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『柳家三三、春風亭一之輔、桃月庵白酒、三遊亭兼好、三遊亭白鳥「落語家」という生き方』著者:広瀬和生

2016.01.23 Vol.659

 同書は東京・世田谷区の北沢タウンホールで行われた「この落語家を聴け!」におけるインタビューを採録したもの。「この落語家を聴け!」はロング・インタビュー付きの独演会という形式で2012年7月から2013年7月(シーズン1)、及び2014年3月から2015年10月まで(シーズン2)の期間、ほぼ月に1回のペースで行われていた。今回登場する5人の落語家は皆、シーズン1、2の両方に出演しているため、インタビューは2本ずつ掲載。落語会には今を時めく春風亭昇太や柳家喬太郎、春風亭百栄のほか、落語協会最年少会長、柳亭市馬や橘家文左衛門など錚々たる噺家が登場。

 その中でこの5人を選んだ理由として著者は「2010年代」を象徴する一冊にしたいと考えたからと語る。そのキーワードは「自然体」。「自然体」な落語を代表する演者が一之輔であり、白酒であり、兼好であると。そして古典の伝統を守る三三と奇想天外な新作の白鳥という「両極端な二人」も、昔の「古典派」対「新作派」のような図式とは異なる2010年代らしい「自然体」を感じさせる演者だという。そういわれれば彼らの落語を一言で表すと「自由」という言葉が浮かぶ。もちろん、彼らなりの落語の形をきちんと持ちつつだが、実に伸び伸びと楽しそうに落語に向き合っている。そんな彼らが、下積み時代のこと、師匠からの教え、ブレイクのきっかけや落語家としての苦しみ、楽しみを語る。とはいっても笑わせてなんぼの噺家。しかもトークの採録なので、思わず笑ってしまうので、電車で読む時は要注意。

『柳家三三、春風亭一之輔、桃月庵白酒、三遊亭兼好、三遊亭白鳥「落語家」という生き方』
【定価】本体1700円(税別)【発行】講談社

新年は、信念を新たに!『天の茶助』

2016.01.11 Vol.658

『弾丸ランナー』の鬼才・SABU監督と、松山ケンイチが『うさぎドロップ』に続いてタッグを組んだファンタジックムービー。SABU監督が初めて手がけた長編小説を自ら映画化。映画では舞台を南国・沖縄に設定し、沖縄の催事や伝統芸能を織り交ぜながら、運命を巡る騒動を描く。恋した女性を救うため人間界に降り立った主人公・茶助役の松山をはじめ、ヒロイン役・大野いと、伊勢谷友介らが出演。

 天界では、白装束を纏った“脚本家”たちが、下界の人間たちの“シナリオ”を書いている。茶番頭の茶助は、脚本家たちにお茶を配りながら、下界の人間たちを興味深く眺めていた。ところが、茶助が恋心にも似た感情を抱いていた女性・ユリが死ぬ運命に陥ってしまう。ユリを事故から救うため茶助は下界に降り立った…!

販売元:バンダイビジュアル 発売中 3800円(税別) 

ズレているのは蛭子か孔子か、はたまた時代か?

2016.01.10 Vol.658

 最近、蛭子能収がプチブレイクしている。前作の『ひとりぼっちを笑うな』が14刷8万部を突破し、『生きるのが楽になる まいにち蛭子さん(日めくり)』が大ヒットというのだから、プチどころか大ブレイクといえるのだが…。その前に出ない感、ひっそり感がプチブレイクに見える理由なのかも。なぜ蛭子の言葉が受けるのか。松岡修造のような熱血に疲れた人が、その脱力系の言葉にホッとするからなのか。もしくは癒し系のフレーズの裏に鋭い真実が隠されているからなのか。その答えが最新刊『蛭子の論語 自由に生きるためのヒント』に隠されている。論語なんて読んだことがないどころか、そもそも知らなかったが、編集者の依頼に断れず、しぶしぶ読み始めたというものの、孔子の言葉にとても共感して…という触れ込みではあるが、蛭子なりにやや強引に解釈している部分もあり、興味深い。蛭子の主張をざっくりまとめると、「長生きしたい」「ギャンブルはやめられない」「ひとりぼっちでもいい」「空気なんか読めなくていい」「お金は大事」そして「自分自身を受け入れる」ということ。その一番の根底にあるのが、タイトルにもあるように「自由に生きたい」という人生哲学だ。自分らしく生きる自由を得るためには、やっかみや嫉妬心を買わないように目立たなく生きる。言い争いは非建設的なので、相手が間違っていても反論せず、謝ることも平気と言い切る蛭子はかっこいい。外見は弱く見せておいて、一番強いのはこういう人間だ。同書で孔子と蛭子の言葉を読めば、悟りが開けるかも。

【定価】本体800円(税別)【発行】KADOKAWA

大ヒットシリーズ第三弾は亡きオフクロに捧ぐ……笑って泣ける感動作!

2015.12.27 Vol.657

 バアちゃん(著者の祖母)、ケンちゃん(同父)、セージ(同弟)というメガトン級の3バカによる戦慄のバカ合戦が描かれ、大ヒットとなった『板谷バカ三代』シリーズの第3弾。

 これはフィクションか?と思うような、とんでも家族を支え、まとめてきたのが、唯一まともでしっかりもののオフクロ(同母)。しかしそのオフクロが肺癌にかかり、2006年に闘病の末他界。死後、亡くなる直前まで家族に内緒で日記を書いていたことが発覚した。見つかってすぐには“涙がバカみたいに出てきて”とても読めなかった日記を、七回忌を迎えたのを機に読んでみた著書。その日記と著者の感想を紹介するとともに、日記を通して思い出したことや、その後の話をまとめたのが同書だ。

 シリーズの愛読者なら知っていると思うが、このオフクロがいなければ、板谷家はとっくに崩壊していたのではと思わせるほど、まともなオフクロだけあって、さぞやそこには家族への愛情がいっぱいつまっているかと思いきや、嫁の愚痴やバカ家族を罵倒する言葉も。それでも日々生きていることに感謝し、思いやりを忘れないようにという文章に、真面目で誠実な性格が表れている。それにしても癌になってまで、家族の心配をし、病気と闘う様子は、気の毒でありながらも、あまりの突き抜けたエピソードに笑ってしまう。オフクロもぶつぶつ言いながら、そんな家族とのやり取りが楽しかったのではと思う。笑いと涙がちりばめられたこのエッセイには飾らない家族の日常と言葉が散りばめられている。

ノンケが聞きづらいゲイの秘密、ぜんぶぶっちゃけます!!

2015.12.17 Vol.656

 ここ数年、芸能界は“おネエ”ブームにわき、次々と新しいおネエが登場している。だがひとくくりにおネエと言っても、個人個人抱えている状況は大きく異なる。現在、テレビで活躍しているおネエたちは大きく分けると、女装家、ニューハーフ、ゲイといったところだろうか。もちろん、女装家でゲイなど混合型も。そんなよく見かける親しみのある(?)おネエたちをはじめ、最近耳にする“LGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー)”を含むセクシャル・マイノリティー(性的少数者)について、ゲイマガジンの2代目編集長にして、自身もゲイだとカミングアウトしている竜超氏が、分かりやすく解説。美輪明宏が残した偉大な功績、日本初の同性愛マガジン『薔薇族』の創刊当時の社会背景、そこから現在に至るまでの同性愛者たちの歴史など真面目な文化史があると思えば、ノンケ(セクマイじゃない人、異性愛者)の素朴な疑問にも答えてくれる。例えば「新宿2丁目ってどんなところ?」「オネエご意見番がテレビにたくさんいるのはなんで?」

 さらには「昭和のゲイってどんな人たち?」など、軽いものからかなりディープなものまで盛りだくさん。今まで語られなかった魅惑のゲイワールドの秘密がぎゅっと凝縮された一冊。用語解説もあり、ノンケでも楽しめるエッセイになっている。付録として巻末には『薔薇族』のイラストレーターが描くゲイカップルの日常を描いた漫画も。

『火花』が223万部超!年間&歴代年間売り上げ総部数でトップに

2015.11.30 Vol.655

『オリコン 2015年 年間“本”ランキング』が30日発表され、又吉直樹の『火花』(文藝春秋)が223.3万部を記録して『BOOK(総合)部門』で1位に、さらにこの記録は同ランキングにおいて歴代最高になったことが分かった。また、デビュー作での同部門制覇は初。

 受賞した又吉は書面で「『火花』は「本好きのコアな人だけに」とか、その反対で「普段本を読まない人に」とかそういうことを考えず迷いなく書いた作品です。だから、多くの方に読んでいただけたことが何よりもう嬉しいです。音楽、映画、TV、劇場、お笑い……世の中には“面白いもの”がいっぱいあります。いろんな“面白いこと”の選択肢から、本を手に取って読んでもらうことがいかに難しいか……。そういう状況を踏まえて、今後も書いていきたいです。何人かの、本を買ってくれる読者の取り合いをするんじゃなくて、読書以外の“面白いこと”に対抗できる作品をつくっていくのが必要なんやろな、というふうに思います。本もお笑いも、これからも両方ちゃんとやっていこうと思っています」と、コメントを発表した。

 『火花』が歴代トップになったことで、歴代2位は『謎解きはディナーのあとで』(東川篤哉、2011年)の163.6万部、3位は『ハリー・ポッターと死の秘宝』(J.K.ローリング著、松岡佑子訳、2008年)162.5万部になった。

『オリコン 2015年 年間“本”ランキング』は、ウェブ通販を含む全国書店3517店舗からの売り上げデータをもとに集計したもの。集計期間は2014年11月17日~2015年11月22日。
 

大型新人始動! 笑って泣けるお笑い青春小説『上方スピリッツ』著者:奈須崇

2015.11.22 Vol.655

 著者の奈須崇は、吉本総合芸術学院(NSC)の出身で、同作が小説家デビューとなる。書籍の帯には同期のブラックマヨネーズ・小杉のコメントが掲載。その辺を踏まえて読むと、そのリアリティーに納得しつつ、このエピソードは実話なのか?と、お笑い芸人界の裏をのぞいた気になってしまう。

 ストーリーは、お笑いコンビ「上方スピリッツ」のラジオを偶然聞き、自殺まで考えた引きこもりからハガキ職人を経て、あこがれの上方スピリッツの構成作家として仕事をするようになった阿部の目線で進行していく。上方スピリッツの主戦場は日の出劇場という地下で日の当たらない劇場。売れていない芸人が、いつか売れっ子になることを夢見て、ライブやイベントを行う場所だ。しかし、その劇場の閉鎖が決まってしまう。そのことを阿部は、東京で漫才コンテスト“漫才コロシアム”に出演する2人には内緒にしていた。賞には及ばず失意のうちに大阪に戻って来た2人は自信をなくし、さらに劇場閉鎖という事実にショックを受ける。阿部はなんとかもう一度やる気を出して漫才コロシアムにリベンジしてほしく、さらには劇場の閉鎖を阻止したく奇策を立てるが、事態はことごとく予期せぬ方向へ向かい…。

 阿倍のお笑いを愛する気持ちと上方スピリッツの苦悩、そして劇場に関わるすべての人の人生に、読みながら心震える瞬間が何度も訪れる。しかし、そこをじめっとしたままにせずに、笑いに変えるワザはさすが吉本興業出身だ。いじめられっ子が主人公なので、お笑い好きはもちろん、悩みがある人も救われる痛快青春小説だ。

出版界に秘められた《日常の謎》は解けるのか!?『中野のお父さん』

2015.11.09 Vol.654

 主人公は大手出版社“文宝出版”に勤める編集者・田川美希。女性誌編集部を経て、文芸の書籍部門に移籍。中学からバスケットで鍛えた体力が自慢のアラサー女子。

 そして本のタイトルの“中野のお父さん”こそ、美希の実家・中野に住んでいるお父さんのこと。このお父さん、定年間際の高校国語教師なのだが、めちゃめちゃ博学で、勘がいい。持っている知識を総動員し、あっという間になんでも解決してしまうので、何かあると美希はお父さんに相談に行く。「あの、おかしなこと、いい出すとお思いでしょうけど——わたしには、父がいるんです。定年間際のお腹の出たおじさんで、家にいるのを見ると、そりゃあもう、パンダみたいにごろごろしている、ただの《オヤジ》なんですけど——謎をレンジに入れてボタンを押したら、たちまち答えが出たみたいで、本当にびっくりしたんです。お願いです。このこと——父にだけ、話してみてもいいでしょうか。」(本文より)。というように、答えの導き出し方が驚くほど鮮やかなのだ。新人賞最終選考に残った候補者からの思いがけない一言の真相とは(「夢の風車」)。

 またある大物作家にあてた女性作家の手紙に書き残された愛の告白は本物なのか(「幻の追伸」)。そして「わたしは殺人事件の現場に行き合わせることになったわけです」という定期購読者の話を聞くうちに思いもよらない事態に発展して…(「茶の痕跡」)。など出版社にまつわる8つのミステリーを、中野のお父さんが瞬時に解決。捜査なし、関係者への事情聴取なし、現場検証なし。娘の話を聞くだけでたちどころに疑問が解ける、痛快お茶の間ミステリー。

家の中には秘密(ドラマ)がいっぱい『我が家のヒミツ』

2015.10.25 Vol.653

『家日和』『我が家の問題』に続く奥田英朗の家族小説シリーズ第3弾。家族という、社会の中で最も小さな単位の組織の中で巻き起こる、日常のささいな出来事。しかし、ささいだけど、本人や家族にとっては特別な出来事を、ユーモアと愛しさをもって描く。31歳の敦美の悩みは不妊。そんな時、勤めている歯医者にずっとファンだったピアニストが通院するようになり…(「虫歯とピアニスト」)。

 同期のライバルの昇進が決まり、53歳で会社での出世レースに完敗したことが分かり意気消沈する植村。有給をとって妻と旅行に行っている時に、ライバルの父親が死んだという連絡が。(「正雄の秋」)。

 16歳の誕生日に、実の父親に会おうと決めたアンナ。いざ対面すると、ハンサムでお金持ち、そして一流演出家として芸能界でも顔が広い有名人だということが判明し…(「アンナの十二月」)。

 母が急逝し、憔悴しきった父親を心配し、実家に戻った息子。そのあまりの落ち込みぶりに、どうすることもできない息子に、会社の上司が何かと話しかけてくる(「手紙に乗せて」)。

 隣りに引っ越してきた夫婦が息を潜めるように生きているのが気になって仕方がない妊婦の葉子。犯罪者かスパイではないかと疑い出し、ついに行動を起こす(「妊婦と隣人」)。

 平凡な専業主婦だった妻・里美が突然選挙に立候補すると宣言。小説家の夫ははじめ、距離を置いてその様子を眺めていたのだが、選挙活動をする妻の姿を見ていると心境の変化が現れる(「妻と選挙」)。

 どこにでもありそうな家族の話が、切なく、ユーモラスに、そして優しく描かれたほっこり系の短編集。

やせたってアンタの心はデブのままよ。

2015.10.11 Vol.

マンガ、サイコー!『「美学」さえあれば、人は強くなれる〜マンガのヒーローたちが僕に教えてくれたこと〜』 著者:ケンドー・コバヤシ

2015.09.28 Vol.

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