10月からSeason8の放送が始まったドラマ「孤独のグルメ」。井之頭五郎といえばすっかり松重豊のイメージが板についている人も多いだろう。
ドラマ版の原作『孤独のグルメ』は原作・久住昌之、作画・谷口ジローによる漫画だが、この漫画の連載を立ち上げた編集者が本書の著者・壹岐真也である。WEB媒体「日刊SPA!」で連載された漫画版を底本としたオリジナル小説をまとめたものが『小説 孤独のグルメ 望郷編』だ。
小説版は、設定こそ井之頭五郎だが、漫画版にもドラマ版にも依拠しないオリジナルな魅力にあふれている。たとえば小説なのでドラマや漫画よりどっぷり五郎のモノローグで進行していくのだが、どこかで聞いたような唄やフレーズが度々挟み込まれるあたり。フリーランスとして1人で仕事をしている五郎の頭の中には、常に心のつぶやきに加え入れ替わり立ち替わりいつかの回想や音楽や言葉が鳴っているのだろう。分かる。日常的に孤独に親しんだ経験があるならば理解できるはずだ。
もちろん食べたことがないのに〈懐かしい〉食べ物の数々も健在。著者の分身かとも思うが、酒を飲まずにカルピスウォーターを愛飲しているところは、パラレルワールドを生きる五郎というべきか。マルコヴィッチならぬ井之頭五郎の穴のような読書体験だ。