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落語界の裏側、全部バラします『そこでだ、若旦那!』【著者】立川談四楼

2017.01.08 Vol.682

 落語立川流の真打・立川談四楼によるエッセイ。ヘヴィ・メタル専門誌「BURRN!」に連載したコラムから抜粋し、加筆訂正し再構成した。著者は、いくつもの連載コラムやエッセイを新聞・雑誌等に持っている(持っていた)ほか、小説も多数出版するなど作家としても人気の落語家である。そんな談四楼が、自分の所属する立川流、そして師匠である立川談志の事はもちろん、落語会の裏話を赤裸々に暴露。例えば、弟子が師匠を殴り廃業した事件。話はそこで終わらず、その弟子はスルーっと別の団体の師匠のもとに行き、落語家を続けている。閉鎖的なところもある落語界での、この出来事は、ファンも何がどうなってそうなったのか分からないところがあったものの、何となく“そういう事もありなんだ…”とうやむやのままになっているのが現状だ。しかし、この本にはその師匠と弟子、引き取った師匠の実名のほか、事の顛末が詳細に書かれており、思わず“そういう事だったんだ”と納得させられる。もやもやしていた落語ファンは膝を打ち、落語を知らない人は、その人間関係や協会間の微妙なパワーバランスに驚きつつも、興味深く読める。また、談志をはじめ亡くなった落語家についても書かれているのだが、改めて読むと若くして亡くなった落語家がなんと多い事か。しかし、談志以外の落語家の多くは話題にもならないばかりか、新聞でもほんの数行の訃報記事しか出ない。談四楼は先輩、同期、後輩として彼らを身近に見ていた者として、それぞれの生きざまに優しい目を向ける。そんな魅力的な落語家の噺を聞きに、寄席に足を運びたくなる一冊。

【定価】本体1500円(税別)【発行】シンコーミュージック・エンタテイメント

「空気を読む」の正体に迫る 二兎社公演41『ザ・空気』

2017.01.08 Vol.682

 2014年に森鴎外をモチーフとした『鴎外の怪談』、2016年は女流作家・樋口一葉の生涯を描いた『書く女』と明治期を舞台とした作品が続いた二兎社だが、今回は日本の「今」を描く現代劇。それもテレビ局の報道現場というメディアの最前線で、実際に起こっているであろう問題を題材に、昨今の日本全体を覆う「空気を読む」という独特の現象の正体に迫る。

 舞台はある大手テレビ局の報道局の一角。その日の夜、局の人気報道番組で、ある特集が放送される予定だった。近頃では珍しい力の入った「調査報道」。デリケートな内容とあって、局内でも慎重に扱われてきた案件なのだが、放送数時間前になって局の上層部から突然の内容変更を命じられ、現場は大混乱に陥るのだった。
 テレビの報道現場という見知ってはいるが身近ではない場所を舞台に喜劇のスタイルで描くことで、観客には俯瞰した状態でこの現象の正体が提示される。ただそれは“向こう側”だけのことではなく、我々自身のことでもある。

 笑った後に「う?ん」とちょっと考えさせられる作品だ。

寺山の不朽の名作が新宿FACEによみがえる Project Nyx『時代はサーカスの象にのって』

2017.01.08 Vol.682

 新宿梁山泊の水嶋カンナが主宰するProject Nyxは演劇の枠を越え、音楽、舞踏、アートといったさまざまなジャンルのアーティストと融合し、不朽の名作、知られざる傑作といわれる作品を現代のパフォーマンスとしてよみがえらせる。

 本作は寺山修司がアメリカのロックミュージカル『ヘアー』をもとにベトナム戦争の時代をアイロニーたっぷりに描いた音楽劇。「ロックアンダーグラウンド爆裂シリーズ」と銘打つシリーズの第2弾で、前回同様、ロックバンドSHAKALABBITSが登場。寺山修司の詩で楽曲を作り、演奏する。

 また今回はさまざまな格闘技も開催される新宿FACEにリングを持ち込んでの公演。プレミアムリングサイドシートというリングサイドでの特別席も用意されている。果たしてどんな“見せ方”をしてくれるのかというのも気になるところ。

 アフタートークや宇野亞喜良舞台美術の閲覧ツアーなどさまざまな企画も用意されている。

【BOOK】“全身役者”が明かす痛快無比な人生70年『役者人生、泣き笑い』

2016.12.29 Vol.681

 芸能デビューから50周年、今年数えで70歳となり、古希を迎えた西田敏行による初の自伝。

 1947年11月、福島県郡山市に生まれた西田は、養父母に育てられる。映画好きだった養父母に連れられて映画館に通ううちに、西田少年は映画俳優になることを夢見るようになった。東京にさえ出れば映画俳優への道が開けるのではないかと思った西田は、養父母を説得し東京の高校へ入学。しかし、田舎では社交性があり人気者だったのに、方言を笑われ、一種の対人恐怖症に。授業をサボり上野動物園のゴリラのブルブルを見がら時間を過ごし、孤独な高校時代を乗り越えたという。そんな孤独感を抱えながらも、心の支えになったのはやはり映画。三國連太郎主演の『飢餓海峡』を見て三國の付き人になれないかと思うようになる。そんな三國と『釣りバカ日誌』で、何十年もコンビを組むことになるとはその時思うはずもなく…。高校を卒業すると進学した大学を除籍となり、本格的に役者修行の道へ。劇団青年座に入った西田は『写楽考』という舞台で頭角を現してくる。

 その後の活躍は、誰もが知るところで、大河ドラマからホームドラマ、大御所の監督作品から、三谷幸喜のコメディー、さらには正月映画『釣りバカ日誌』と、歴史に名をのこす将軍から、サラリーマンなど何百という役を演じてきた。そんな自身の半生もさることながら、改めて読むとその作品の撮影秘話などは、そのまま日本の映画やテレビのもう一つの歴史であり、昭和・平成の貴重な芸能史としても楽しめる。今や国民的俳優となり、老若男女、多くのファンを持つ西田の原点ここにあり!

この小説を映画化?無理無理!リアルすぎるし面白すぎる!!『クランクイン』

2016.12.14 Vol.680

 広告代理店に勤める優秀でも、無能でもないごくごく平凡なサラリーマン根本が、社運を賭けた一大プロジェクトの担当に任命。それはベストセラー小説を映画化するというもので、映画好きな根本には夢のような仕事だった。

 しかし、業界とはいってもまったく畑違いの映画製作という仕事。まずは、原作者でもあるベストセラー作家に、映画化の許可をもらうところから大苦戦。その後も、製作費集め、キャスティング、カメラマンの怪我など問題が続出。しかも、根本自身も死に別れたはずの母親に関して、それまで知らされていなかった事実が明らかになり、仕事、プライベートともに寝る暇もない忙しさ。果たしてそれぞれの問題を無事にクリアし、映画を完成することができるのか? そして亡き母の秘密は明らかになるのか?

 さらに、忙しさのあまりギクシャクしてしまった恋人との関係は? 平凡な日常が、急転直下怒涛の日々に変わったサラリーマンの奮闘記。著者は食品偽装の問題を扱った小説『震える牛』の相場英雄。WOWOWで連続ドラマにもなり、世間を震撼させたシリアスな社会派サスペンスから一転、映画作りの舞台裏を、笑いと涙で描いたドタバタコメディーだ。根本の悲喜劇も見ものだが、普段は知ることのできない映画製作の苦労が非常に分かりやすく描かれているので、映画好きにも楽しい第一級の痛快エンターテインメントとなっている。それにしても、さんざん苦労した映画製作に、あんなどんでん返しが待ち受けているとは…。最後の最後までスリルある展開がお見事!

やはり彼らは只者ではなかった『最後の秘境 東京藝大 天才たちのカオスな日常』

2016.11.29 Vol.679

 奥さんが現役藝大生という著者によるノンフィクション。きっかけは、書斎で巨大な木の塊から木彫りの陸亀を掘り出したり、体に半紙を張り、自分の型をとっていた妻を見たこと。そこにまったく別の世界に生きる人の気配を感じたという。さらにダメ押しとなったのが、台所に転がっていたツナ缶。ツナ缶だと思ったそれは実はガスマスクで、藝大の生協に売っているという。そこから藝大に興味を持ち、妻に案内してもらいながら、藝大という名の秘境に足を踏み入れたのだ。

 上野にある藝大は、駅を背にして左側が美術学部の“美校”、右側が音楽学部“音校”に別れている。その境界線に立った著者はまず、見た目の違いに気づき、数分も眺めていれば、歩いてくる学生が音校と美校のどちらに入っていくか、分かるようになったという。そこから、取材がスタート。ちなみに、大学受験最難関の1つと言われている東大理3の、平成27年度の志願倍率は4.8倍。対して藝大の最難関、絵画科の同年の倍率は、なんと17.9倍になるという。藝大全体でならしても7.5倍で、その昔は60倍を超えたことも。

 超狭き門の藝大だが、著者がインタビューした学生はことごとくユニーク。しかも特別おもしろそうな人だけをピックアップしたというわけではない。小さい頃から漆が好きで、工芸科漆芸専攻に入りながら、絡繰り人形の制作に没頭している人、口笛をきわめ口笛で藝大に入った男、刺青に興味を持ち、絵画科日本画専攻に学ぶ元ホストクラブ経営者など。藝大には、そういう人を受け入れる懐の深さと、自主性を重んじ、学生のやりたいようにやらせる校風があり、これもまた信じられないことばかり。著者は美校、音校、両方のさまざまな学科の藝大生に、入学から卒業後のビジョンまで丁寧にインタビュー。謎に包まれた秘境の秘密が少しは分かる!?

迷惑、顰蹙、無理難題。人生、困ってからがおもしろい。『ヴァラエティ』奥田英朗

2016.11.15 Vol.678

 奥田英朗の新刊短編集。と言っても、作品自体はずいぶん以前に書いたもので、単行本初収録のものを集めた蔵出し短編集だ。脱サラで会社を興し奮闘する男の姿を描いた「おれは社長だ!」と「毎度おおきに」は連作の短編。奥田には珍しいショートショート、イッセー尾形、山田太一との対談が2本、ほか短編4本という、まさにバラエティーに富んだ、奥田ファン待望の一冊。形式も書いた年代も、扱うテーマも全く違う作品は、奥田らしいユーモアあふれたものや、読んでいると胸が締め付けられるような切ないものまで多彩。渋滞中の車に、妻が知らない人を乗せ、その人たちが夫をいらだたせ、最後にはとんでもないことに巻き込んでいく「ドライブ・イン・サマー」。オウム真理教の手配犯が逮捕されたニュースを見て、それをヒントに、温泉街のレストランに住み込みで働く謎の女を主人公にした「住み込み可」。高校生の娘が、クリスマスに友達の家に泊るという“嘘”を見抜いてしまい悩む母親の姿にハラハラする「セブンティーン」。そして著者が7歳の時に伯母さんが死んだ実話をモチーフにした、少年と少女の物語「夏のアルバム」。まったく雰囲気の違う物語が読める贅沢な本だが、まとまりがないわけではない。そこにはユーモアや、人間の滑稽さ、膝を打つようなリアリティーのある描写など、そこかしこに奥田節のようなものが見え隠れし、おもちゃ箱のような楽しい構成でありながら、1冊の本として完結している。また、作品の間に収録されたイッセー尾形と山田太一との貴重な対談では、奥田がうまく2人の本音を引き出しつつ、奥田作品の原点が見える。本人曰く、“まとまらなかった短編集”をまとめて楽しめる一冊。

人はなぜ、罪を犯すのか?『犯罪小説集』【著者】吉田修一

2016.10.26 Vol.677

 人間の内面、特に犯罪を犯す者の心情を丁寧に紡ぎ『悪人』や『怒り』など映画化され大ヒットした作品も多い著者の最新刊。

 小学校の帰り道にある一本杉の前で消息をたった少女。直前まで一緒にいたため、10年を経ってもなお罪悪感を持ち続ける友人。そして当初から疑われていた無職の男と村人たちの張り詰めた関係を描いた「青田Y字路」。名門の家に生まれ、何不自由なく育った男がギャンブルにハマっていく姿をスリリングに展開する「百家楽餓鬼」。

 そして鳴り物入りでプロに入団。華やかな経歴を誇りながら引退したが、その後もそのきらびやかだった生活が忘れられない元プロ野球選手の転落人生「白球白蛇伝」ほか5編を収録。

 それぞれ、犯罪に無関係だった人々が陥った闇と、その闇があぶり出す世界を表現した。きっかけは、執着だったり、嫉妬であったり、自暴自棄であったり、好奇心であったり、感情のすれ違いだったりと日常にありがちな些細な事。普通ならもつれることのないその些細な感情が、意図せず交錯し、やがてほどけないほどに絡まりあった時、悲劇への入り口が扉を開く。それに気づかずに踏み込んでしまった人々。最初から悪意があったわけではない。むしろ善意の人もいたはずだ。しかし、そこからは転がるように落ちていき、自分ではどうすることもできなくなっていく。この本を読むと、犯罪を憎む気持ち、人の弱さを笑う気持ち、転落する人生を憐れむ気持ちなどは起こらない。なぜなら、自分の身にいつ降りかかってもおかしくないと思えるから。そこにあるのはただ、壮絶で哀しい5つの物語だ。

アドバイスなのかバカの図鑑なのか…『バカざんまい』著者・中川淳一郎

2016.10.09 Vol.676

 ネットニュース編集者の中川淳一郎氏の週刊新潮での連載コラム「この連載はミスリードです」が本になった。

 日本中にあふれる「バカ」な人たちや現象を「コメンテーター編」「社会編」など大きく8分野に分け、そのならではの視点でツッコミ、そして切り捨てる。

 仕事柄ネット上のニュースをくまなくチェックし、ネット界隈の有象無象に絡まれる日々を送る中川氏だけにバカを見極める選球眼にはさすがなものがある。

 ただバカをあげつらうだけではなく「こういうことをするとバカにされますよ」というアドバイスが込められているようにも思えるし、その一方でひょっとしたらただひたすらにいらっとしているだけかもしれない…とも思わせるのが中川氏の巧みなところ。相変わらずの底の丸見えの底なし沼テイストに今回も手の平の上で泳がされる。

 最近バカな話が多すぎて忘れかけていた話題も思い出させてくれるというありがたい側面もある。

「セックス」も「家族」も、世界から消える…『消滅世界』

2016.09.25 Vol.675

『コンビニ人間』で芥川龍之介賞を受賞した村田紗耶香の『消滅世界』。朝日、読売、毎日、日経、産経各紙のほか、多くの雑誌で話題となった衝撃作だ。

 舞台は世界大戦をきっかけに、人工授精が飛躍的に発達したもうひとつの日本(パラレルワールド)。そこでは生殖と快楽が分離され、人々は人工授精で子どもを産むことが普通となっている。主人公は、自分の母親が夫と“近親相姦”をして交尾し、生まれたという事に“引け目”を持つ雨音。雨音はそんな母親に反抗するように、ほかのクラスメートと同様、アニメのキャラクターに恋をする。この先もヒトと恋愛することなく、人工授精で子どもを産み、ヒトではないものと恋愛をしながら家族として暮らしていくと信じて…。

 雨音は成長し、パートナーを探すパーティーで出会った朔と結婚。お互い別の恋人を持ちながら、家族として平穏な日常を過ごしていた。セックスの無い、清潔で無菌な生活に満足をしていた2人だが、あることをきっかけに、千葉にある実験都市・楽園(エデン)に移住することに。

 そこは、毎年1回、コンピューターにより選ばれた住民が一斉に人工授精を受け、人口を完璧にコントロールするという実験が行われている場所だった。

 そこでは男性も人工子宮を身に着け受精し、人工授精で出産された子どもはセンターに預けられ、受精する年齢になったら大人とみなされセンターを出る。その世界では、すべての大人がすべての子どもの“お母さん”となり愛情を注ぎ続けるのだ。最先端の技術で、“家族(ファミリー)システム”ではなく“楽園(エデン)システム”で、繁殖されるヒトによる世界。その実現に向けた壮大な計画の中で、雨音と朔は生きることを決意。しかし、同じ日に人工授精した2人の関係は、微妙にずれはじめる…。

 ヒトが生まれる意味と、そこから繋がる世界について、日本の未来を予言する圧倒的衝撃作の誕生だ。

この男、前代未聞のトンデモ作家か。はたまた推理冴え渡る名刑事か!?

2016.09.10 Vol.674

 主人公の毒島真理は、売り出し中のミステリー作家。新人賞を獲りデビューした後も、執筆活動が順調の売れっ子作家だ。しかし、それ以前は、検挙率1番の敏腕刑事で、退官後すぐに刑事技能指導者として再雇用されたという経歴を持つ。捜査一課に配属されて半年になる高千穂明日香は、フリーの編集で文学賞の下読みを担当する百目鬼が殺害された事件の犯人像についての参考意見を聞くために、毒島の元へ行かされた。童顔で温和な笑顔を見せ、飄々と話をする毒島は、先輩刑事に聞いていたほど変わり者ではないと感じたのだが、話をするうちに、とんでもなく皮肉屋で性格のねじ曲がった男だということが判明。

しかし、話を聞いただけで、犯人の目星をつけ、事件を鮮やかに解決に導く手腕はさすがの一言だ。その後も、作家の尊厳などどうでもいいという高飛車な編集者、若手作家に厳しい大御所作家、自称辛口書評家、人気作家につきまとうストーカーなど、出版業界周りの事件になると毒島の出番となる。そんな時、毒島の小説がドラマ化されることになるが、ここでも視聴率主義でタレント優先のプロデューサーの横暴が。原作の骨格がなくなるほど、手を加えられた脚本をめぐり、ついにプロデューサーが殺害されるという事態に。監督、脚本家、そして毒島自身が犯人として浮上。アリバイなしの動機ありというピンチに、毒島は一体どんな結論を導き出すのか?!

それにしても、ここに出てくる出版業界周りでうごめく人間の変人さ加減といったら、毒島以上ともいえる。これが本当の出版業界かと思えば、さにあらず。著者紹介のところにこんな一文が。「この物語は完全なるフィクションです。現実はもっと滑稽で悲惨です」。魑魅魍魎、いろいろな化け物がうごめく業界だが、一番の化け物は毒島本人だ。それはイコール筆者なのか?! 同書は、極上ミステリーとそんな業界の裏側も楽しめる。

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