“サイコ”の異名を持つ平成ノブシコブシ・徳井健太が、世の中のあらゆる事象を生温かい目で見通す連載企画「徳井健太の菩薩目線」。第126回目は、コンビニで遭遇した喧噪について、独自の梵鐘を鳴らす――。
やっぱり新宿という街は狂っているなぁと思う。
前回、『新宿という街は、やっぱりどうかしている。人間をむき出しにできる街』 と題して、異世界・新宿について述べさせていただいた。考えようによっては、こんなにネタが転がっている街はないから、若手芸人は新宿周辺に住んだらいいのになぁなんて思う。
大量にコピーをとらなきゃいけない。そんな理由で、家からそう遠くはないコンビニへ行ったときのお話。大量にコピーするため、1時間ぐらいかけて占拠していた俺自身も、招かれざる客。でも、どうしてもコピーをしなければいけない手前、居続けなければいけない。1時間も新宿のコンビニにいると、いろいろな人が往来していく。
「どう考えてもクレーマーだな」。なにやらぶつくさ言いながら店内をおらついている30代くらいの客がいた。コピーをしているけど、不審な人は不審だと気が付くもんだ。
「おい! おい! おい!」
誰に対して怒りを露わにしているのかわからないけど、案の定というべきか不審に火が付き始めた。後に判明するのだが、どうやらその人は、ドロドロ系のコーヒーを購入したため、細いストローに不満を覚えているらしかった。ストローが太くないと吸い上げることができないから、ストローを交換しろ――。あさましい怒りが爆発していた。
でも、そのコンビニには「太いストローがない」という。店員さんも、その一点張りで難癖に対応していた。ウィーン、パシッ。その間、ずっとコピー機はなり続ける。クレームとコピーの音が、店内にこだまする。
「お~い! おい、おい!」
諦めないクレーマー。いよいよ、「太いストロー、寄越せっつってんだろ!」と理不尽に大声で怒鳴り始めてしまった(このとき、コピーを取りながら、はじめて俺は怒号の理由が“太いストロー”だと気がついた)
すると、店員。
「ねぇって言ってんだろうが! どっか行け、ク●野郎が!」
と、大声で吐き捨てた。一心不乱にコピーを取り続けていたから、最初はクレーマーと誰が口論をしているのかわからなかった。あまりの吐き捨てっぷりに驚き、声の主の方向を見てみると、制服を着た60歳くらいのスタッフが、物凄い形相でクレーマーに暴言を吐いていた。「マジか」と思った。
当然、そのクレーマーは「何だその口の聞き方は!」と応戦する。「上の人間に電話してやるからな!」とか何とかかんとか。 すると、店員。
「やってみろこの野郎! 出てけ、馬鹿野郎!」
クレーマーの5倍くらいの声量でブチ切れた。もう止まらない。アウトレイジの武さん。年齢を感じさせない暴言。
俺は A3用紙でひたすらコピーを取り続けていたから、次第に紙がなくなっていくのがわかった。「頼むからこの悲しいバトルが終わるまで、A3用紙よ、尽きないで」。もし尽きたら……いったい、どんなテンションで俺は、「あの A3の紙が切れたんですけど」ってアウトレイジと化した店員に頼みに行けばいいんだろう。十字を切る思いで、紙に願った。
そろそろなくなろうかというとき、現場は終戦を迎えた。見事撃退し、クレーマーはしぶしぶ店を出て行った。俺は、一にも二にも「コンビニの店員さんって、キレるとあんなにキレるんだなぁ」と妙に感慨にふけってしまった。気をつけなきゃいけないなと思った(いや、理不尽なクレームを言うつもりはないけど)。
そりゃそうだ。「太いストローがない」ってだけで、絶叫してクレームをつけることがどうかしている。でも、60歳のコンビニの達人は、そういう人の対処方法に慣れているからなのかな。 絶叫で投げつけられた糞を、大絶叫で投げ返していた。新宿に慣れると、新宿に吞み込まれるのかもしれない。
家から近いコンビニなので、今後もこのコンビニに行かなきゃいけないのに、なんだか腰が重い。あんなに不穏なやり取りを見て、どんな感情で、あのコンビニの達人の接客を受けたらいいんだろう。
煙が立ちこめるように不審と不穏が広がっていく店内で、俺の神経はやられていたんだろうなぁと思う。クレーマーが去り、ようやくコピーが終わろうというとき、本来コピーするべき面とは逆側をコピーし続けていたことに気がついた。ホントに、どうかしている人しかいない。