“サイコ”の異名を持つ平成ノブシコブシ・徳井健太が、世の中のあらゆる事象を生温かい目で見通す連載企画「徳井健太の菩薩目線」。第157回目は、『酒と話と徳井と芸人』#金属バットについて、独自の梵鐘を鳴らす――。
音声コンテンツ『酒と話と徳井と芸人』に、金属バットがやってきた――。
彼らは、だいぶ後輩だ。なのに、緊張する。恥ずかしながら、金属バットを目の前にして話をするとなると、緊張してしまう自分がいる。
金属バットとは面識がなかった。ただ、記憶をたどると、たった一度、少しだけしゃべったことはある。3~4年前の『M-1グランプリ』の当日。俺は、何人かの芸人と一緒に10時間ぶっ通しで、『M-1グランプリ』を生観戦するという仕事をしていた。その中で、敗者復活戦に出場した芸人たちと画面越しにトークをする機会があった。それが、金属バットとの初遭遇だった。
あれから金属バットのメディア露出も増えた。今では、彼らの態度は、お笑いファンには唯一無二の存在となっている感さえある。それだけに、「きちんと話をしてくれるんだろうか」。そんな不安がよぎって、先輩なのに緊張してしまった次第なのだ。今回の『酒と話と徳井と芸人』。結論から言えば、きちんと話をしてくれなかった――と思う。まぁ、金属バットらしいと言えば金属バットらしいのかもしれないけれど。
そそのかされながら時間だけが過ぎていく。のらりくらり。金属バットなのに、当たっても飛ばないなんて聞いてないよ。つかみどころがない……というよりも、つかませてくれない厄介な奴ら。
私、徳井健太はたばこを吸っている。と言っても、いずれたばこをやめるために、吸っても肺には入れずにふかすだけに留めている。
収録の休憩中。金属バットとともに喫煙スペースで、たばこを吸う時間があった。いつものようにふかそうとしたとき、本能が「やばい」と爆発した。もしも……ふかしていることが二人にばれたら、もう二度と口をきいてくれない気がした。この収録はお蔵入りになるなって。
「徳井さん~、もしかしてふかしてんスか? マジすか」
そんな友保の声が聴こえた気がして、俺は当たり前の顔をしながら、たばこの煙を肺に入れた。実に、2~3年ぶりの吸煙だった。フッと心が軽くなる感じがした。
その瞬間、彼らは、「どうして髪の毛、そんな染め方しているんすか?」なんて聞いてきた。その声色は、さっきまでの収録とは打って変わって、とても角が取れた、丸みのあるトーンに感じた。残念ながら酒だけじゃ足りなかった。たばこを一緒に吸って、ようやく仲間。今回は、酒と煙と話と徳井と芸人。たばこを肺に入れないと、金属バットとは話せない。吸煙してからというもの、なんとなく彼らと打ち解けて話せるようになったような気がした。
今回の収録は、M-1決勝進出者のアナウンスがされてから間もない時期に行われた。きっと、 あの二人にも思うところがあったと思う。
小林は、「ずっと漫才をやっていきたい」と言っていた。いずれは、なんばグランド花月(NGK)のトリを務めたいとも話していた。これからのこと、東京進出について、いろいろなことを聞いた。でも、そのすべてがウソかマコトかわからない。たばこを肺に入れたけれど、もしかしたら入れ損だったかもしれない。それすらも、気のせいかもしれないけれど。
ただ――。俺たちが彼らを通して見たい夢と、彼らが描いている夢は違うのだということは、ほんの少しわかった気がする。ちょっとは本音を話してくれていると思いたい。俺一人では手に負えないので、皆さんに『酒と話と徳井と芸人』を聴いていただき、その真意を丸投げさせてください。
過日、フジテレビが、結成16年以上のコンビが競う新たなお笑い賞レース『THE SECOND~漫才トーナメント~』(仮)を開催すると発表した。なんでも決勝トーナメントは今年5月、全国ネットでゴールデンタイムに生放送されるという。 また一つ、お笑い界に碑が立つ。
相方である吉村はどう思っているか知らないけど、俺はネタは売れるための道具だと思ってやっていた。正直なところ、自分たちのネタに愛はなんてない。そんな人間が口を挟むことはおこがましいとは思いつつ、ネタを一生懸命磨き、自分たちのネタを愛している芸人たちにとって、夢のある大会になったらいいなと、心から思う。
甲子園に出れなくたって、社会人として都市対抗野球で活躍し、 プロ野球からスカウトされた選手だっている。売れるのは、夢のまた夢。M-1で成仏できなかった芸人たちに、“また夢”があるのは決して悪いことではないよねって。2022年 、M-1ラストイヤーだった芸歴15年組は絶対的に有利なポジション。一方で、とうの昔にM-1を卒業した練者組がどんな一手を放つのか。夢の続きは、いつだって残酷でワクワクする。