝鮮半島、さらには東アジアの平和と安定の秩序づくりにも積極的な関与をしていかねばなりません。そのためにも、米朝首脳会談以降、米中を筆頭に「自国ファースト」の動きが高まり、各国の思惑が交錯し対北政策は無秩序の混沌に陥りつつある状況を立て直さねばなりません。そのために、日本から「6カ国首脳会談」の開催を提案すべきです。日本(沖縄が最適地)が議長国となって、現状の無秩序にタガを嵌め、非核化の行程管理から北朝鮮経済の再建、南北交流から朝鮮半島の和平プロセスまで包括的な実務者協議をスタートさせるのです。

(衆議院議員 長島昭久)

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