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野球解説者・工藤公康氏が「成長し続ける極意」を語る新刊『孤独を怖れない力』

2014.05.11 Vol.617

 名選手、必ずしも名監督にあらず」とはスポーツ界ではよく言われる言葉だ。同様に、名選手が引退後に解説者、評論家として必ずしも成功するとも限らない。名選手と呼ばれるような人は、戦術といったややこしいことを、その天賦の才能で超越した現役生活を送ってしまうからなのだろう。

 前振りが長くなってしまったが、今回紹介する『孤独を怖れない力』を発表した工藤公康氏は名選手でありながら名解説者であるということに異論を唱える人はまずいないだろう。

 工藤氏は2011年に48歳で引退。実に29年もの長きにわたりプロ野球のマウンドにたち続け224勝をあげた。その個人記録もさることながら、西武ライオンズで8度の日本一、FA移籍したダイエーホークス(現・福岡ソフトバンクホークス)、読売ジャイアンツでも日本一に貢献するなど“優勝請負人”ともいわれた。特に当時下位に低迷していたホークスでは自ら嫌われ役になりながらも選手たちの意識改革を行い、常勝チームに育て上げた。

 現在は評論家の他に筑波大学大学院で「外科系スポーツ医学」を勉強中。常に学ぶ姿勢を忘れない。
 そんな工藤氏が月刊誌『BIG tomorrow』に連載されたコラム『人生、一球入魂』を新たな書き下ろしも加えて書籍化した。

 本書ではその現役生活を振り返り、個人もチームも成長し、結果を残し続けるための極意が綴られている。
 48歳まで現役を続けるためには信じられないほどの肉体のトレーニングと強靭な精神力が必要。工藤氏はその現役生活の中でさまざまな経験をし、人と出会い、そのつど野球人として、社会人として大事ななにかに気づいていく。

 いわゆる“自己啓発書”のジャンルになるのだが、実例というか行動が伴いすぎているだけに、その説得力たるや、他の追随を許さない。

『BIG tomorrow』は男性ビジネスマン向けの雑誌なので、女性は手に取りにくい。このコラムの存在を知っていた女性も少ないと思われるが、せっかく書籍化されたので、女性にも読んでもらいたい一冊。

ポテトサラダがおいしい店は何を食べてもウマイのだ!

2014.04.26 Vol.616

 家庭の味として大人から子どもまで人気のポテトサラダ。一見シンプルな料理かと思いきや意外とこだわりが多く、ポテサラだけのレシピ本もあるほど。居酒屋やバーに行って、そこにポテサラがあれば必ず頼むという人も多いのでは。

 監修のマッキー牧元は、音楽制作会社在職中から食べ歩きを始め、現在はフリーランスの「タベアルキスト」として、多数のグルメ雑誌で執筆をしている根っからの食いしん坊。そんなマッキー牧元がポテサラを愛するあまり「ポテトサラダ学会」を設立。同書では、会長である彼とポテサラを愛する各界の著名人が厳選したポテサラがおいしい名店36軒を紹介。各店のポテトサラダが、どんな酒に合うか、隠し味は何か、ポテサラに投入している具材は何かなど、細かくリポート。そのほか、掲載されている店の秘伝のレシピ公開、ポテサラの脇役カタログ、世界のいも料理などのコラムも充実。巻末にはポテサラスペックから逆引きできる、ポテサラ酒場便利帖も。

 場所でも予算でもジャンルでもなく、あくまでポテサラメインで店を選べる、ポテサラファンには必携の一冊。

ライジングスターをいち早くチェック!
VOCAL BATTLE AUDITION Presents”VOCAL BATTLE STAGE 2014″

2014.04.13 Vol.615

 ボーカルとダンスの融合で唯一無二のエンターテインメントを送り出す、EXILE。彼らを作り上げる上で重要なのがオーディションだ。なかでもボーカリストを発掘するVOCAL BATTLE AUDITION(VBA)からは、多くの才能が生まれている。本公演はオーディション出身のボーカリストが集結するもの。EXILEのNESMITHとSHOKICHI、三代目 J Soul Brothersの今市隆二&登坂広臣らが美声を響かせる。

印象派と琳派が分かれば絵画が分かる!
東京の名画散歩「絵の見方・美術館の巡り方」

2014.04.12 Vol.615

 ときどき美術館デートをするけど実は“絵画の見方”が分からない…。美術ソムリエ・岩佐倫太郎が、そんなあなたのために“美術鑑賞のコツ”をレクチャー。それはズバリ、まずは“琳派”と“印象派”を知ること。本書では、まずはその2つを自分の鑑賞テーマとして鑑賞眼の“スタンダード”を作るという方法を、日本の美術館で見ることができる名画の数々とともに紹介する。国立西洋美術館や東京国立博物館といった東京の有名美術館から、ブリヂストン美術館や出光美術館といった“琳派”と“印象派”を知る上では欠かせない美術館まで “ここではコレを見るべし”といったポイントを分かりやすく伝えながら見どころを解説。

 本書を読めば、自分の鑑賞体験がより充実することはもちろん、トリビアを一緒に行った相手に披露する楽しみも味わえるはず。「絵の鑑賞のコツはワインの舌を養うのにも似ている」と著者。上手にコツをつかんで、美術鑑賞をより楽しく有意義なものにしてみては。

何百年も続く呪いの果てに…。奇跡のミステリーここに完結!!

2014.03.30 Vol.614

 累計36万部のヒットとなった「長い腕」シリーズ完結編。家の歪みが末代まで祟り、最先端のネット社会にまで影響を及ぼす『長い腕』、かごめ唄に隠された謎と呪いが現代によみがえる『呪い唄』。そして今回、曼珠沙華=弔い花が手向けられたのは一体誰なのか? 江戸の末期に四国の早瀬村で宮大工をしていた喜助は、あることをきっかけに村の者たちから壮絶ないじめを受け、一家心中に見せかけ殺されてしまう。その中で唯一生き残った幼い息子は成長し、やがて名棟梁として名を馳せる。彼は晩年、故郷の早瀬村に戻り、復讐のために密かに呪いを張り巡らせるのだが…。そして現代。早瀬村の旧家で、東屋敷の一人娘が殺害されるという事件が起きた。それは喜助の息子による呪いの罠なのか? またそこから発生するネットを中心とした暴動なども、時を超え巧妙に張り巡らされた呪いの連鎖なのか?

タクシー運転手が語る波乱の人生

2014.03.30 Vol.614

 最近、いくつもの書評で取り上げられ話題の『東京タクシードライバー』は、さまざまな事情でタクシードライバーになった13人の人生を聞き書きしたノンフィクション。著者はなぜタクシードライバーの人生にひかれたのか。
「ある晩、バブル崩壊で取引先が倒産した煽りを受けて、経営していた会社が潰れてしまったというドライバーさんのタクシーに乗ったんです。降りる時になって、元社長というドライバーさんが1冊の大学ノートを取り出して、見てくれないかと言ってきました。そのノートにはお客さんを乗せた場所、時間、運賃、そして職業まで細かく書いてあって、これを分析して効率よく稼いでいるから営業所でトップの成績なんだと言うのです。自分はタクシーの運転手になっても、ナンバーワンなんだと。聞いていてなんだか切なくなりましたが、同時に、こういうストーリーを持ったドライバーさんが他にもたくさんいるのではないかと思い取材を始めました」
 元社長、元俳優、元外資系企業の営業マン、夫が専業主夫をやっている女性ドライバーなど、どのストーリーも小説よりずっとずっと波乱に満ちている。
「そうなんです。1話目の“奈落”は妻の浮気が原因でホームレスになり、新聞の勧誘員やソープランドの呼び込みなどさまざまな職業を転々としながら地獄のような日々を送り、そこから必死で這い上がってきた人の話です。そんなかなりヘビーな話などを、1話完結の読み物として面白く読んでもらえるようにしました」
 前向きになれた、元気が出たなど、ポジティブな感想が多いとか。
「苦労しながら頑張って生きているドライバーさんたちの姿に勇気づけられたと言ってくださる読者さんもいます。取材を通して感じたのは、ドライバーさんにはとても人間的な人が多いということ。ひとりひとりのドライバーさんの人間性の素晴らしさが、読んでくださった方に伝わっているのかもしれません」

マンガ『ちひろさん』に見る理想の生き方と人との接し方

2014.03.16 Vol.613

 レディースコミックというと、ひと昔前、というか黎明期は嫁姑やご近所ものといった内容で、主婦のひまつぶしなんて思われていた時代もあった。
 しかし、どうやら最近ではそういう認識は改めなければいけないようだ。むしろ青年誌に近いテイストの作品も増え、その中から名作も生まれている。
 以前は、家に置くスペースがないから、高いから…などという理由で女性誌=単行本が売れない、と考えられることが多かったが、手元に残しておきたくなるような作品も多くなっている。
『ちひろさん』(秋田書店刊 650円=税込)という作品もそんな一冊だ。
 同作は『ショムニ』を描いた安田弘之がかつてモーニング(講談社)の増刊号などで連載していた『ちひろ』の続編にあたる作品。
『ちひろ』は風俗嬢のちひろと、夜の街に生きる人々を描いた物語だった。人気ナンバーワンなのにふらりと店をやめ、お客をしばりつけることなく、野良猫のように生きる彼女は、熱狂的な読者を獲得した。
 今回、10年以上の時を経て新たに描かれる『ちひろさん』は、そんなちひろが海辺の小さな弁当屋で働いているところから始まる。
 元風俗嬢であることを隠さず、マイペースな接客をする彼女のもとにはかつてソープ嬢だったころと同じようにさまざまなお客が訪れる。
 人間関係、恋愛、仕事、家庭…さまざまな問題を抱えながらも、彼女と接することで新たな生き方をたぐり寄せる登場人物たち。そんなエピソードを通じて、読者も癒される。
 レディースコミックでは読者が自分を主人公に置き換えられるようなものが主流なので、少年誌や青年誌のようにキャラが立ちすぎた主人公の作品は受け入れられにくい傾向がある。そんな意味でも、この『ちひろさん』は異例な作品。
 編集部にも20〜50代と幅広い読者から「ちひろさんの生き方にあこがれる」といった感想も多く寄せられるという。
 テレビ朝日やテレビ東京の深夜枠でドラマ化したらものすごく人気が出そう、そんな作品。

わたしたちのすごさを世界中に見せつけてやる『てらさふ』朝倉かすみ

2014.03.16 Vol.613

 北海道の小さな町で運命的に出会った堂上弥子とニコこと鈴木笑顔瑠。中学生の2人はそれぞれ「ここではないどこか」に行くため、有名になることを決意する。手始めに、弥子が立てた計画は、ニコとして読書感想文で賞を取ること。弥子が読書感想文に選ばれた作品を読み、どう書けばいいかを綿密に分析、そして書き上げた作品をニコの名前で応募する。つまり2人は前に出る側と後ろに回る側に分かれ、“堂上にこる”という最強の女の子を作り上げたのだ。文学の才能を持つ美少女というキャラクターを武器に、次に2人が狙うのは史上最年少の芥川賞作家。しかし、そのころから運命の出会いだったはずの2人には、微妙な距離ができてくる。ゴーストライターによって有名になっていく自分に違和感を覚えるニコと、裏でニコを動かしている弥子。少女たちは「ここではないどこか」にたどり着けたのか!?

息子は自閉症、そして12歳の宇宙物理学者

2014.03.02 Vol.612

 アメリカに住む少年ジェイコブはアインシュタイン級のIQの持ち主。記憶力が抜群で、2週間で微積分を独学で習得。さらに9歳で大学に入学し宇宙物理学についての独自の理論に取り組み、ノーベル賞候補になると言われている。しかし、そんな天才児がその能力を開花させるまでには、大きな壁があったのだ。
 インディアナに住むクリンスティン・バーネットは結婚し、待望の子どもを授かる。しかし、長男として生まれてきたジェイコブは、2歳の時に自閉症の一種、アスペルガー症候群だと診断される。将来自分で靴紐を結べるようにはならないと言われたが、クリスティンはジェイコブが持つ才能を信じてみることにした。発達障害の専門家たちのアドバイスを無視し、徹底的にジェイコブのやりたいことをやらせる。なぜみんなは息子ができないことばかりに注目するの?なぜできることに目を向けてくれないの? 母は息子が数字に異常な興味を示すことを発見し、ある日天文学の講義に誘う。するとジェイコブは、宇宙の法則を見つけ出すことに喜びを感じるようになり、必要な知識をスポンジのようにどんどん吸収していく。そして学ぶ喜び、真理を導く喜び、それを分かち合う喜びみ目覚め、他者とのコミュニケーションが可能になっていった。大きな障害に立ち向かい、息子に普通の楽しい子ども時代を体験させたいと手探りで戦ってきた日々。自閉症の子どもを持つ母親に勇気を与える本であるとともに、すべての子どもには無限の能力が備わっていて、それを引き出すきっかけがあれば輝かしい可能性が開けるということを教えてくれる一冊。

これもみんな、愛。『究極の愛について語るときに僕たちの語ること』コエヌマカズユキ

2014.02.16 Vol.611

 ジャーナリストとして活躍する一方、夜は新宿のゴールデン街のバー「月に吠える」のマスターとして働く著者による、いろいろな愛の物語について綴った本。新宿ゴールデン街で出会った人、またそんな人たちに紹介してもらった人、さらにはインターネットで知り合った人などに取材をして書き上げた6つの物語が紹介されている。
 ざっとあげると「車椅子の男と風俗嬢のカップル」「レズビアンの女」「お見合い結婚をした夫婦」「植物状態の妻を介護しつづける男」「ネット上でしか恋愛できない女」「ラブドール愛好家」。ヘビーなものから、ライトなものまでさまざまだ。赤裸々に語られるその物語は特別で異常な愛に映るかもしれない。しかし、著者の偏見を持たない目で彼らと対峙し、聞き出し、書き上げられた作品には、何か普遍的でシンプルな愛を感じることができる。見た目や職業、価値観、性的指向は人それぞれだ。
 この世に普通の人はいない。みんなどこかしら特殊だ。いや、特殊なことが普通なのだ。そう考えると、この本に登場する人たちの恋愛は彼らにとってごくごく普通の恋愛であると言える。ピュアすぎて、不器用すぎて、読んでいるこちらの胸が痛くなる話もある。しかし、読み終えたあと、共感できる気持ちが芽生えている事に気づく。

あなたのために、復讐してあげるから–。『美幸』鈴木おさむ

2014.02.02 Vol.610

 新聞社主催の書道コンテストで優勝し、メディアに取り上げられて目立ったことから、学校でいじめにあうようになった少女・美幸。
 彼女は、何も理解してくれない親を恨み、いじめに気がつかない鈍感な教師を憎み、誰ひとり味方になってくれないクラスメートを呪詛するようなひとり遊びにより、かろうじて学生時代をやり過ごしてきた。
 そんな彼女が就職した先は芸能事務所。そこで元役者で、今はマネジャーとして働いている雄星に出会う。彼もまた、上司から執拗ないじめにあっていた。そんな彼の境遇を自分と重ね合わせていくうちに、いつしか彼のことが気になりだし…。美幸が雄星に誓った無償の愛は、どんでもない行動を彼女に起こさせる。ただ、彼を救いたい、彼を傷つけるもの、悲しませるものを排除したい。その一心で彼女は恐ろしくも時に滑稽な復讐を企てていく。
 彼女がすべてを投げ出した無償の愛の行方は? そして、その先にある意外な結末は?! 復讐に取り憑かれた美幸は、恐ろしくもあり、悲しい。彼女の心に平穏が訪れる日が来るのだろうか。著者初めての恋愛小説は、本当の意味の無償の愛を感じさせてくれる切なすぎる物語だ。

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