“サイコ”の異名を持つ平成ノブシコブシ・徳井健太が、世の中のあらゆる事象を生温かい目で見通す連載企画「徳井健太の菩薩目線」。第202回目は、「ソウドリ解体新笑」について、独自の梵鐘を鳴らす――。
『賞金奪い合いネタバトル ソウドリ~SOUDORI~』が終わってしまった。とてもありがたいことに、僕は「ソウドリ解体新笑」という形で、この番組にかかわることができました。ぽっかり穴が開くって、こういうことを言うんだろうな。
終わったばかりだからセンチメンタルになってしまうけど、この仕事を通じて、今まで明かされていなかった有田さんのお笑い観や考え方を聞くことができて(しかも真横で)、ものすごくぜいたくな時間を過ごさせていただきました。有田さん、番組スタッフの皆さん、ありがとうございました。
最後の収録は、個人的にものすごく後悔を伴うものだった。「もっとうまく立ち回ることができたのかもしれない」とか「もっとこうしておけば」とか、反省、反省、また反省。都合よく解釈すれば、これから自分のステージを上げていく上で、「宿題」をもらったとも考えられるけど、40を過ぎて宿題と向き合わなきゃいけないのも情けない。今も後ろ髪を引かれるのは、自分の未熟さを感じたまま終了したからなんだと思う。
去年、「敗北からの芸人論 トークイベント vol.9」で、インパルス・板倉さんを招いたときもそうだった。役割に徹するがあまりインタビュアーっぽくなりすぎて、もっと自由に熱いハートを持ってぶつからないといけないって反省したはずなのに。
きちんと話そうと思うと、どこかでパッケージしてしまう自分がいて、それを良くない意味で「慣れ」と呼ぶのかもしれない。結局それって、まとまってしまうから保守的な展開にしかならない。あ~、もっとできたはずなのに。「なのに」ばっかり。「なのに」が多いと、それだけ反省も多い。『ソウドリ解体新笑』は、最後にどでかい自分への反省を与えて、去っていった。でも、ドン・アリタは嘘つかない 。お笑いへの愛は、そりゃもう最大級の偏愛だから。待ってます。ただのコアなお笑いファンとして。その日まで成長してないとウソだと思うんです。
僕が、お笑いについて分析するとき、きっと「お前レベルが話すなよ」と思っている人は少なくないと思う。同業者の中にも、まったく関係のない中にも。有田さんと一緒にお笑いを語れたことで、自分が話していることに自信を持つことができたし、あの有田さんがうなずいている――。虎の威を借る狐だったとしても、虎に近づけたのかなって思いたい。
僕は、好き勝手に語って、論じちゃう。だけど、出演する芸人たちは、好意的な意見を言ってくれる人がたくさんいて、あぁ~しらきからは、「あのとき、私の真髄を語ってくれてありがとうございます」なんて言われた。面映くなって、「そんなこと言っていたっけ」って聞き返すと、彼女は「なかなか言ってくれない一言を言ってくれましたよ」と力強い目線で返してくれた。
「マジで? 俺、何て言ったっけ?」
「それが覚えていないんです」
しらき、ありがとう。またネタを見るの楽しみにしてる。
勝手にあーだこーだ言うから、収録終わりに「ごめんね、好き勝手言っちゃって」なんて言葉をかけたこともある。ゼンモンキーから、
「いやいや、全然そんなことないです。若手は、有田さんがなんて言うのか、徳井さんがなんて言うのか、ものすごく楽しみにしてると思います」
と言われたときは、すごくうれしかったなぁ。些細な一言かもしれないけど、そんな彼ら彼女からの言葉が、僕自身も励みになった。素晴らしい徳を積ませていただきました。
「ソウドリ解体新笑」は終わったけれど、僕が若手のネタを見続けることはずっと続くと思う。だって、とんでもないモンスターに出会えるんだから、やめられるわけがない。
3月下旬に、ネタバトル番組「100×100」(https://100×100.yoshimoto.co.jp/ )という大会が、YouTubeの「吉本興業チャンネル」で生配信され、僕はMCを担当した。100秒刻みのネタで100万円をゲットできる吉本独自のコンテストで、若手を中心とした60組の芸人が4時間にわたって登場する。審査員を務めるのは、本多正識(漫才作家・NSC講師)、お~い!久馬(ザ・プラン9)、椿鬼奴、久保田かずのぶ(とろサーモン)、中山功太、田所仁(ライス)――そうそうたるメンバー。
20時配信スタートで4時間ぶっ続け。審査員の最年少は、41歳の仁。平均年齢50歳近い審査員が4時間にわたり審査する。クレイジーすぎるって、吉本興業さん。
次から次に、若手が刻むようにネタをするものだから、もう途中から意識が遠のいていく。何かの社会実験に参加させられたような審査員たちの表情からは、一つずつ感情が消えていき、終盤を迎えるころには笑う気力も失せていた。
感情が死んでいく。そんな中、決勝に残ったイチゴ、鉄人小町、若葉のころはとんがっていた。深夜0時。もうボロボロの初老の審査員たちを、どっかんどっかん爆笑させ、よみがえらせていた。きっと彼らは「来る」。真夜中に、どうかしているネタに爆笑している、どうかしている審査員たち。これだからお笑いはやめられないんです。