体外受精で起こりうる主な副作用
不妊治療の中でも、特に体外受精では排卵誘発剤などを使用するため、いくつかの副作用が生じる可能性があります。ただし、すべての方に症状が現れるわけではなく、軽症で済むケースも多いです。ここでは代表的な副作用とその特徴を見ていきましょう。
卵巣過剰刺激症候群(OHSS)
排卵誘発剤や卵巣刺激剤の影響で起こる副作用です。これらの薬剤は卵胞の成長を促して排卵されやすくするためのものですが、投与によって一度にたくさんの卵胞が育ってしまうことがあります。
主な症状としては、卵巣が膨れ上がりお腹に圧迫感を感じたり、腹腔に水が溜まったりすることがあります。また、頭痛や眠気、吐き気や下痢、呼吸困難などの症状が現れることもあります。重篤な場合には腎機能障害や血栓症が起こる可能性もありますが、そのような症例は非常に稀です。
腹腔内・膀胱内出血
卵子を採取する際(採卵時)に、超音波を当てる影響で腹腔内あるいは膀胱内に出血が起こることがあります。出血量が多い場合は経過観察が必要となり、状況によっては手術が検討されることもありますが、そのような重症例はごくわずかです。多くの場合は自然に治癒していきます。
また、卵巣の位置が通常と異なる場所にあり、膀胱を経由して採卵しなければならないケースでは、一時的に尿に血が混じることがありますが、これも一過性のものであることがほとんどです。長引く出血がない限り、特別な治療は必要ありません。
骨盤内感染症
採卵の過程で膣内に細菌等が侵入して起こる感染症です。採卵や検査に使用される器具は常に適切に消毒されているため、発生頻度は非常に低いです。
ただし、過去に卵巣チョコレート膿腫などの子宮内膜症(子宮内膜が子宮以外の場所にできてしまう病気)や卵管水腫を経験したことがある方は、注意が必要とされています。
多胎妊娠
双子や三つ子などの多胎妊娠が起こる可能性があります。体外受精では、これを防ぐために胎内に戻す受精後の胚は通常一つだけに限定されますが、まれにその後で胚が自然に分裂し、双生児となることがあります。
多胎妊娠は、通常の妊娠と比較して妊娠高血圧症や早産となる確率が高くなるため、慎重な経過観察が重要です。状況によっては入院して様子を見たり、帝王切開での出産が検討されたりすることもあります。
異所性妊娠
子宮ではなく卵管などに受精した胚が着床してしまうことを異所性妊娠といいます。卵管に問題がある場合に起こりやすくなる傾向があります。早期発見と適切な対応が重要となります。
排卵誘発剤による副作用と対応
排卵誘発剤は不妊治療において重要な役割を果たしますが、使用に伴い様々な副作用が生じる可能性があります。ここでは、排卵誘発剤による副作用とその対応方法について解説します。
OHSSへの対応と治療
卵巣過剰刺激症候群(OHSS)が起こっている状態では、母体への負担が大きいため、受精卵を着床させずに凍結保存し、体調の回復を待って再度子宮に戻すという対処が一般的に行われます。
また、事前に経膣超音波診断や血液検査を行い、子宮や卵巣、卵管の状態を調べてOHSSのリスクを評価することもあります。排卵誘発剤の副作用に不安がある場合は、治療を受けるクリニックに相談して検査を依頼するとよいでしょう。
比較的軽度な症状である頭痛や眠気も、日常生活や仕事に支障をきたす場合があります。必要に応じて薬の量を調整したり、投薬を一時中断したりするなどの判断を医師に相談しましょう。
マイルド法という選択肢
体外受精には、マイルド法と呼ばれる治療方法もあります。これは排卵誘発剤の刺激をできるだけ小さくすることで、卵巣への負担を軽減する方法です。
投与する薬の量を減らしたり、回数を少なくしたりすることで、母体への負担を軽くします。費用も比較的抑えられるというメリットがあります。
ただし、刺激が小さい分、卵胞の成熟も穏やかになったり、採卵できる確率が低下したりするデメリットもあります。また、健康な胚に成長できない可能性も高くなる点を理解しておく必要があります。ご自身の状況に合わせて、医師と相談しながら最適な方法を選択しましょう。
体外受精以外の不妊治療のリスク
不妊治療には体外受精以外にも、タイミング法や人工授精などの方法があります。これらの治療法にも、それぞれリスクや副作用が存在します。ここでは、それぞれの治療法に伴うリスクについて解説します。
タイミング法のリスク
タイミング法は、医師に卵子の成熟具合を診断してもらい、排卵検査薬を用いて排卵のタイミングを正確に測るなどした上で、最も妊娠しやすいと判断できた日に性交渉を行う不妊治療です。
排卵された卵子が未成熟である場合、妊娠の可能性が低くなるため、卵子の成熟を促す目的で排卵誘発剤や、ヒト絨毛性ゴナドトロピンという薬品を投与することがあります。
ヒト絨毛性ゴナドトロピンは、妊娠に必要な女性ホルモンのプロゲステロンの生成を助ける働きをしますが、排卵誘発剤と同様に女性ホルモンを刺激するものです。そのため、OHSSと同様の副作用が見られることがあります。
症状が深刻な場合はすぐに投薬を中断する対応が可能ですが、その分妊娠の可能性も低くなってしまう点に注意が必要です。
人工授精のリスク
人工授精は、タイミング法で効果を得られなかった場合に検討される不妊治療です。男性から採取した精子を直接女性の子宮に注入することで、受精の確率を高める方法です。
タイミング法に次いで自然妊娠に近い治療法ですが、タイミング法と同様に卵胞の成熟を促すために排卵誘発剤を処方する場合があります。その場合は、OHSSのリスクを考慮する必要があります。
また、子宮に注射器などを挿入する必要があることから、非常に稀ですが出血を伴ったり感染症が起こったりする場合もあります。人工授精の施術実績の多いクリニックであれば、こうしたリスクは最小限に抑えられます。事前に人工授精における合併症の事例について質問してみるとよいでしょう。
不妊治療と将来的な健康リスク
不妊治療を受ける際に、将来的な健康への影響を心配される方も多いでしょう。ここでは、不妊治療と将来的な健康リスクの関係について、現在の研究知見をもとに解説します。
がんリスクとの関連性
不妊治療、特にホルモン治療を受けることで、卵巣がんや乳がんなどのリスクが高まるのではないかと不安に思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、現在の研究では、体外受精を行った女性の発がん率が、体外受精を行っていない女性よりも有意に高いという結果は示されていません。
不妊治療を受ける女性は、不妊の原因となる疾患を抱えていることが多く、その疾患自体ががんのリスク要因となっている可能性もあります。不妊の原因となる疾患で、将来的にがんにつながる可能性のある疾患をお持ちの場合は、医師と相談の上、疾患の治療と並行して不妊治療を進めることが望ましいでしょう。
まとめ:不妊治療のリスクを理解して前向きに取り組もう
体外受精、人工授精、タイミング法のいずれも、排卵誘発剤を用いることで卵巣を刺激し、さまざまな副作用が起こるリスクを伴います。人工授精とタイミング法は、そのリスクをできるだけ回避するための方法と捉えることもできます。
排卵誘発剤の使用に際し、副作用をなるべく起こさないよう事前に診断してもらうこともできますし、副作用が出てしまった場合も投薬の調節ですぐに対応可能です。
自然妊娠の場合でも、妊娠出産は女性の体に大きな負担をかけます。だからこそ、定期的な検診で合併症の早期発見が心がけられています。不妊治療のリスクを正しく理解した上で、医師と十分に相談しながら、ご自身に合った治療法を選択していくことが大切です。
不妊治療には様々なリスクがありますが、医療技術の進歩により、それらのリスクは減少傾向にあります。すべてのリスクがすべての方に当てはまるわけではありません。治療を受ける際には、かかりつけ医と十分に話し合い、理解した上で進めることが重要です。