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まだだ。まだ足りない。諦めるな、掴み取れ!真実はひとつだ。

2016.06.14 Vol.668

 7年前、誘拐された少女が死亡したと世紀の大誤報を打ってしまった中央新聞の記者3名。本社に残る者、地方支局に飛ばされた者、整理部に異動した者。その誤報は記者たちのその後の人生を変えた。そんな時に埼玉県で児童連続誘拐事件が発生。さいたま支局に飛ばされていた関口豪太郎は、過去の事件との関係性を疑う。現場でネタを拾う記者、出世のため、誤報や他社に抜かれる事を恐れる上司、記者の動きに眉をひそめる警察幹部やそのOB。手の内は見せたくないが、情報は知りたい彼らの探り合い。

 そして新聞記者がネタをつかみ、それが紙面となり発行されるまでの経緯が、超リアルに描かれている。自分が時間に追われているような、目撃者を探しているような臨場感に襲われるのは、著者の経歴によるところも大きい。著者の本城雅人は、産経新聞入社後、サンケイスポーツ記者として20年の記者歴を持つ大ベテラン。それだけに、我々読者が知りえない、新聞社の内側をあれほど克明に記す事ができたのだろう。

 豪太郎は言う。「俺たちには責任がある」と。派手なアクションも奇抜なトリック破りもないが、ミステリー・サスペンス・ハードボイルドな要素が満載。時代は新聞からテレビ、そしてネットへと進化し、新聞は時代に取り残されたという人もいる。しかし同書を読むと、ネットにおけるソースも分からず、転載された記事を疑う目を持たなければと思わされる。新聞記者がひとつの記事を確証を持って出すということは、こういう事なのだ。

『トーテム』の演出家ロベール・ルパージュによる自叙伝的一人芝居『887』

2016.06.13 Vol.668

 現在、絶賛上演中のシルク・ド・ソレイユの『トーテム』の演出家であるロベール・ルパージュの新作舞台『887』が6月23日から東京・池袋の東京芸術劇場で上演される。

 本作はエジンバラ演劇祭をはじめ世界中で喝采を浴びた作品で、日本初演。
 ルパージュは演出はもちろん、脚本、美術デザインも手掛ける。そしてなにより注目なのがルパージュ自身が出演し、なおかつ一人芝居であるということ。

 作品のテーマは「記憶」。タイトルの「887」は、彼が子供の時に家族と住んでいたケベック・シティーの番地、887 Murray Avenueのことで、「887」というアパートの番地から記憶をめぐらせて幼少期を振り返り、ルパージュ自身のプライベートな部分と、彼が過ごした1960年代のケベックを覆う複雑な社会問題を描き出すという。

“映像の魔術師”と呼ばれるルパージュは視覚的な仕掛けや最先端のテクノロジーによる美しい映像を駆使して、観客を魔法にかけるように魅了する。

 今回も舞台上では、ルパージュが精巧に作りこまれたアパートの模型をのぞき込むと最新のプロジェクションマッピングによって、その中に住む人々が映し出されるといった「ルパージュ・マジック」がふんだんに盛り込まれている。
『トーテム』のようなダイナミックな世界観とは一転した自叙伝的一人芝居。先にトーテムを見てからこちらを見るのも面白いかも!?

ロベール・ルパージュ『887』
【日時】6月23日(木)〜26日(日)(開演は23・24日19時、25・26日14時。※英語上演・日本語字幕付。開場は開演30分前。当日券は開演1時間前)
【会場】東京芸術劇場 プレイハウス(池袋)
【料金】全席指定 S席:前売6000 円、当日6500 円/A席:前売4000円、当日4500 円/高校生割引:1000円、25歳以下(A席):3000 円、65 歳以上(S席):5000 円
【問い合わせ】東京芸術劇場ボックスオフィス(TEL:0570-010-296 [HP] http://www.geigeki.jp/ )
【作・演出・美術・出演】ロベール・ルパージュ

糖尿病状改善療法を解説『糖尿病に勝ちたければ、インスリンに頼るのをやめなさい』

2016.06.11 Vol.668

 糖尿病の病状改善のカギを握る「低インスリン療法」を徹底解説した『糖尿病に勝ちたければ、インスリンに頼るのをやめなさい』が好評発売中。著者は、ナチュラルクリニック銀座名誉院長で、あさひ内科クリニック院長の新井圭輔氏。日本の糖尿病患者は年々増え、2015年の調査では過去最高を記録。その背景には、治療技術が進歩しないことがあげられという。現在主流となっているSU薬やインスリン注射などを用いた「高インスリン療法」に対し新井氏が提唱するのが「低インスリン療法」。それに特化した薬を用い、糖質制限などの生活習慣を正しく行うことで、病状が劇的に改善するという。さまざまな治療法を試みたが、なかなか結果が出ない糖尿病患者のための一冊。

今年の海を楽しくする、 5つのカルチャーヒント make your marine life shine!

2016.05.24 Vol.667

本格的なマリンシーズン到来の前に内側から海気分をアップして準備開始!

定年って生前葬だな。これからどうする?『終わった人』【著者】内館牧子

2016.05.22 Vol.667

 主人公の田代壮介は東大法学部を卒業後、大手メガバンクに入行。200人の同期の中でも順調に出世。しかし、役員になる寸前に出世競争に敗れ、子会社に出向させられる。そこで定年を迎えた彼は思ったのだ。「定年って生前葬だな」と。仕事一筋、ひたすら上を目指し働いていたため、突然訪れた何もする事がない時間。それを持て余し途方に暮れる毎日だ。仕事を持つ妻は生き生きと働き、いつまでもグチグチと暗い夫にいら立ちをおぼえる。カルチャースクールや図書館はいかにも年寄りじみていると思いジムに見学に行くも、平日のジムはジジババばかり。体力維持のために入会はしたものの、ランチや飲み会に誘ってくれるジジババとは一線を画し、決して交わらないようにしていた。昔の友人に会っても、プライドが邪魔をして、本音を語れずついつい見栄をはってしまう。やはり自分には、どんな仕事でもいいから働く事が必要なのだと、職探しをしてみるものの、その高学歴や華々しい職歴が逆にあだとなり、なかなかうまくいかない。気になる女性も出てくるが、そちらのほうも思い通りにならず…。と何をどうやっても決して満たされることのない壮介の心。エリートだったがゆえに余計に惑い、落ち込み、傷つき、あがき、悩み続ける日々。しかし、ある人物との出会いが彼の運命を変える…。

 壮介ほどエリートでなくても、定年後の生活をこれほどリアルに描写されると、身につまされる人も多いのでは。ずっと暇なのに「“今日は”空いているよ」、謙遜をしているふうな「“一応”東大です」など、言ってしまった後、大きく後悔する壮介の姿にクスリとさせられつつも、エリートでもそうでなくても、人生の着地点には大差がないという現実。サラリーマンなら、誰にでも訪れる定年の日。そこから続く長い人生をどう過ごすかという事は、定年間近な人にとっても、まだまだ先の話だと思っている人にとっても、避けては通れない問題だ。同書は、壮介のようにいきなり着陸するのではなく、ソフトランディングするために、来たるべき定年後の生活について考えてみるきっかけになるだろう。その日をどう過ごすのかではなく、人生をどう生きるかを考えさせられる。シニア世代とその妻も必読の書。

『終わった人』
【定価】本体1600円(税別)【発行】講談社【著者】内館牧子

少ないモノで、シンプルに暮らす

2016.05.10 Vol.666

 必要なものだけを持ち、自分らしいシンプル&ミニマルライフを持つ人が増えている。そんなライフスタイルを過ごす人気のブロガーとインスタグラマーによる、暮らしの写真日記『みんなの持たない暮らし日記』が発売中。整然と片付いたキッチンやベッドルーム、美しく整頓されたクローゼット。そしてすっきり身軽に暮らしていくための掃除の習慣や、ちょっとした工夫の数々。同書は、無理なくシンプル&ミニマルライフを行っている人たちの衣食住を楽しむ秘訣を写真と日記形式のテキストで紹介。具体的なノウハウや考え方を参考にすっきりした暮らしを目指してみては。心地のいい暮らしは、持たないことから。それを証明している役立つ実践本だ。

『みんなの持たない暮らし日記』
【価格】1380円(税別)【発行】翔泳社

短時間で見た目を変える

2016.05.10 Vol.666

 フィットネストレーナー北島達也氏による著書『ハリウッド式ワークアウト 腹が凹む! 神の7秒間メソッド』が発売された。北島氏は20代前半で単身渡米。ハリウッド俳優が集結する有名ジムで数々のトップビルダーから指導を受け、独自で会得した知識と経験を統合。“本場のボディビルディング”と“科学的なワークアウト”を自身で実践しながら理論を構築し、カリフォルニアのボディビルコンテストで、日本人初のチャンピオンに輝いた経歴を持つ。帰国後は、完全個別指導のパーソナルトレーニングジムをオープンし、有名経営者、芸能人、プロアスリートなど1万人以上を指導するカリスマトレーナとして人気を集める。同書では「腹を凹ませたい!」「かっこいい体になりたい!」という自分史上最高の体を作るための最短距離を伝授。長く辛いトレーニングなしの短時間で終わるワークアウトを初めて語る。

『ハリウッド式ワークアウト 腹が凹む! 神の7秒間メソッド』
【価格】1404円(税込)【発行】ワニブックス

たった一人の母親が学校を崩壊させた『モンスターマザー 長野・丸子実業「いじめ自殺事件」 教師たちの闘い』

2016.05.08 Vol.666

 不登校の高一男子が自殺した。その自殺の原因をめぐり、母親は学校でのいじめによるものだと、かねてから責任を追及。そして、最悪の事態を迎えたことで、母親は学校に全責任があると校長を殺人罪で刑事告訴した。人権派弁護士、県会議員、マスコミも加勢して、いじめ自殺報道は加熱、高校は崩壊寸前となっていく。

 しかし、同書において、時系列で少年の自殺までの行動と、学校と母親の対応を見ると、そこにはまったく別の事実があったことが分かる。裁判の結果明らかになったのは、少年を死に追い込んだのは、母親の“狂気”だったのだ。世間からの大バッシング、弁護士やマスコミを含む母親の支援者たちによる捻じ曲げられた事実による攻撃を前に、教師たちは真実を求め法廷で対決することを決意した。教師、学校の言い分が認められ、完全勝利したものの、被害者である学校側の人間は、複雑な思いを抱く。もう少し早く少年を母親から引き離していたら、彼は死ななかったのではという自責の念。そしていじめ自殺という報道がものすごい勢いで、テレビや雑誌で垂れ流されていたにもかかわらず、裁判の結果が事件ほど、大きく報じられることはなかった。

 恐るべき“モンスターマザー”の実態も十分怖いが、事件をセンセーショナルに取り上げておきながら、それが誤報だったと分かった時には知らんぷりするマスコミの体質にも寒気を覚えた。

ココロに響く音。『天声ジングル』相対性理論

2016.04.26 Vol.665

 

 音楽やパフォーマンス、アートワークなどさまざまな表現スタイルを通じて、独特な世界観を創り上げるとともに、多くの支持を集めている相対性理論が最新フルアルバムを完成させた。収録曲は全11曲。なかには2014年に惜しまれつつも閉館した吉祥寺の映画館バウスシアターが解体される直前に館内で行ったシークレットレコーディングからスタートした楽曲『弁天様はスピリチュア』など、注目の曲も含まれている。今作もまた不思議な感覚で包みこみ、これまで感じたことがないような別世界を体験させてくれる作品になっていることは間違いない。レコーディングとミキシングは、やくしまるえつこ作品でおなじみの米津裕次郎、マスタリングはテッド・ジェンセンが担当している。

 

子供がいない私は、誰に看取られる?『子の無い人生』【著者】酒井順子

2016.04.23 Vol.665

 30代の既婚女性と未婚女性の壁を“勝ち犬”“負け犬”という言葉で鮮やかにぶった切った大ベストセラー『負け犬の遠吠え』から12年。未婚・子なしの著者・酒井順子が未産女性について描いた『子の無い人生』が、負け犬から脱却できない女性たちをざわめかせている。

 結婚していなければ単なる“負け犬”と思っていた著者は40代になり悟ったという。曰く、人生を左右するのは、「結婚しているか、いないか」ではない、「子供がいるか、いないかなんだ」と。子供を持つか(持っているか)持たないか(持っていないか)というのは、とてもデリケートな問題なので、かなり慎重に扱われているものの、未産女性にはひしひしと感じるのだ。世間からの「子供がいなくてかわいそう」「子供ってこんなにいいものなのに何故生まないの?」「女性に生まれたからには、生むべきだと思う」「子供がいると自分も成長できるよ」。はっきりとは言われない。言われないが、感じてしまうのだ。それを被害妄想と言う人もいるかもしれないが、多くの未産女性はそれに気が付かない鈍感な振りをしてやり過ごしている。

 人にはそれぞれ事情というものがあるが、こと子供に関しては、それも考慮されない破壊力がある。著者は、そんな世間の風潮から、ママ社会、世間の目、自身の老後など、子供を持たないことで生じるあれこれを、冷静に分析、真正面から斬っていく。卑屈になることもなく、かといって開き直るわけでもなく、40代、50代の未産子なし族の気持ちを代弁してくれる。『負け犬の遠吠え』が大ヒットしたのは、「そうなの、そうなの」という膝を何度も打つ、女性たちの本音が書かれていたから。その“負け犬”は、ちょうど“子あり”か“子なし”に(この先も)分かれる年代に差し掛かっている。“負け犬・子なし”の人生の行く末は? 同書を読めば共感とともに、ある種の勇気がわいてくるだろう。


【著者】酒井順子【定価】本体1300円(税別)【発行】KADOKAWA

最愛の娘を殺した母親は、私かも知れない。『坂の途中の家』【著者】角田光代

2016.04.13 Vol.664

『八日目の蝉』『紙の月』など登場人物の心理描写が巧みで、時に読むことが苦しくなる角田光代の最新刊『坂の途中の家』。

 幼い娘を虐待死させた事件の補充裁判官になった理沙子は、裁判で母親をめぐる証言や同じ裁判員たちの言葉を聞くうちに、被告と自分の境遇を重ね合わせていく。被告の夫や義父母の証言、友人が語る被告像は、どれも自分のこれまでの人生と変わりがないように思う。表面的には些細な違いもあるが、確かに被告はかつての自分であり、今の自分だ。そんな小さな思いが、裁判を重ねるたび大きくなり、自分では気が付かなかった、もしくは目をそむけていた事実を認めざるを得なくなっていく。そして愛していると揺るぎなく思っていた娘に抱く疎ましいという感情が心の中でずっとくすぶり、理沙子の精神を追い詰めていく。夫も義父母も子育てには協力的だが、言いようのない孤独と不安は、理沙子に付きまとい、どんどんと増殖していく。

 子どもを持った母親ならそんな感情が理解できるだろう。それどころか、その時のことを思い出して恐怖を感じるかもしれない。しかし、男性や子どもを持ったことのない女性にも、息苦しさや不安な感情が伝わってくる。それは著者の巧みさのなせる技で、無償の愛とエゴを併せ持つ人間の本質を描き出しているからに他ならない。「社会を震撼させた乳幼児の虐待死事件と“家族”であることの心と闇に迫る心理サスペンス」と帯に書かれているが、家族の光と闇を浮き彫りにし、波風の立っていない表面上にある日常の中にある闇をえぐるサスペンスである。のぞきたくはないが、同書を読めばその闇の正体がはっきりするかも知れない。

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