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人はなぜ、罪を犯すのか?『犯罪小説集』【著者】吉田修一

2016.10.26 Vol.677

 人間の内面、特に犯罪を犯す者の心情を丁寧に紡ぎ『悪人』や『怒り』など映画化され大ヒットした作品も多い著者の最新刊。

 小学校の帰り道にある一本杉の前で消息をたった少女。直前まで一緒にいたため、10年を経ってもなお罪悪感を持ち続ける友人。そして当初から疑われていた無職の男と村人たちの張り詰めた関係を描いた「青田Y字路」。名門の家に生まれ、何不自由なく育った男がギャンブルにハマっていく姿をスリリングに展開する「百家楽餓鬼」。

 そして鳴り物入りでプロに入団。華やかな経歴を誇りながら引退したが、その後もそのきらびやかだった生活が忘れられない元プロ野球選手の転落人生「白球白蛇伝」ほか5編を収録。

 それぞれ、犯罪に無関係だった人々が陥った闇と、その闇があぶり出す世界を表現した。きっかけは、執着だったり、嫉妬であったり、自暴自棄であったり、好奇心であったり、感情のすれ違いだったりと日常にありがちな些細な事。普通ならもつれることのないその些細な感情が、意図せず交錯し、やがてほどけないほどに絡まりあった時、悲劇への入り口が扉を開く。それに気づかずに踏み込んでしまった人々。最初から悪意があったわけではない。むしろ善意の人もいたはずだ。しかし、そこからは転がるように落ちていき、自分ではどうすることもできなくなっていく。この本を読むと、犯罪を憎む気持ち、人の弱さを笑う気持ち、転落する人生を憐れむ気持ちなどは起こらない。なぜなら、自分の身にいつ降りかかってもおかしくないと思えるから。そこにあるのはただ、壮絶で哀しい5つの物語だ。

ゲームでいつでもどこでも音楽の秋!「バンドやろうぜ!」

2016.10.10 Vol.676

食欲の秋、勉強の秋、運動の秋、ファッションの秋。この秋あなたは何をして過ごす? まだ決めていないのなら音楽の秋はいかが? 楽器が弾けなくても歌えなくても、楽譜が読めなくたって、ぼっちだって、「バンドやろうぜ!」は、いつでもどこでもバンド気分が味わえる青春リズムゲームアプリだ。

 ゲームにはそれぞれ独特な魅力を持つ4つの4ピースバンド。バンドにはそれぞれ何か問題や悩みを抱えながら、バンドの頂点を目指す。バンドごと、キャラクターごとのシナリオが用意されている。ストーリーパートと対戦式のライブパートで構成。シナリオは、試合形式のリズムゲームで戦うライブパートで増やしていく。

 ストーリーに彩りを加えるのは、生き生きとした映像などさまざまな演出。そして、キャラクターに命を吹き込む声だ。それぞれ人気声優たちが担当し、劇中の楽曲もキャラクター自らが歌っている。ゲームの世界観はぎゅっと固められていて、遊び始めたらバンドをやりたくなってしまうこと間違いなし。

アドバイスなのかバカの図鑑なのか…『バカざんまい』著者・中川淳一郎

2016.10.09 Vol.676

 ネットニュース編集者の中川淳一郎氏の週刊新潮での連載コラム「この連載はミスリードです」が本になった。

 日本中にあふれる「バカ」な人たちや現象を「コメンテーター編」「社会編」など大きく8分野に分け、そのならではの視点でツッコミ、そして切り捨てる。

 仕事柄ネット上のニュースをくまなくチェックし、ネット界隈の有象無象に絡まれる日々を送る中川氏だけにバカを見極める選球眼にはさすがなものがある。

 ただバカをあげつらうだけではなく「こういうことをするとバカにされますよ」というアドバイスが込められているようにも思えるし、その一方でひょっとしたらただひたすらにいらっとしているだけかもしれない…とも思わせるのが中川氏の巧みなところ。相変わらずの底の丸見えの底なし沼テイストに今回も手の平の上で泳がされる。

 最近バカな話が多すぎて忘れかけていた話題も思い出させてくれるというありがたい側面もある。

【LIVE REPORT】9.19/20 TOKYO DOME “BABYMETAL”

2016.10.09 Vol.676

 国内はもとより世界中で旋風を巻き起こしている女性3人組メタルダンスユニットBABYMETAL。そのBABYMETALが日本人アーティスト初となる英国ウェンブリーアリーナでのワンマンLIVEを皮切りに3回目のワールドツアーを開催。そのファイナルとして、9月19、20日に東京ドームでの初ワンマンライブ『BABYMETAL WORLD TOUR 2016 LEGEND ― METAL RESISTANCE ― RED NIGHT & BLACK NIGHT』が行われ、両日で自己最多の約11万人を動員、新たな伝説を築いた。

未来を、あきらめない!『ちはやふる −上の句−』

2016.09.27 Vol.675

 2009年第2回マンガ大賞受賞、2010年「このマンガがすごい!オンナ編」第1位獲得、第35回講談社漫画賞少女部門受賞のベストセラーコミックを、超豪華キャストで実写映画化。“競技かるた”に懸ける高校生たちの情熱、恋、夢を二部作で描く。主人公・千早(ちはや)役には映画『海街diary』など話題作への出演が続く広瀬すず。 綾瀬千早、真島太一、綿谷新の3人はいつも一緒に“競技かるた”で遊ぶ幼なじみ。しかし家の事情で新と離れ離れになってしまう。高校生になった千早は新に会いたい一心で“競技かるた部”を作り、全国大会を目指す。

もやもや女子におすすめの一本【腕利き宣伝マンが猛プッシュ コレよ、コレ!】

2016.09.25 Vol.675

「mizhen」と書いて「ミズヘン」と読む。脚本家で演出家の藤原佳奈が主宰する演劇創作ユニットだ。10月5日から約1年半ぶりの公演となる『夜明けに、月の手触りを?2016?』を新宿のSPACE梟門で上演する。同作は昨年の劇作家協会新人戯曲賞最終候補作品だ。

「26歳の時に書いた旗揚げ作。この作品で、佐藤幸子、佐藤蕗子とともにmizhenを本格的に始動しました。20代後半の女性たちの話なので、30歳までに再演したいという思いはもともとありました。劇作家協会の戯曲賞に応募して、審査員の方からいろいろ言葉をいただくなかで、作品を振り返る機会があり、今がちょうどいいタイミングなんじゃないかと思って、今回再演することにしました」

 20代後半の女性が見ると…。

「ずしずし来るみたいです。20代後半に差し掛かると、30歳を見据えて、なんだかもやもやした不安だったり焦りだったりが湧き上がってきて、この手触りを残しておきたい、と思ったのがこの作品を書くきっかけでした。29歳になった今、多少諦めが出てきて、また少し違った角度からその感触を捉えています。わたしは日本で女性が生きるなかで感じることにとても興味があるのですが、劇中のもやもや女子たちを見ることは、同世代だけでなく、面白いんじゃないかなと思います」

 とりあえず「もやもや女子」本人と、そういう女子の面白さに興味のある方はぜひ!

「セックス」も「家族」も、世界から消える…『消滅世界』

2016.09.25 Vol.675

『コンビニ人間』で芥川龍之介賞を受賞した村田紗耶香の『消滅世界』。朝日、読売、毎日、日経、産経各紙のほか、多くの雑誌で話題となった衝撃作だ。

 舞台は世界大戦をきっかけに、人工授精が飛躍的に発達したもうひとつの日本(パラレルワールド)。そこでは生殖と快楽が分離され、人々は人工授精で子どもを産むことが普通となっている。主人公は、自分の母親が夫と“近親相姦”をして交尾し、生まれたという事に“引け目”を持つ雨音。雨音はそんな母親に反抗するように、ほかのクラスメートと同様、アニメのキャラクターに恋をする。この先もヒトと恋愛することなく、人工授精で子どもを産み、ヒトではないものと恋愛をしながら家族として暮らしていくと信じて…。

 雨音は成長し、パートナーを探すパーティーで出会った朔と結婚。お互い別の恋人を持ちながら、家族として平穏な日常を過ごしていた。セックスの無い、清潔で無菌な生活に満足をしていた2人だが、あることをきっかけに、千葉にある実験都市・楽園(エデン)に移住することに。

 そこは、毎年1回、コンピューターにより選ばれた住民が一斉に人工授精を受け、人口を完璧にコントロールするという実験が行われている場所だった。

 そこでは男性も人工子宮を身に着け受精し、人工授精で出産された子どもはセンターに預けられ、受精する年齢になったら大人とみなされセンターを出る。その世界では、すべての大人がすべての子どもの“お母さん”となり愛情を注ぎ続けるのだ。最先端の技術で、“家族(ファミリー)システム”ではなく“楽園(エデン)システム”で、繁殖されるヒトによる世界。その実現に向けた壮大な計画の中で、雨音と朔は生きることを決意。しかし、同じ日に人工授精した2人の関係は、微妙にずれはじめる…。

 ヒトが生まれる意味と、そこから繋がる世界について、日本の未来を予言する圧倒的衝撃作の誕生だ。

THL編集部オススメMOVIE『レッドタートル ある島の物語』

2016.09.16 Vol.674

 嵐の中、荒れ狂う海に放りだされた男が九死に一生を得て、ある無人島にたどり着いた。必死に島からの脱出を試みるが、見えない力によって何度も島に引き戻される。絶望的な状況に置かれた男の前に、ある日、一人の女が現れた…。

【TOKYO GAME SHOW 2016】今年もコンパニオンさんが気になります…part 3

2016.09.15 Vol.674

新たな傑作がここに誕生!『ナイスガイ in ニューヨーク』

2016.09.11 Vol.674

 プレイボーイの兄とマジメな弟が巻き起こす大騒動を描く、ニール・サイモン原作の『ナイスガイ in ニューヨーク』が上演される。洗練された軽妙なユーモアと、次々に繰り広げられる想定外の展開、そしてクライマックスには感動の名場面も!ブロードウェイが誇るコメディー王と日本コメディー界の鬼才による、新たな傑作がここに誕生。舞台はニューヨーク。ハンサムでプレイボーイ、女性の訪問が絶えない兄の部屋にある日やってきたのは、生真面目な弟。父親の支配から逃げて家出をしてきたのだ。内気な弟に女性と付き合う楽しさを教えようと一大計画を立てた兄は、彼を立派な紳士に仕立て上げる。自分の部屋に弟を住まわせ、女性たちを次々と送り込むが、ある日、1本の電話の手違いにより2人の母親がやってきてしまう!

 突然の来訪、しかも泣きじゃくる母をようやく家に帰したところで、今度は頑固一徹の父親まで登場。混乱した状況に慌てふためく兄弟をよそに、事態は予想もつかない方向に転がっていき…。20世紀を代表する偉大なシンガー、フランク・シナトラ主演の映画版の名曲を井上芳雄が歌い上げる。チケットはローソンチケットで! プレイガイド最速抽選先行は、9月14日(水)12時〜19日(月・祝)23時59分まで。先着先行は22日(木・祝)12時〜開始。一般発売は10月1日(土)10時から。

この男、前代未聞のトンデモ作家か。はたまた推理冴え渡る名刑事か!?

2016.09.10 Vol.674

 主人公の毒島真理は、売り出し中のミステリー作家。新人賞を獲りデビューした後も、執筆活動が順調の売れっ子作家だ。しかし、それ以前は、検挙率1番の敏腕刑事で、退官後すぐに刑事技能指導者として再雇用されたという経歴を持つ。捜査一課に配属されて半年になる高千穂明日香は、フリーの編集で文学賞の下読みを担当する百目鬼が殺害された事件の犯人像についての参考意見を聞くために、毒島の元へ行かされた。童顔で温和な笑顔を見せ、飄々と話をする毒島は、先輩刑事に聞いていたほど変わり者ではないと感じたのだが、話をするうちに、とんでもなく皮肉屋で性格のねじ曲がった男だということが判明。

しかし、話を聞いただけで、犯人の目星をつけ、事件を鮮やかに解決に導く手腕はさすがの一言だ。その後も、作家の尊厳などどうでもいいという高飛車な編集者、若手作家に厳しい大御所作家、自称辛口書評家、人気作家につきまとうストーカーなど、出版業界周りの事件になると毒島の出番となる。そんな時、毒島の小説がドラマ化されることになるが、ここでも視聴率主義でタレント優先のプロデューサーの横暴が。原作の骨格がなくなるほど、手を加えられた脚本をめぐり、ついにプロデューサーが殺害されるという事態に。監督、脚本家、そして毒島自身が犯人として浮上。アリバイなしの動機ありというピンチに、毒島は一体どんな結論を導き出すのか?!

それにしても、ここに出てくる出版業界周りでうごめく人間の変人さ加減といったら、毒島以上ともいえる。これが本当の出版業界かと思えば、さにあらず。著者紹介のところにこんな一文が。「この物語は完全なるフィクションです。現実はもっと滑稽で悲惨です」。魑魅魍魎、いろいろな化け物がうごめく業界だが、一番の化け物は毒島本人だ。それはイコール筆者なのか?! 同書は、極上ミステリーとそんな業界の裏側も楽しめる。

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