世界三大映画祭で数々の賞を受賞し、『月曜日に乾杯!』『ここに幸あり』などのヒットにより、日本でも熱烈なファンの多い名匠オタール・イオセリアーニ監督。その最新作『皆さま、ごきげんよう』は、混沌とする現代社会に生きる人々を見つめ続けたイオセリアーニ監督の集大成ともいえる作品。
80歳を超えてなお映画への情熱はとどまることを知らず。ついでに酒好きも相変わらずのようで「酒はなんでも好きだよ」とグラスを傾けながらのインタビュー。物語はフランス革命の情景から始まり、戦争の時代を経て現代パリの街角が舞台となる。
「私は高層ビルに住んでいる人物には興味が無いんだ。街角でこそ、人のさまざまな営みを見ることができる。とくにパリは、さまざまな歴史を背負ってきた街だからね。革命、戦争、差別や格差…歴史の影の部分も語ることができる」
アパートの管理人にして武器商人の男と、骸骨集めが大好きな人類学者という友人同士の2人を主軸に、のぞき趣味の警察署長やローラースケート強盗団などさまざまな登場人物が万華鏡のように描かれる。
「ここで語られているのは、いわゆる比喩なんだ。彼らは、過去から綿々と続く人間の営みを表現している。日本の映画だと『羅生門』なども優れた比喩で人間を描いた作品だね」
一見、物語は自由気まま。しかしそれは綿密なストーリーボードに基づいている。
「私はアドリブなども一切認めないんだ。私の現場は独裁的だね(笑)。作家が作品を作るということは、そういうものだ。今回も素晴らしい役者たちがそれを可能にしてくれた」
不条理にしか見えない“街角”のどこかに、きっと美しい庭への入り口がある。そんなことを“人生の達人”が教えてくれる。