酒場エッセイの第一人者といわれるなぎら健壱の最新エッセイ。同書は東京スポーツ新聞に現在も連載している「オヤジの寝言」を一冊にまとめた全75編からなるエッセイ集。「寝言なる言葉は便利であって、寝言に罪はない。“そんなこと言ったって、寝言だから覚えてないよ”。あるいは“あたしがそんなこと言ったの?まあ、寝言だから勘弁してくれよ”で済まされる」ということらしい。しかし、書籍化するにあたり、タイトルが“たわごと”になったため、逃げ道を作るために“酒場”をつけて、酒を飲んでのお喋りということになったとのこと。そこで再び「酒場でのおしゃべりは楽しい。酒の力を借りての世迷言だからして、一層楽しい。酒の力を借りているもので、話そのものや、脈絡などに対しても責任がないから楽しいのである。たわごとを漢字にすると戯言である。要するに、戯れ話ってことですな」だそう。そんな責任のないたわごとだが、なぎらが発する言葉は時に名言となり、読む者の心にしみわたる。曰く、「博才がある人間とは、引き際を見極めることができる人間のことである」「ゲンナマって言うでしょ。要するにね、お金ってのはナマモノなのよ。ナマモノだから金は貯めると腐るんだよ」など。たわごとなのだから何を言ってもいい。うんちく、芸能界のあるある、世の不条理などをさらっと軽妙な言葉で綴っていく。読んで楽しい気楽なエッセイだが、そこにキラリと光る真実が読み取れる。と思わせて、なんとなく酒場に行って、どうでもいい話=戯言をオヤジ相手に語りたくなる、肩の力が抜けた、なぎら節満載の一冊。
【TOKYO HEADLINEの本棚】カテゴリーの記事一覧
「色で老人を喰う」恐ろしき稼業、戦慄の犯罪小説
妻に先立たれた後期高齢者の耕造は、結婚相談所の紹介で知り合った69歳の小夜子と同居し始めるが、夏の暑い日に脳梗塞で倒れ、一命を取り留めるも重体に陥る。実は小夜子は、その結婚相談所の経営者・柏木と結託し、これまで何人もの高齢者と結婚しては、遺産をかすめとる“後妻業”と呼ばれる女だったのだ。
小夜子の態度や金への執着心、そして言葉では説明できない不信感を持った耕造の2人の娘は、知り合いの弁護士に頼み小夜子の素性を探ることに。すると出てくるのは、何回もの結婚歴と、その相手の不審な死。警察に疑問を抱かせないために、生命保険は掛けず、あくまで遺産を狙うという狡猾な手口。耕造もそんな小夜子の毒牙にかかってしまったのか。弁護士に頼まれて、小夜子の調査を始めた元刑事の本多は、直感的に悪のにおいを嗅ぎとり、ジリジリと小夜子と柏木を追い詰めていく。
黒川博行による直木賞受賞第一作である同書が刊行されてから事件が明るみになった「京都青酸連続不審死事件」。その手口や容疑者の女の経歴が同書にそっくりだと話題になったが、実際に読むと報道されている事件を元に書かれた本なのではと錯覚するほど、細部まで類似点が多い。ということはこの“後妻業”という仕事、私たちが知る以上にそれを生業としている人がいるのかも知れない。ここまで極端な例は少ないかも知れないが、高齢化社会と貧困が増えると、手っ取り早いのは誰かのお金で生きること。そう考える人がいてもおかしくない。しかし、人として超えてはならない線があるはずだ。身近に忍び寄っているかもしれない新たな“悪”にのみ込まれないためのバイブルにもなる一冊。
『僕は小説が書けない』著者:中村航 中田永一
中村航、中田永一の2人の作家が交互に執筆し、完成させた『僕は小説が書けない』。約1年間をかけ、ふたりの間を30回往復し書き上げられ、さらに5段階の改稿を経て完成した物語は、平凡な高校生のキラキラ光る青春物語。生まれながらになぜか不幸を引き寄せてしまう光太郎。引っ込み思案で人に心を開くことができず、親しい友人もいない。血のつながりのない父親、生みの親ではあるが複雑な事情がある母親、そして何も知らない無邪気な義弟との距離感にも悩み、ぎくしゃくする毎日。そんな光太郎は、高校に入学すると、先輩・七瀬の執拗な勧誘により、廃部寸前の文芸部に入部する。実は光太郎、中学生の時に小説を書こうとして、途中で挫折していたのだ。文芸部にいる個性的な先輩たちと触れ合ううちに、書きたい気持ちを刺激されるが、一歩踏み出せない光太郎。そんな時、文芸部がいよいよ廃部にされるという話が持ち上がり、廃部を免れるにはいくつかの条件を満たさなければならないという通達が。そのひとつが、 “学園祭までに新入部員のオリジナル小説を、必ず1つ以上いれること”。つまり、たったひとりの新入部員である光太郎に、文芸部の存続がかかっているのだ。先輩たちや、文芸部OBの理論派・原田と感覚派・御大にけなされ、励まされ、触れてほしくないところに触れられ、おまけに失恋までしながらも、小説の書き方、そして自分の生き方を見出していく光太郎。いろいろな思いを込めて光太郎が書き上げた小説ははたして、文芸部は廃部を救うことができたのか?
「TOmagazine」墨田区特集号/大相撲の横綱・白鵬
「東京23区のローカルカルチャー」にスポットを当て、毎号1区ずつを特集していくユニークなコンセプトが注目を集めるカルチャー誌「TOmagazine」。その最新号は、墨田区特集だ。一般に「下町」「スカイツリー」のイメージが先行する墨田区だが、知られざるダンスカルチャーや国際色豊かな文化、世界に誇るモノづくりの拠点でもある同区を総力特集。表紙/巻頭は雑誌への登場自体が異例という大相撲の横綱・白鵬。地元の顔として、相撲の町・両国に初めて来た時のことや錦糸町の思い出、そして未来への夢などを語っている。
強権上司・剛腕クライアントに苦しめられている人、必読
人気クイズ番組のプロデューサー神田達也。彼は民放テレビ局員ながらも芽が出ず、40歳過ぎて崖っぷちに立たされていた時に、「クイズ!ミステリースパイ」でヒットを飛ばし、名プロデューサーの仲間入りを果たした。売れっ子となり、公私ともに多忙を極めていたある日、帰宅をすると自宅リビングの壁に高校生の息子・和也が磔にされ、その側らに玉虫色のスカーフを巻いた謎の男が立っていた。そして、和也を人質に「The Name」というゲームをしようと挑んできた。謎の男は神田がもらったという名刺を6枚取り出し、5人の男女を招き入れ、持ち主に名刺を返すように指示。しかし、一度でも間違えば、和也の首に取り付けた爆弾のスイッチを押すと言う。しかも質問は1枚の名刺につき1回だけ。男が出してきた6枚の名刺に書かれた肩書きは、弁当屋経営、クイズ作家、制作会社ディレクター、タレント・マネジャー、高校教師、業態不明のCEO。名刺を見ても、顔を見てもまったく誰だか思い出せない神田は無事に名刺を返して、和也を救えるのか。なぜ、この見知らぬ男が名刺ゲーム「The Name」を挑んでくるのか。このゲームの裏には何があり、その目的は一体?
謎だらけの中、狂気のゲームがスタート。“独裁者”を自認する敏腕テレビプロデューサーの栄光と狂気と闇を、ゲームを進める謎の男が驚愕のエンディングへと導く。人気放送作家・鈴木おさむがTV業界の裏側を赤裸々に描き、権力を得たビジネスマンたちへ警鐘を鳴らす同書は、仕事で夢を叶えようとするすべてのサラリーマンへ贈る鮮烈のエンターテインメント小説だ。
完全復活。『蘇る変態』著者:星野源
ミュージシャン、俳優、文筆、声優などさまざまなジャンルで活躍中の星野源の最新刊。同書は2011年から2013年まで、女性向けファッション誌『GINZA』に連載していた「銀河鉄道の夜」というエッセイに加筆、修正、新たに書き下ろしを加えたもの。連載開始の直後から著者は、アルバムもオリコンチャートをにぎわせ、主演舞台に主演映画と人気がうなぎのぼり。仕事はどんどん入り、休みもほとんどない状態の売れっ子だった。しかし2012年末、突然くも膜下出血で入院。その後一時復帰するものの脳動脈瘤再発で再び休業、再手術を経て療養生活を送る。そんな怒涛の3年間が詰まったエッセイだが、前半はあくまでのほほんと、下ネタ全開の星野源らしいといえば星野源らしい力の抜けたエッセイ集だ。しかし後半、「ありのままを書こうと思う」という書き出しで始まる「生きる」というタイトルのエッセイからは、壮絶な闘病の様子が綴られている。「生きる」には現場で倒れて救急車で運ばれ、手術室に入るまでの出来事が、緊迫感と少しの笑いを持って描かれている。しかしそのエッセイの最後の一文は「地獄はここから」。次のページの「生きる2」からは、どんなに想像力を働かせても、絶対に理解できないだろうと思うほどのまさに“地獄の苦しみ”を味わった日々が書かれている。しかし、それでも適度なエロと笑いが脱力感を誘い、悲惨ではあるが、悲痛なイメージを読むものに与えない。幸い素晴らしい医師と巡り合い、無事に変態は蘇った。死の淵から“完全復活”を遂げた著者の今後の活動が楽しみだ。
あらゆる立場の人が読んでもためになる社会人必読の書
「終身雇用」「年功序列」「大企業=安定」という図式が崩壊した最近の就職事情。大卒の新入社員は3年で3割辞めるなど、社会情勢や働くスタンスは大きく変化している。しかし、チームのマネジメント方法は昔から変わらず、旧来のパワーマネジメントがそのまま受け継がれているのが現状で、それでは今の20代の部下・スタッフはついてこないと著者はいう。同書は、そんな最近の時流の中で実践的にあらゆるリーダーの中で育まれた「ソフトマネジメント」という手法のリーダー本。より丁寧で、より個人的で、よりそばに寄り添うマネジメント法なので、内気で陰気な人でもリーダーになれる、リーダーシップは必要のない方法だ。具体的には、旧来型のパワーマネジメントとは、「自分目線の」マネジメントで、飲み会で自分の失敗談を話し部下を励まそうとしたり、育てるためにレベルの高い仕事を振ったりするというもの。それに対しソフトマネジメントとは「部下と同じ目線に立った」マネジメントで、部下の悩みを解決しようと思わないとか、仕事は小さいことから任せていくというもの。その大前提を踏まえ、コミュニケーションの仕方、部下への正しい仕事の任せ方、モンスター部下への対処法などをわかりやすく解説している。現在リーダーとして部下やスタッフを抱えている人やリーダーになったばかりで途方にくれている人はもちろん、部下の立場の人が読んでもためになる社会人必読の書。
願いと呪いは紙一重。あらゆる女が心にかくまう、黒い魔物–
京都の下鴨神社の近く、住宅街の一角に人知れずひっそりとたたずむ神社。その神社には言い伝えがあった。曰く、社に自分の血を吸わせて願い事をすれば叶うと。兄のように慕っていた先輩が、自分の大嫌いな女と結婚してしまった女。おまけに子どもまで授かったと聞いた女は、何を願ったのか(「安産祈願」)。裕福な暮らしをしている専業主婦の女の願いはただひとつ。息子が受験に成功すること。それで女の人生は完璧になるはずだった(「学業成就」)。仕事にやりがいを感じているアラフォーの女。妻子ある男性に心ときめかせているだけで十分幸せだったのに、その男が本性をあらわしてきて(「商売繁盛」)。植物状態になった父親を献身的に看護する女。周りからは自分を犠牲にして偉いと褒められ、家族からも感謝されている。そんな女の心に蠢く真実とは(「不老長寿」)。高校時代からずっと片思いをしていた相手と、2人だけ同じ大学に進学した女。同郷ということもあり、その距離は徐々に近づき、初恋の相手と結ばれた女は幸せの絶頂だった…はずだが(「縁結び祈願」)。優しい夫、素直で真面目な息子を持つ女。絵に描いたような幸せな家族に段々ほころびが。女は願う。仲のいい家族に戻れたら、それだけでいいと(「家内安全」)。6つの短編からなる同書。それぞれ満たされた人生だったはずなのに、ほんのちょっと欲張っただけで、坂道を転がり落ちるように、不幸になっていく。しかしその神社により彼女たちの願いは意外な形で叶えられる。
恋愛成就!悪霊退散? 彼の正体は貧乏神!?
2012年『おしかくさま』で第49回文藝賞を受賞した谷川直子の受賞第一作。主人公のエリカは、モデルのオーディションを受けていて、まったく働かないシュウくんに貢ぎ続け、借金まみれ。ついに、返済のメドがたたず、借金取りから逃げるように、地元の幼なじみさえちゃんの家に転がり込む。しかしそこでもさえちゃんに借金をしてまで、シュウくんのために金策に走り回るエリカ。そんな彼女はある日、全身黒づくめの女に、あなたの彼は貧乏神だと告げられる。その女は、BHK、すなわち貧乏神被害者の会だと名乗り、エリカに“貧乏を断つため”の会、段貧サロンに参加することをすすめる。シュウくんを信じたいエリカは、拒否するが、さえちゃんに付き添われ、取り敢えずサロンに行ってみることに。そこには、かつて貧乏神依存症で現在、断貧真っ最中の女たちがいて、過去の彼氏がどんな男だったか、またどうやって断貧をしたかについて、語り合っていた。彼女たちもイケメン、スタイル抜群、でも働かない男と付き合っていて、彼らはみな貧乏神だったという。シュウくんは貧乏神じゃないと信じたいエリカだが、サロンに参加するうちに、段々と疑惑が広がっていき…。シュウくんは貧乏神なのか!? そして、エリカはその愛を貫くことができるのか? 愛と金、究極の選択に女の気持ちが揺れ動く。
恋愛成就!悪霊退散? 彼の正体は貧乏神!?
2012年『おしかくさま』で第49回文藝賞を受賞した谷川直子の受賞第一作。主人公のエリカは、モデルのオーディションを受けていて、まったく働かないシュウくんに貢ぎ続け、借金まみれ。ついに、返済のメドがたたず、借金取りから逃げるように、地元の幼なじみさえちゃんの家に転がり込む。しかしそこでもさえちゃんに借金をしてまで、シュウくんのために金策に走り回るエリカ。そんな彼女はある日、全身黒づくめの女に、あなたの彼は貧乏神だと告げられる。その女は、BHK、すなわち貧乏神被害者の会だと名乗り、エリカに“貧乏を断つため”の会、段貧サロンに参加することをすすめる。シュウくんを信じたいエリカは、拒否するが、さえちゃんに付き添われ、取り敢えずサロンに行ってみることに。そこには、かつて貧乏神依存症で現在、断貧真っ最中の女たちがいて、過去の彼氏がどんな男だったか、またどうやって断貧をしたかについて、語り合っていた。彼女たちもイケメン、スタイル抜群、でも働かない男と付き合っていて、彼らはみな貧乏神だったという。シュウくんは貧乏神じゃないと信じたいエリカだが、サロンに参加するうちに、段々と疑惑が広がっていき…。シュウくんは貧乏神なのか!? そして、エリカはその愛を貫くことができるのか? 愛と金、究極の選択に女の気持ちが揺れ動く。
ミステリー界激震! 国民的名探偵が迎える衝撃のラスト
テレビドラマでも人気の浅見光彦が、ついに最後の事件に挑む。構想6年、シリーズ最大の力作とあり、事件は戦前から現代、また舞台も東京、軽井沢、丹波篠山、神戸からヨーロッパまでワールドワイドに展開。謎の連鎖が光彦を、事件の真相に誘う。始まりは浅見家に届いた一通の手紙。それは本人が知らない間に企画された光彦の34歳のサプライズパーティーの案内状だった。発起人の一人、本沢千恵子はドイツ人ヴァイオリニスト、アリシア・ラインバッハと浅見家を訪れ、丹波篠山で行われる音楽イベントに2人が出演する際に、ボディーガードを頼みたいという。アリシアはドイツにいる祖母に、丹波篠山で「インヴェ」という男が持っているという楽譜を受け取ってくるように言われていた。
しかし、そこに待ち受けていたのは殺人事件で、光彦は容疑者の疑いをかけられてしまう。そしてアリシアの頼みでドイツへと赴いた光彦は、丹波篠山の事件と、70年前に企てられた陰謀に繋がりがあるのではと直感する。綿密に組み立てられ、何十年もの間沈黙していた歴史の暗部が今暴かれる?! この事件を機に、探偵を辞め、人生を見つめ直す光彦。正義と大義の狭間で戸惑う名探偵・浅見光彦がたどり着いた究極の決断とは。