SearchSearch

THL編集部オススメMOVIE『四月は君の嘘』

2016.09.10 Vol.674

 天才ピアニスト有馬公生は、母の死をきっかけにピアノが弾けなくなってしまう。高校2年生となった公生はヴァイオリニストの宮園かをりと出会う。勝気で自由奔放な彼女の豊かな演奏に引かれた公生は、再び音楽と向き合い始めるが、実は、かをりは重い病に侵されていた…。

コメディーなんだけど家族についてちょっと考えさせられる 舞台『家族の基礎〜大道寺家の人々〜』上演中

2016.09.09 Vol.674

 

 松重豊と鈴木京香が夫婦役で舞台初共演を果たした舞台『家族の基礎〜大道寺家の人々〜』が現在、渋谷のBunkamura シアターコクーンで上演中。

 本作はNHKのコント番組「LIFE!」の脚本、人気シリーズの舞台「鎌塚氏シリーズ」などを手掛ける脚本家で演出家の倉持裕が初のコクーン公演にあたり書き下ろしたもの。波乱万丈な運命をたどる風変わりな一家・大道寺家の人々の挫折と再生を軽妙なタッチで描く。

 夫婦の長女に夏帆、長男に舞台初出演となる林遣都、一家に長くかかわっていく大衆劇団の座長に六角精児と、豪華で芸達者なメンバーが揃った。

 劇中の回想シーンでの松重の半ズボン姿が話題を集めるなど、コメディー要素は多いのだが、物語が進むにつれ家族のあり方や家族の絆といったシリアスなことにもついつい考えを巡らすことになる。

 松重が初日前の会見で「この稽古の間に、鈴木京香さんと“疑似家族”を作りあげられた過程が幸せでたまらなかった。鈴木京香さんという女優さんというよりも、人間を、僕は本当に好きになりました」と語れば、鈴木は「松重さんは優しくて、穏やかで、とにかく全員に目を配ってくださっていた。おんぶに抱っこされたい、みたいな。頼り切ってしまいたい思いだった。頼もしく思っています」と返す。このやり取りが後から思い返されるような作品となっている。

 渋谷のBunkamura シアターコクーンで28日まで上演。その後、愛知、大阪、静岡でも上演される。

実は知らないホテルの裏技—知らなかったら損しています

2016.08.24 Vol.673

 著者は「姉さん、事件です!」というセリフでおなじみの大ヒットドラマ「ホテル」のモデルになった、伝説のホテルマン。経営、サービスのプロであるのはもちろん、ゼロからホテルを作り上げ、それを世界が認める最高級グランドホテルに引き上げた人物だ。世界中探しても、そのようは経験を持つホテル経営者兼総支配人はいないという事からも、著者がどれだけホテルに精通しているかが分かる。イギリスの元首相ウィンストン・チャーチルが「その国の文化の水準を知るには、その国で最もいいホテルを見よ」と言ったというエピソードが書かれているが、ホテルは国の文化水準を反映し、本来の存在価値を表している。しかし、日本においても、海外においても、その国で最もいいホテルに泊まるという経験はなかなかできないもの。普段ビジネスホテルやシティホテルを利用している人は、高級ホテルに尻込みしてしまいがちだ。

 同書の中で、高級ホテルかそうでないかを簡単に判断する方法として紹介されているのが、「客室を一歩も出なくても、すべてが事足りるのが高級ホテル」で、「客室を出なければ寝る事しかできないのがその他のホテル」というもの。すなわち“必要なものがその場でそろうホテル”それが高級ホテルだと。チップの習慣がなく、サービスになれない日本人は、ホテルマンに対して、どこまでのサービスを要求していいものか気にしてしまう事がしばしばあるが、同書を読むと、かなりいろいろなお願いしても大丈夫だと分かる。しかも、遠慮する必要もないと。が、そこはこちらがプロの客としての振る舞いができる場合の話である。なんでもかんでもワガママを言い、上から目線で命令するのは、サービスを受ける以前に、人としてマナー違反だ。同書は、ホテルで快適な時間を過ごす裏ワザを教えてくれると同時に、利用者をプロの客へと導いている。プロの客はプロのホテルマンを育てる。ホテルという非日常の空間を、上手に使いこなすには、ホテルマンと客が同等にプロであることが必要なのだ。その上で、同書の裏技を駆使しホテルを使えたら、そこは自宅のようにくつろげる場所にもなり、とっておきのスペシャルな日を楽しむ場所にもなる。いいホテルを選ぶポイントやコンシェルジュとの接し方など、日本でも海外でも使える実用的な一冊。

フェスでクギづけにさせられたあのアーティスト「ギヴ・ア・グリンプス・オブ・ホワット・ヤー・ノット」ダイナソー Jr.

2016.08.23 Vol.673

 最新作をリリースしたばかりの米バンド、ダイナソー Jr.は1980年代から長きにわたって活動し、ファンを新陳代謝させながらもシーンのトップで活躍し続けている稀有なバンドだ。往年のファン、新しいファンといった呼び方は彼らのライブを見る限り当てはまらずいつもキッズが騒いているといった印象だ。この夏はサマソニに合わせて開催されたホステスクラブオールナイターでヘッドライナーとしてライブを展開。これからも圧倒的なライブで世界中のファンを楽しませてくれるだろう。

 

演出に千葉哲也氏を迎え問題作を上演【腕利き宣伝マンが猛プッシュ コレよ、コレ!】

2016.08.20 Vol.673

 企画ごとに公演を立ち上げるプロデューススタイルの演劇集団ツチプロが、2年ぶりに本公演を開催。演出は、役者としてだけではなく、演出家としても評価の高い千葉哲也氏。多忙を極める千葉氏へは、3度目のオファーで承諾してもらった。

「今回は、もともと演出家ありきの企画です。千葉さんが持っている圧倒的な芝居力に期待してお願いしました」とプロデューサーの土屋さん。

「千葉さんの芝居はもちろん、演出作品も見てきましたが、観劇中はいつも動悸が激しくなり、観客の息遣いも聞こえてくる。ただ面白いというだけでなく、すごい芝居が見たい。それだけです」

 作品タイトルは「青」、ストーリーは、2人の若者から始まった、外国人を排除するレイシズム騒動が盛んになった現代の東京。
「本来の意図とは別に、騒動が独り歩きして暴走するさまは、今でいうネットの炎上に近いかもしれません。一見難しそうですが、先入観なしに見ていただければ、話自体はすごくシンプルで分かりやすいと思います」とプロデューサー補佐の樋口さん。
「オレが嫌いなら断って下さい。ただ時間が無いだけなら最大限こちらが準備します、と押し切らせて頂きました(笑)」という暑苦しい…いや、熱意あふれる土屋さんが断言。

「9月〜10月にかけて、東京の200以上ある劇場でたくさんの芝居が上演されます。やるからにはその中で一番の芝居を目指したい。千葉さんの求心力とそれに引っ張られ集まった役者とスタッフによって起こる奇跡も目の当たりにしてみたいです」

 

男も女も見惚れる、小気味いいほど男前の女がいた!

2016.08.07 Vol.672

 江戸時代の敏腕出版プロデューサー・蔦屋重三郎をモデルにした「蔦重の教え」の著者による最新刊は、江戸前期に男装の麗人として一世を風靡し、今に語り継がれる太夫・勝山をモデルにした作品。浮世絵や江戸料理に関する著作もあり、江戸文化に造詣が深い著者が、謎の多い勝山太夫の物語を、江戸情緒たっぷりに生き生きと描く。

 主人公の勝山は、湯女風呂で働く、大柄で冴えない少女。ちなみに、湯女風呂とは、風呂やで働く女性で、客の髪を洗ったり、背中の垢を掻くなど、入浴の手伝いをするのが仕事。

 しかし、日中は風呂客の手伝いをしながら、夕刻になると宴席を設け芸妓や、下層の娼婦としても働いていたという。そんな環境に置かれた田舎訛りが抜けず、ボロボロの着物を着て、愛想のひとつもない少女が、吉原の伝説の花魁になるまでのサクセスストーリーだ。

 身なりを構わないものの、その少女・勝に何か光るものを見た細工師の銀次は「俺がおまえを変えてやる。誰もが振り向く、いーい女にな」と宣言。自分の元に置き、踊り、三味線、唄、読み書き、算盤など、一通りの教養を身に着けさせ、着物を与え、化粧を施し、外面、内面から変えていった。そこで誕生したのが、派手な小袖に、黒の着流しを重ね着て、細身の台小刀を差した行きな男姿の勝山だ。勝山の着こなしを真似するもの、そんな男装の麗人をアイドルのように追っかける女の子など、今をときめくファッションリーダーとして、有名になっていく勝山。さらにその人気を押し上げたのが、湯屋での酒競べ対決。娼婦として男性をとらない代わりに、自分を拾ってくれた湯屋に恩返しをしたいと、夜ごと酒豪自慢の男たちと酒飲み対決をし、世間の注目を集めた。女だてらに酒が強い勝山は、連戦連勝。何とか勝山に勝とうと武士までが客となり、その評判はうなぎのぼり、江戸一番の人気者に。しかし彼女の心の中には、常に振り払う事のできない暗い影が。自分を湯女風呂に置いてくれ、優しくしてくれた大好きな先輩・市野、自信の無かった自分を変えてくれた銀次、湯女で働く仲間たち、湯女風呂の主人らによる彼女を取り巻く環境で起こる、楽しい事、つらい事。そして忘れることのできない過去。それらを乗り越え、いかにして吉原一の花魁となったのか。どこか切なく、しかし痛快な勝山太夫の一代出世物語。

【FUJI ROCK FESTIVAL REPORT】20回目のフジロックで最高の夏

2016.08.06 Vol.672

 夏休みも中盤に入り、見回せば日本各地で夏フェスが開催されている。7月22日から3日間、日本の夏フェスを代表するフジロックフェスティバルが新潟の苗場スキー場で開催された。20回目のスペシャルなフジロック。音楽、人、カルチャー、さまざまな要素が入り混じりあったフェスの模様をリポートする。

 “人気”という不確かなものに人生を丸々捧げ、ひっそりと芸を磨き、夢を売る人々のお話です

2016.07.24 Vol.671

「週刊ポスト」の好評エッセイ“笑刊ポスト”が単行本化。堅苦しくなく、自分が触れた、憧れた、リスペクトする芸能人の魅力を高田文夫らしい名調子で綴った本。取り上げる人選も幅広く、岡村隆史、フランク永井、ナンシー関、清水ミチコ、高倉健、立川談志、菅原文田、岸部一徳、森田芳光、柳亭市馬、立川談春、みうらじゅん、石井光三、小倉久寛、吉幾三、森繁久彌、サンドウイッチマン、氷川きよし、太田光、ビートたけし、大瀧詠一、荒井修、水谷豊、立川志らく、徳永ゆうき、望月浩、舟木一夫、中村獅童、樹木希林、宮藤官九郎、倍賞千恵子、六角精児、安藤昇、横山剣、火野正平、堀内健、林家たい平、沢田研二、春風亭柳昇、永六輔、山口小夜子、ポカスカジャン、田中裕二、橘家円蔵、ジェームズ・ディーン、なぎら健壱、立川志の輔、マギー司郎、大竹まこと、伊藤克信、桂米朝、イッセー尾形、なべおさみ、真中満、石川さゆり、国本武春、増位山太志郎など芸人、歌手、コラムニスト、落語家、俳優、イラストレーター、歌舞伎役者、モデルとさまざま。

 昭和の芸能史を飾った人たちの素顔をチャーミングに紹介している。その中には、今月亡くなった永六輔に関する章も。青春期の憧れの星であった永の追っかけをしていた高田。高いチケットを払いコンサートに行き、深夜放送を聞き、その番組に投稿し…と涙ぐましいまでの思いを注ぎ、終いには弟子入りを決意。長文の入門志望を書いたという。その顛末のエピソードがまた洒落ていて、そこに永六輔という人間の茶目っ気、面白み、洗練された生き方が垣間見える。長年の夢が叶い“ふたり会”ライブ「横を向いて歩こう」も開催。その時の掛け合いもまた楽しい。その章で高田は「最も影響をうけた3人といえば“作家部門”で永六輔“落語部門”で立川談志そして“生き方部門”でビートたけしだろう」と書いている。すでに談志も永もいなくなってしまったが、彼らについて書かれた同書は、日本の芸能界の歴史そのものの貴重な資料であるともいえる。長年芸能の世界に携わり、鋭い観察眼と、飛びぬけた記憶力を持つ高田には、もっともっと昭和から平成を彩った芸能の記録を書き残してほしいと思う。

人の心の裏の裏まで描き出す極上のイヤミス6編!!

2016.07.12 Vol.670

 読後、後味が悪く嫌な感じになるがクセになるミステリー“イヤミス”。そのイヤミスの女王といわれているのが、湊かなえ。同書は湊の原点回帰と言われ、6編の短編すべてが読後、心をざわつかせる。

 全編を通して感じられるのが、人間の悪意。ところがその悪意、まき散らしている本人は、善意だと思っているところが恐ろしい。自分はすべて正しい。自分こそ善で、ほかの人から恐ろしいほどの悪意を向けられていると思っている。読み終わると背筋が凍る結末だが、読中はむしろそんな登場人物に共感している自分に気づく。

 表題作の「ポイズンドーター」と「ホーリーマザー」は、それぞれ1編の作品だが、娘と母親側から見た風景を描いている。東京で女優として活躍する弓香の元に、地元の友達から同窓会の誘いがくる。しかし弓香はそれを仕事を理由に断ったのだが、本当の理由は自分の母親。弓香の事をとても心配しているふりをして、弓香を自分の思い通りにさせたい。幼いころは分からなかったが、成長するにつれ、母親のドロドロとした悪意をはっき理解するようになる。そんな母親から逃げるように上京した弓香だが、しょっちゅうかかってくる電話により、神経をすり減らされる毎日。そんな時“毒親”をテーマにしたトーク番組の出演依頼が舞い込み…。弓香は母親の呪縛から解き放たれるのか。

 そして、「ポイズンドータ—」のアンサーストーリーとして同書のために書き下ろされた「ホーリーマザー」には驚くべき結末が書かれている。その2編のほかには、出産のために里帰りした妹と、ずっと実家暮らしで両親の面倒を見ていた姉の関係を描いた「マイディアレスト」。脚本家を夢見てコンクールに応募、最終選考に残った3人の男女の称賛、嫉妬、葛藤などのもやもやした心の動きを追った「ベストフレンド」。同じアパートに住む男の子が母親に虐待されることを知ってしまった女子高生が、何とか彼を救おうとするものの、自分自身も母親と確執を抱えている「罪深き女」など、どれも負のオーラ満載作品ばかり。イヤミスの女王、本領発揮の同書、怪談より怖いと感じる人も多いのでは。夏の夜、寝苦しい時に読むと悪夢を見る事間違いなしのホラーな一冊。

アラフォーヒロインが人生を取り戻す!?「2度目の二十歳」

2016.06.27 Vol.669

「冬のソナタ」「怪しい家政婦」など韓国を代表する女優チェ・ジウ主演の最新作「2度目の二十歳」のDVD-BOXが発売される。同作品は、夫から離婚を突き付けられ、人生の岐路に立ちながらも、大学生となる“前向きさ”を失わない母親役に初挑戦した胸キュン&感動のハートウォーミング・ラブコメディ。若くしてママになり、家庭しか世界を知らずに生きてきたヒロインの遅れてきた青春とトキメキをキャンパスを舞台に描く。ヒロインの恋と成長のまさに“2度目の青春”物語に、前向きで幸せな気持ちにさせられること必至。

いつの間にか、心のクローゼットは甲冑だらけ『女の甲冑、着たり脱いだり毎日が戦なり。』

2016.06.25 Vol.669

 コラムニスト、ラジオパーソナリティー、作詞家、音楽プロデューサーと多数の肩書を持つ著者、ジェーン・スー。最近では、未婚のプロとしてのエッセイ本が大人気の作家である。そんな彼女の最新作が『女の甲冑、着たり脱いだり毎日が戦なり。』だ。

 なりたい自分になる、世間からこう見られたい(見られたくない)など、自意識と社会の中で折り合いをつけるためにまとう甲冑の数々。クローゼットにギッチギチに詰め込まれたそれらの甲冑をひとつずつ取り出し、自分がどんな時にその甲冑を着、どんな思いで脱いだのか、そしてそれを再びクローゼットにしまったのかを、ユーモアを交えつつ鋭く解き明かしていく。ジェーン・スーがすごいのは、これまでの切れ味鋭い女性エッセイストのように、ヨガやオーガニックなど、“おしゃれで健康的な生き方をしている素敵な私”に“オーガニックってファッションではないですか?”と先制でパンチを繰り出すも、実際にオーガニック野菜を食べてみたら想像をはるか超えるおいしさに驚きを通り越し、オロオロしてしまう心情までを吐露。そこからの揺れ動く気持ちを、いわゆる“おしゃれな私、素敵ライフ”をSNSに上げる女性に対し、敵対心というか、説明できない嫌悪感を持つアラフォー以上のこじらせ女が共感できる言葉で分析してくれる。“今さらしゃらくさくて、オーガニック万歳とは叫べないわ”と思いつつ、オーガニック野菜は食べたい。このなんとも面倒くさい感情について、“そう感じてもいいんだよ”と優しく肩を抱いてくれる感じ。

 断捨離やミニマリストがおしゃれでトレンドな生き方と言われても、“そんなのしらんがな!”でどんどん増えていくクローゼットの甲冑たち。それらを持て余している女性たちに最後の「結びに代えて」で、ジェーン・スーは言う。“甲冑の全試着が、即、理想のクローゼット作りに直結しなくても良いのです。本物のクローゼットならまだしも、心のクローゼット整理はゆっくりやるほうがいいんだよ”と。これからも甲冑を着て、自分を守りながら生きていかなければいけない女性たちへの心強いエールが全編を通し聞こえてくるエッセイだ。

Copyrighted Image