「ミスiD2015」グランプリを経て、現在はPOP思想家、イラストレーター、コンセプトクリエイターなどとして活動する水野しず。
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大友克洋の全仕事を収録『OTOMO THE COMPLETE WORKS』刊行開始
世界中に衝撃をもたらした代表作『AKIRA』で知られ、漫画家、イラストレーター、映画監督などジャンルにとらわれず活動する大友克洋自身が企画し、制作順に全作品をまとめた全集『OTOMO THE COMPLETE WORKS』が21日、講談社より第1期・第1回配本の刊行を開始する。発売に先駆けてプロジェクトのメインビジュアルが公開された。
過去の単行本が長らく絶版状態にあったという大友は「それなら自分の仕事をまとめた全集を自分の思うような形で作りたいと思い、本プロジェクトがスタートしました」「本当は収録したくなかった古い作品や実現しなかった作品、未完のものも、出し惜しみせず全てお見せいたします」とコメントを寄せている。『OTOMO THE COMPLETE WORKS』第1期・第1回配本は、第8巻『童夢』(漫画)、第21巻『Animation AKIRA Storyboards 1』(アニメ映画『AKIRA』絵コンテ集 第1巻)を刊行。
以後、3月に第2回配本の第2巻『BOOGIE WOOGIE WALTZ』、第22巻『Animation AKIRA Storyboards 2』、5月に第3回配本の第3巻『ハイウェイスター』、第25巻『Scripts 1』、7月に第4回配本の第20巻『Animation AKIRA』、第4巻『さよならにっぽん』、9月に第5回配本の第5巻『Fire-Ball』、第35巻『The Live Action 蟲師』、11月に第6回配本の第1巻『銃声』を刊行予定。一人の作家のパーソナルな仕事集だけでなく、1970年代から現代までの漫画、アニメ、映像までを含む作品集となる。
ジョゼ・サラマーゴ『白の闇』目の前が真っ白に…感染症「ミルク色の海」がまん延する世界
長引くコロナ禍。外出自粛によるおうち時間が増え、自宅でゆっくり読書や映画鑑賞を楽しんだ人も多いだろう。昨年、1947年に出版されたフランスの小説、カミュ『ペスト』が160万部を突破したニュースは記憶に新しい。
そんな中、NHK Eテレ「100分de名著」で作家の高橋源一郎が絶賛し、改めて注目を集めるパンデミック文学が昨年3月に文庫化したポルトガルのノーベル賞作家、ジョゼ・サラマーゴの『白の闇』(河出文庫)である。舞台はとある都市、突然失明したある男から、目の前が真っ白になる原因不明の感染症「ミルク色の海」が次々と広がっていく。事態を重く見た政府は、失明者と感染者を強制的に精神病院に隔離し始める。唯一、視力を失わなかった「医者の妻」が見た世界とは……。
固有名詞のない登場人物、かぎかっこのない会話など独特の文体から、感染症に追い詰められた人間の姿が浮かび上がる。
中世的ファンタジー世界が息づく不思議の国「ミャンマー」に迫る『黒魔術がひそむ国 ミャンマー政治の舞台裏』
表紙カバーに個性的な書体で書かれた「黒魔術」という文字を目にして、一体何の本なのだろうと興味をひかれた。実用書やライトノベルかと思いきや、さにあらず。呪術や占星術、数秘術、人相・手相術などの「おまじない」から、ミャンマー政治の舞台裏を探るという奇想天外なルポであった。
新聞記者として、途上国や新興国の駐在を歴任してきた著者。最後の赴任地であるミャンマー最大の都市ヤンゴンで、時のテインセイン大統領の正確な「生年月日」が分からないことがきっかけで、その理由に「黒魔術」の存在があることを知り……というのが第1章のあらすじだ。
その後、2年以上経過しても「生年月日」は不明なまま。情報省の幹部に「黒魔術」のやり方を聞き、占星術師組織の会長、テインセイン大統領の兄、テインセイン政権の「お抱え占い師」だったという人物、そしていよいよ念願のテインセイン大統領本人のインタビューへ。宗教観や死生観、占いの知識にふれながら迫る真実とは?
「黒魔術」をひもとけば、不思議の国ミャンマーがより身近に思えてくる。
【オススメBOOK】正常は発狂の一種でしょ?『生命式』
本を紹介する枠を受け持っていると、時折「献本」という形で本が送られてくる。そんな中で封を開けた瞬間から異様なパワーが漲っているというか、やたらとオーラのある本が出てきてびっくりすることがあるが、本書もそんな一冊である。
芥川賞受賞作『コンビニ人間』で知られる村田沙耶香自身がセレクトした12篇を収めた最新短編集。まったく予備知識を入れずに読み始めた表題作、ありふれた職場の日常の描写から1ページ目をめくって出てきた台詞「中尾さん、美味しいかなあ」に、えぇ〜。「生命式」って、表紙の燭台って、そういう意味だったのかと鮮やかに騙されてむしろ爽快といった気分になった。一般的なカニバリズムを描いた創作物にありがちな後ろめたさや背徳めいた部分が一切なく、地続きの未来にありえるのかもと思わせるところが見事だ。
人間、生きていると山本のように死んでしまう身近な人はいる。昨日までしゃべって、笑って、元気だった友人でも、ある日突然階段で落ちたり、会社にタクシーが突っ込んできたりして亡くなってしまう。ふと彼や彼女の生命式を思った。
「だって正常は発狂の一種でしょ?」
そんなふうにつぶやきながら食べるのかな、と。
鮮烈なラストを目撃せよ『虹を待つ彼女』【著者】逸木裕
2020年、人工知能を用いたアプリの開発に携わる研究者・工藤はある種の倦怠感を常に抱えていた。優秀さゆえに、すべてのことが見通せてしまえること、それが自分自身の未来の事であっても。周りのレベルに合わせ、雰囲気を壊さないで、円滑に人間関係を築くこと。それすらも、意識的に悪目立ちしないための、退屈な彼の日常だった。
ある日、社内で人工知能を使い、死者をよみがえらせるというサービスを開始することになり、工藤はその担当となる。とりあえず、プロトタイプを作成することになり、その試作品のモデルとなったのが、さかのぼること6年前に自らが作成したプログラムとドローンを連携し、街を混乱に陥れたあげく、自らを標的にして自殺した水科晴だった。晴はオンラインゲームのクリエイターであり、その美しい容姿とミステリアスな生涯から、カルト的な人気を誇り、死後6年経っても熱狂的なファンを持っていた。
試作品を作るため、晴のことを調べ始めた工藤は、残されたわずかな手がかりから、その真実の姿にたどり着こうと調査を開始。彼女について徐々に分かっていくうちに、会ったこともない、声を聞いたこともない彼女にどんどんひかれていく自分に気づく。やがて彼女には“雨”と呼ばれる恋人がいたことを知るが、そんな矢先に何者かから、調査を打ち切らないと殺すと脅迫されるようになる。晴の自殺の謎は。また工藤はそんな晴を手に入れることができるのか。
ミステリーという形式ではあるが、ラストで解明される真実が美しくも哀しい究極の恋愛小説だ。
獄中から溶け出す女の欲望が、すべてを絡め捕っていく『BUTTER』【著者】柚木麻子
ケーキやクッキーの甘い香りがただよってきそうなタイトルだが、だまされてはいけない。同書は、あの首都圏連続不審死事件の容疑者であり、死刑が確定となった木嶋佳苗をモデルにした、フィクションである。もっとも木嶋本人は「木嶋佳苗の拘置所日記」というブログで、自分がモデルであると言われていることに大憤慨しているが。とにかく現在の木嶋と同じく、結婚詐欺と殺人の罪で刑務所にいる“カジマナ”こと梶井真奈子が物語の中心だ。世間がこの事件に注目したのは、事件そのものというより、梶井が若くも美しくもないのに、次々と男性が彼女の虜になっていったということ。そして何より、彼女がそれを当然とばかりに、自信満々に自己肯定をしている様子が、不思議だったからだ。週刊誌の女性記者・里佳は、その理由が知りたくて、手記の執筆を頼むため面会を取り付けた。一筋縄ではいかない“食えない女”だが、その欲望と快楽に貪欲で、人の心を掌握することにたけた彼女の言動に里佳は次第に翻弄されていく。カジマナに取り込まれそうになる里佳は、必死に自分の理性を保とうとするが…。木嶋佳苗がモデルと知って、あの事件のことをなぞった本かと思いきや、まったく違って意表をつかれるだろう。カジマナの口から飛び出すバターを使った料理の数々。濃厚で粘りつくようなその描写は、人間の欲望そのものだ。
人は何故、欲するのか。そして欲する事は罪なのか。登場する人物たちが抱える欲望と、それをあざ笑い操る殺人鬼の対決を、よだれが出そうな料理の描写で表現。里佳はカジマナの呪縛から逃れることができるのか!?
実は知らないホテルの裏技—知らなかったら損しています
著者は「姉さん、事件です!」というセリフでおなじみの大ヒットドラマ「ホテル」のモデルになった、伝説のホテルマン。経営、サービスのプロであるのはもちろん、ゼロからホテルを作り上げ、それを世界が認める最高級グランドホテルに引き上げた人物だ。世界中探しても、そのようは経験を持つホテル経営者兼総支配人はいないという事からも、著者がどれだけホテルに精通しているかが分かる。イギリスの元首相ウィンストン・チャーチルが「その国の文化の水準を知るには、その国で最もいいホテルを見よ」と言ったというエピソードが書かれているが、ホテルは国の文化水準を反映し、本来の存在価値を表している。しかし、日本においても、海外においても、その国で最もいいホテルに泊まるという経験はなかなかできないもの。普段ビジネスホテルやシティホテルを利用している人は、高級ホテルに尻込みしてしまいがちだ。
同書の中で、高級ホテルかそうでないかを簡単に判断する方法として紹介されているのが、「客室を一歩も出なくても、すべてが事足りるのが高級ホテル」で、「客室を出なければ寝る事しかできないのがその他のホテル」というもの。すなわち“必要なものがその場でそろうホテル”それが高級ホテルだと。チップの習慣がなく、サービスになれない日本人は、ホテルマンに対して、どこまでのサービスを要求していいものか気にしてしまう事がしばしばあるが、同書を読むと、かなりいろいろなお願いしても大丈夫だと分かる。しかも、遠慮する必要もないと。が、そこはこちらがプロの客としての振る舞いができる場合の話である。なんでもかんでもワガママを言い、上から目線で命令するのは、サービスを受ける以前に、人としてマナー違反だ。同書は、ホテルで快適な時間を過ごす裏ワザを教えてくれると同時に、利用者をプロの客へと導いている。プロの客はプロのホテルマンを育てる。ホテルという非日常の空間を、上手に使いこなすには、ホテルマンと客が同等にプロであることが必要なのだ。その上で、同書の裏技を駆使しホテルを使えたら、そこは自宅のようにくつろげる場所にもなり、とっておきのスペシャルな日を楽しむ場所にもなる。いいホテルを選ぶポイントやコンシェルジュとの接し方など、日本でも海外でも使える実用的な一冊。