脳科学者の茂木健一郎さんが4月2日付のブログで「東京大学の中に、新たに、英語で教育・研究をするリベラルアーツ・カレッジをつくる」ことを提案されていました。
東大といえばこれまで入学の段階で、法学部を主にめざす「文一」、医学部に多くが進む「理三」といった具合に、文科、理科それぞれ三類に振り分けられてきましたが、文系、理系の区別をなくし、入学後に自分で科目を組み立てて、専攻は入学してから決めるように枠組みを変えることを提言されています。
茂木さんも引き合いにされていますが、イエレン米財務長官らを輩出したブラウン大学では導入済み。日本でも秋田県の国際教養大学などではじまっています。しかも「茂木提言」は、全面的なAO入試による変更を訴えるなど、なかなか先鋭的ではありますが、東大が大改革をすれば日本中の大学の入試、教育のあり方を塗り替える可能性を秘めているのは間違いありません。
もちろん、茂木さんの提案を実現するのは、容易ではありませんが、2030年代以降を見据えた人材育成の方向性としては全くもって理にかなっています。たとえば文系、理系の「壁」を取っ払うことは私も長年指摘しました。私自身も、東大教養学部で藝術・学術・社会をつなぐコンセプト「学藝饗宴ゼミ」を主宰していますが、まさに文一から理三まで所属しているので、茂木さんの提案に賛同します。
AIの進化で定型的な業務が代替され、産業や働き方が激変される未来において、技術革新や新しい価値を創造することや、AI、データを駆使することが求められます。そのためには、STEAM(=Science、Technology、Engineering、Art、Mathematics)や、デザイン思考の習得が必要になります。
国としてもすでに高大接続改革において、高校における文理分断の解消に乗り出しているわけですから、大学でもその流れを強化し、幅広い教養を身につけて専攻を見定めていく仕組みに変えていくのは当然のことでしょう。専攻とて文系理系にとらわれる時代は終わりです。
茂木さんが言われるように、物理学と国際関係論をダブル専攻する学生がいていいのです。いま、まさにコロナ禍で政策現場は前例のない、非常に難しい決断を迫られているわけですが、政治的なリーダーは経済学と医学、二つの知見が求められているのをみても、この複雑な時代に何が重要なのか示唆しているのです。
文理分断の終焉の動きはますます加速しています。これはすでに社会人になっている皆さんにとっても決して無縁ではありません。大学院などでの「学び直し」にもつながってきます。