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街は、女たちが彩ってきた。男は、女たちが知っている。

2014.09.14 Vol.626

 写真週刊誌フライデーの専属カメラマンを経てフリーライターとして活躍する著者が、10年以上にわたり、日本国内外の売春街と娼婦たちを取材してきた渾身のルポ。プロローグで著者は語る。「娼婦は、常に日陰に生きている。その存在から漂ってくる危うさ故に、私は彼女たちを知りたくなってしまう。旅を続けていくうちに、売春の歴史も辿ることで、日本という国を普段とは違った角度から見られるのではないかと思った」。その言葉通り、日本の各地に色街はあり、決して表の歴史には残らない裏の歴史がそこにはある。例えば、横浜黄金町。今ではアートイベントを開催するなどおしゃれな街へと変貌しているが、以前は「ちょんの間」と呼ばれる売春施設が路地という路地にあった。そこで生きてきた娼婦たちの人生を知ることは、日本という国の別の顔を見せてくれる。また、著者は巨額の金を日本人から貢がせてその名を轟かせたチリ人のアニータへも会いに行っている。そもそもじゃぱゆきさんとして日本に来た彼女は、母国では成功した女、アメリカンドリームならぬジャパニーズドリームの体現者として、憧れの存在だという。彼女の目には日本がどう映っていたのか。売春の根底にあるのはかつて貧困だった。しかし、秋葉原でサラリーマンに簡単に声をかけたり、インターネットで気軽に援助交際を求めたりする女子高生など、売春が日常の中に溶け込むようになった。娼婦はこれからも姿を変え存在し続けるのかも知れない。

体感せよ!小説で味わう料理の感動『麒麟の舌を持つ男』

2014.08.31 Vol.625

 主人公の佐々木充は、絶対音感ならぬ、絶対味覚を持つ料理人。しかし、完璧ゆえに妥協を許さず、その結果自分の店を潰してしまい、今は死期が迫っている人のリクエストに応じ「最期の料理請負人」をやっている。この仕事は、高額な報酬と引き換えに、依頼人が人生の最後に食べたいという思い出の味を完璧に再現するというもの。おおっぴらに看板は出せないものの、それなりに依頼は舞い込んでいた。そんなある日、佐々木のもとに、楊と名乗る中国人から連絡があり、奇妙な仕事を依頼される。それは、第二次世界大戦中に満州で政府の特命を受けた料理人・山形直太朗が作ったという幻のレシピ『大日本帝国食菜全席』を再現するというもの。しかも、その春夏秋冬の4冊、計204のレシピが書かれている『大日本帝国食菜全席』を探すことから始めるという依頼だった。どこにあるかもわからないどころか、その存在すらも疑わしいものだが、これまでとは桁違いの高額な報酬と料理人としての好奇心から佐々木はこの仕事を引き受けた。それをたどっていくうちに彼はとんでもない事実を知るのだが…。『大日本帝国食菜全席』とは一体なんだったのか? そしてそのレシピに隠された秘密とは? 作者はTV番組「料理の鉄人」のディレクターで、同書がデビュー作だという。巻末の『大日本帝国食菜全席』のレシピ名と料理の描写が食欲をそそられる料理エンターテインメントミステリーだ。

外国人は日本の「ここ」を愛している。

2014.08.18 Vol.624

 著者のステファン・シャウエッカーは、スイスのチューリッヒに生まれ、20歳の時にカナダに留学するまで、日本や日本人にまったく興味がなかったという。しかし、留学先で日本人と接するようになると、どんどん日本人が好きになり、日本という国に興味を持つようになった。その後、日本を旅行して、すっかり日本が気に入った彼は、「ジャパンガイド」という外国人向けに日本を紹介するポータルサイトを開設。現在では、日本を代表するサイトになり、多くの外国人に利用されている。そんな彼が自分で見た、体験した素晴らし日本の場所や文化を紹介したのが同書。京都・美山の藁葺き民家など心を惹かれた街や自然、お花見や紅葉、祭りなど日本人の生活に寄りそった行事や習慣、そして居酒屋や露天風呂でのふれあいの旅など、日本人でも行ったことがないようなところ、またしたことがないような体験談が満載。例えば、もっと注目されていい名所として、北海道の大雪山を上げ、中でも夏山のシーズンを過ぎて、秋を迎えるわずかな時期をすすめている。そこは日本で最初に紅葉が見られる場所で、彼自身毎年大雪山訪問を楽しみにしているという。そのように、普段はまったく意識することがなく気がつかなかった日本の魅力や外国人が感じる意外な魅力も知ることができる日本再発見ガイドブック。大きなショックを受けたという東日本大震災にもふれ、東北の復興を世界に発信し続けることが使命だという著者の日本愛あふれる一冊。

おめえに教えてやるよ。人生の勘どころってやつを。『蔦重の教え』著者:車浮代

2014.08.02 Vol.623

 55歳のリストラ寸前の崖っぷちサラリーマン、武村竹男(タケ)がひょんなことから江戸時代へタイムスリップ。しかも、転がり込んだのがあの蔦屋重三郎の元だった。蔦屋重三郎は、吉原のガイドブック『吉原細見』ほかいくつものベストセラー本を出版したほか、写楽や歌麿を生み出し、世に出したことでも知られている天才プロデューサーだ。タケはなぜか、23歳の青年としてタイプスリップし、蔦重の元で働きながら、商売のこと、人との付き合い方、成功するための方法、ひいては人生の極意を学んでいく。同書は「時空を超えた実用エンターテインメント小説!」とうたっているように、蔦重の教えは現代に通じるばかりか、世の中の真理をついているものばかり。タケではなく、思わず自分の手帳に書き留めておきたくなる言葉が多い。また、浮世絵、料理、習慣など江戸時代の風俗が生き生きと描かれているので、時代小説としても楽しめる。そしてなんと言っても、浮世絵師たちばかりではなく、そこに登場する人たちが織り成す日常生活が興味深く、あらためて違う視点から歴史の勉強をしてみたくなる。平成の時代に戻ったタケのリストラに怯えやけくそになった人生が、蔦重の教えでどんなふうに変わっていくのか、いかないのか…。歌麿の浮世絵に隠された驚くべき真実とは? 蔦重を知っている人には興味深く、知らない人も楽しめる時代小説だ。

業界最大のタブーからあなたと家族を守る

2014.07.20 Vol.622

 食のプロや業界関係者の間で「食品業界を知り尽くした」と言われる男が外食、中食産業の衝撃の「裏側」を暴露。ファミレスや居酒屋、回転寿司などのチェーン店に覆面調査に行き、リポートした結果なども掲載。例えば、某大手ファミレス・チェーン店のハンバーグにはリン酸塩、植物性蛋白、PH調整剤、乳化剤、着色料、グルタミン酸ソーダなどが入っているという。ビーフ100%と言いながら、ほかの肉も混ぜられているかも知れないと指摘し、さらに植物性タンパクを入れ、かさ増しし、そのせいで白っぽくなったものを着色料で肉の色に近くしていると言う。読んでいるだけで気分が悪くなってしまいそうだが、確かにコンビニ弁当のラベルを見ると、著者が指摘したようなものがたっぷりと…。コンビニ弁当などの場合は表示義務があるが、外食や中食ではそうはいかない。大手ファミレスや居酒屋では、専用のセントラルキッチンに食材が集められ、下ごしらえされ、加工調理し、各店舗に半調理済みメニューが運ばれている。それを各店舗で温めたり、解凍したりするだけで提供している。サラダなどは、カットしてから使用するまでに時間がかかるため、次亜塩素酸ソーダの液で洗浄・殺菌されたカット野菜を使用している店も多いとか。読後、外食や中食のメニュー選びが劇的に変化するだろう。ちなみに、「いい店」「おいしい料理」紹介や見分け方も解説しているので参考にしてみよう。

突然襲った不眠、幻聴、妄想−本当に精神疾患なのか?

2014.07.05 Vol.621

 目が覚めると拘束服を着せられ、ベッドに固定されていたスザンナ。頭にはプラスチックのワイヤーがつながれ、手首には「逃走の恐れあり」と書かれたビニールバンドが…。それはある朝突然だった。ニューヨーク・ポストで記者として働いていたスザンナは、24歳の時、体に異変を感じた。最初はダニに噛まれただけだと思っていたが、やがて体が痺れ、幻聴や幻覚を体験する。さらに口から泡を吹き、全身を痙攣させる発作にも見舞われるように。病院に行くと、精神疾患と診断され、てんかん、双極性障害、統合失調症などの治療をするも病状は悪化する一方。病名も分からず、原因も不明の症状に家族は疲弊し、医師らも打つ手なしの状態。その時、治療チームに加わったある医師が、入院していたニューヨーク大学では前例のない病気であることを発見。治療が施される。入院中の記憶がほとんど抜け落ちていた著者が、記者魂を発揮し、正気と狂気の境界線を行き来していた日々を、医師や家族への聞き取り調査、医療記録や家族の看病日誌、また病院のカメラで撮影されたビデオカメラの映像から記事にした完全ノンフィクション。217人目の患者となった彼女は、ニューヨークという大都会で、最新の医療をしても見つからなかったその病気でどれだけの人が精神病院などに入院させられ、治療の機会を失っているのかと危惧する。同書は、そんな患者や家族にとり、希望の光にもなるだろう。

父から息子への愛情を、いつも弁当が運んでくれた。

2014.06.21 Vol.620

 TOKYO No.1 SOUL SETや猪苗代湖ズで活躍する、ミュージシャンの渡辺俊美が、一人息子のために、作り続けたお弁当の写真をエッセイとともに綴る。

 離婚し父子家庭となった著者は、高校に合格した息子に「お金を渡すから自分で好きなものを買うか。それともパパがお弁当を作るか。どっちがいいの?」と聞くと、息子が「パパのお弁当がいい」と答えた時から、3年に及ぶお弁当作りがスタートした。「3年間、毎日お弁当を作る」ということを目標に交わした男と男の約束。

 二日酔いの朝も、ツアーから帰ったばかりの日の朝も、早く仕事に行く日の朝も、休むことなく作り続けた記録がこの本に詰まっている。地方に仕事に行った時には、その土地の名物や調味料を探すなど、お弁当を作っている時間以外も息子のことを思う父。ページをめくるごとに、お弁当の内容と盛りつけのクオリティーが上がっていくのが分かるのが微笑ましい。お弁当についての一言コメントとエッセイの他、お弁当作りのコツや調味料や道具、料理を学んだ本などのコラムも楽しい。高校生活を締めくくる、461個目のお弁当は果たしてどんなお弁当なのか。その目で確かめて見てほしい。親子の愛がいっぱい詰まったお弁当の写真を見ているだけで、心が温かくなるお弁当本の名著が誕生した。

腸内細菌70%日和見菌を味方につける!

2014.06.08 Vol.619

 最近“腸内環境を整える”とうたった商品や、その重要性を解く本などが多く出版されるなど“腸”は健康に大きく関わっているらしい…と認識されつつある。著者は腸や便の研究で知られ、メディアでも注目されている「うんち博士」こと辨野義己。腸には「第二の脳」があり、脳同様、感情や判断を司る非常に賢い臓器なので、腸内環境を良好にし、免疫力を高めることで健康につながると言う。同書では、正しい腸内環境の改善を行い健康的な生活を送る方法として、腸内細菌のバランスの整え方や、腸内細菌がよろこぶ生活習慣、がんやインフルエンザ、花粉症、老化、うつ病などの予防法、腸の常識・非常識について解説。大腸がんになるかは、「10年前の食事が決定づける」と言われている。それは「10年前の食事が、今の腸年齢を決めている」ということでもある。「10年前、ろくな食事を摂っていなかった」という人でも遅くはない。「今の食事が、10年後のあなたの腸の状態を決める」からだ。簡単に腸内環境を整える改善方法も多数紹介。今すぐ実践して“美腸”を取り戻そう。

日本がなくなってはじめて分かる、ここがスゴイ!

2014.05.24 Vol.618

 日本が消えたらどうなるのか? そんなことは考えたこともないけど、そんなに影響がないかも…と思った方、この本を読んだら、その考えが大きな間違いだとういうことに気づくだろう。日本はいろいろな分野で結構派手に、あるいはひたすら地道に世界への大きな影響力を持つ国なのだ。どんなに有能な社員が会社を辞めても、それでも会社は普通に回っていくように、日本がなくなっても別の何かがどこからか穴埋めしてくれるだろう。しかし、その穴はとてつもなくデカいと著者は言う。普段は取り立てて突出していると感じることのない事でも、実はすごいことをして世界の国々を支えているのだ。高級ブランド消費大国としての日本の経済力、ボーイング787の全体の3割を日本で作っているという技術力、漫画やアニメといった文化力はなんとなく分かる。それ以外にも身近すぎて意外に気がつかないことも多い。例えば、圧倒的にハイレベルな日本製の紙おむつ。これがなくなれば、世界中の赤ん坊は毎日泣き叫ぶことになるのではと心配される。モノ以外にも日本人や日本人気質が消えたらどうなるかなど、概念や事象からのアプローチも興味深い。

お前の人生も、破滅させてやる!『「ストーカー」は何を考えているか』

2014.05.11 Vol.617

 著者は、ストーカー問題をはじめDVなど、あらゆるハラスメント相談に対処するNPO法人「ヒューマニティ」の理事長で、これまで500人以上のストーキング加害者と向き合ってきた専門カウンセラー。ストーカーの心理と行動、思考パターン、危険度、実践的対応をこれまで手がけた事例とともに説明する。ストーカーをめぐるトラブルは年間2万件も起きているというが、殺人という最悪のケースに至るケースは後を絶たない。難しいのは、ストーカーは決して一括りには考えられないこと。人格も被害者と加害者の関係性も違うので、正解と言える対処法がない。また警察の対応もまちまちだ。厳しく対応しているところもあれば、民事不介入とばかりに逃げ腰のところもある。さらに、いったん収まったかに見える加害者の怒りや憎しみが、いつ何時牙を向いて襲って来るか分からないので、長期間にわたる緊張で、被害者のほうが精神的にボロボロになるケースも多い。同書では、具体的な対策や警察以外の民間相談所のこと、加害者をカウンセリングする必要性を説く。誰もが当事者になりうる問題だが、その闇は深い。

野球解説者・工藤公康氏が「成長し続ける極意」を語る新刊『孤独を怖れない力』

2014.05.11 Vol.617

 名選手、必ずしも名監督にあらず」とはスポーツ界ではよく言われる言葉だ。同様に、名選手が引退後に解説者、評論家として必ずしも成功するとも限らない。名選手と呼ばれるような人は、戦術といったややこしいことを、その天賦の才能で超越した現役生活を送ってしまうからなのだろう。

 前振りが長くなってしまったが、今回紹介する『孤独を怖れない力』を発表した工藤公康氏は名選手でありながら名解説者であるということに異論を唱える人はまずいないだろう。

 工藤氏は2011年に48歳で引退。実に29年もの長きにわたりプロ野球のマウンドにたち続け224勝をあげた。その個人記録もさることながら、西武ライオンズで8度の日本一、FA移籍したダイエーホークス(現・福岡ソフトバンクホークス)、読売ジャイアンツでも日本一に貢献するなど“優勝請負人”ともいわれた。特に当時下位に低迷していたホークスでは自ら嫌われ役になりながらも選手たちの意識改革を行い、常勝チームに育て上げた。

 現在は評論家の他に筑波大学大学院で「外科系スポーツ医学」を勉強中。常に学ぶ姿勢を忘れない。
 そんな工藤氏が月刊誌『BIG tomorrow』に連載されたコラム『人生、一球入魂』を新たな書き下ろしも加えて書籍化した。

 本書ではその現役生活を振り返り、個人もチームも成長し、結果を残し続けるための極意が綴られている。
 48歳まで現役を続けるためには信じられないほどの肉体のトレーニングと強靭な精神力が必要。工藤氏はその現役生活の中でさまざまな経験をし、人と出会い、そのつど野球人として、社会人として大事ななにかに気づいていく。

 いわゆる“自己啓発書”のジャンルになるのだが、実例というか行動が伴いすぎているだけに、その説得力たるや、他の追随を許さない。

『BIG tomorrow』は男性ビジネスマン向けの雑誌なので、女性は手に取りにくい。このコラムの存在を知っていた女性も少ないと思われるが、せっかく書籍化されたので、女性にも読んでもらいたい一冊。

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