鼠径ヘルニアの基礎知識
鼠径ヘルニアは「脱腸」とも呼ばれる疾患で、鼠径部(太ももの付け根)の筋膜が弱くなることで内臓が突出する状態を指します。40代以降の男性に多く見られますが、女性や若年層でも発症する可能性があります。
発症メカニズム
鼠径部には元々「鼠径管」という隙間があり、男性では精索、女性では子宮円靭帯が通っています。加齢や腹圧の上昇によりこの部分の筋膜が弱くなると、腸管などが外に飛び出してヘルニアが形成されます。
リスク要因
以下の要因が発症リスクを高めます。
- 重労働や激しいスポーツ
- 慢性咳嗽(長引く咳)
- 便秘によるいきみ
- 肥満
- 前立腺肥大
初期症状の特徴
鼠径ヘルニアの初期段階で現れる症状には、次のような特徴があります。
典型的な症状
- 立ち仕事中や重い物を持った時に現れる柔らかい膨らみ
- 横になると自然に消失する膨らみ
- チクチクするような軽い痛みや違和感
- 下腹部の張り感
自己チェック方法
鏡の前で以下のチェックを行ってみましょう:
- 両足を肩幅に開いて立つ
- 咳をしたり、いきんだりする
- 鼠径部に膨らみが現れるか確認
- 横になった状態で膨らみが消えるか確認
放置した場合のリスク
初期症状を放置すると、次のような深刻な事態を招く可能性があります。
嵌頓(かんとん)の危険性
突出した腸管が筋膜に締め付けられ、血流が阻害される状態です。6時間以上経過すると腸管壊死のリスクが急激に高まります。症状としては激しい痛み・吐き気・発熱などが現れ、緊急手術が必要となります。
長期化による影響
- ヘルニア嚢の拡大による手術難易度の上昇
- 再発リスクの増加
- 慢性疼痛の発症
治療法の選択肢
現代の医療では、以下のような治療方法が選択可能です。
腹腔鏡手術
- 3つの5mm切開で行う低侵襲手術
- 術後疼痛が少ない
- 再発率1%以下
- 日帰り手術が可能
従来の切開法
- 確実な修復が可能
- 局部麻酔で実施可能
- 入院期間3-4日程度
受診のタイミング
以下の症状がある場合は、早急に専門医を受診してください:
- 鼠径部の膨らみが戻らなくなった
- 持続する強い痛み
- 吐き気や嘔吐を伴う
- 腹部膨満感が持続する
特に夜間や休日に症状が現れた場合は、救急外来の受診が必要になる場合もあります。
専門医療機関の選び方
適切な治療を受けるためには、以下の条件を満たす医療機関を選択することが重要です:
- 消化器外科専門医の在籍
- 年間50例以上の手術実績
- 複数の治療法から選択可能
- 丁寧な術前説明
鼠径ヘルニアは早期発見・早期治療が何よりも重要です。気になる症状がある方は、自己判断せずに必ず専門医の診察を受けましょう。適切なタイミングで治療を受ければ、日帰り手術で確実に治癒できる疾患です。