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ソウドリへの感謝と後悔は消えない。それでも若手芸人たちはスクスクと育っていく!〈徳井健太の菩薩目線 第202回〉

2024.04.10 Vol.Web Original

“サイコ”の異名を持つ平成ノブシコブシ・徳井健太が、世の中のあらゆる事象を生温かい目で見通す連載企画「徳井健太の菩薩目線」。第202回目は、「ソウドリ解体新笑」について、独自の梵鐘を鳴らす――。

『賞金奪い合いネタバトル ソウドリ~SOUDORI~』が終わってしまった。とてもありがたいことに、僕は「ソウドリ解体新笑」という形で、この番組にかかわることができました。ぽっかり穴が開くって、こういうことを言うんだろうな。

 終わったばかりだからセンチメンタルになってしまうけど、この仕事を通じて、今まで明かされていなかった有田さんのお笑い観や考え方を聞くことができて(しかも真横で)、ものすごくぜいたくな時間を過ごさせていただきました。有田さん、番組スタッフの皆さん、ありがとうございました。

 最後の収録は、個人的にものすごく後悔を伴うものだった。「もっとうまく立ち回ることができたのかもしれない」とか「もっとこうしておけば」とか、反省、反省、また反省。都合よく解釈すれば、これから自分のステージを上げていく上で、「宿題」をもらったとも考えられるけど、40を過ぎて宿題と向き合わなきゃいけないのも情けない。今も後ろ髪を引かれるのは、自分の未熟さを感じたまま終了したからなんだと思う。

 去年、「敗北からの芸人論 トークイベント vol.9」で、インパルス・板倉さんを招いたときもそうだった。役割に徹するがあまりインタビュアーっぽくなりすぎて、もっと自由に熱いハートを持ってぶつからないといけないって反省したはずなのに。

 きちんと話そうと思うと、どこかでパッケージしてしまう自分がいて、それを良くない意味で「慣れ」と呼ぶのかもしれない。結局それって、まとまってしまうから保守的な展開にしかならない。あ~、もっとできたはずなのに。「なのに」ばっかり。「なのに」が多いと、それだけ反省も多い。『ソウドリ解体新笑』は、最後にどでかい自分への反省を与えて、去っていった。でも、ドン・アリタは嘘つかない  。お笑いへの愛は、そりゃもう最大級の偏愛だから。待ってます。ただのコアなお笑いファンとして。その日まで成長してないとウソだと思うんです。

 僕が、お笑いについて分析するとき、きっと「お前レベルが話すなよ」と思っている人は少なくないと思う。同業者の中にも、まったく関係のない中にも。有田さんと一緒にお笑いを語れたことで、自分が話していることに自信を持つことができたし、あの有田さんがうなずいている――。虎の威を借る狐だったとしても、虎に近づけたのかなって思いたい。

 僕は、好き勝手に語って、論じちゃう。だけど、出演する芸人たちは、好意的な意見を言ってくれる人がたくさんいて、あぁ~しらきからは、「あのとき、私の真髄を語ってくれてありがとうございます」なんて言われた。面映くなって、「そんなこと言っていたっけ」って聞き返すと、彼女は「なかなか言ってくれない一言を言ってくれましたよ」と力強い目線で返してくれた。

「マジで? 俺、何て言ったっけ?」

「それが覚えていないんです」

 しらき、ありがとう。またネタを見るの楽しみにしてる。

 勝手にあーだこーだ言うから、収録終わりに「ごめんね、好き勝手言っちゃって」なんて言葉をかけたこともある。ゼンモンキーから、

「いやいや、全然そんなことないです。若手は、有田さんがなんて言うのか、徳井さんがなんて言うのか、ものすごく楽しみにしてると思います」

 と言われたときは、すごくうれしかったなぁ。些細な一言かもしれないけど、そんな彼ら彼女からの言葉が、僕自身も励みになった。素晴らしい徳を積ませていただきました。

「ソウドリ解体新笑」は終わったけれど、僕が若手のネタを見続けることはずっと続くと思う。だって、とんでもないモンスターに出会えるんだから、やめられるわけがない。

 3月下旬に、ネタバトル番組「100×100」(https://100×100.yoshimoto.co.jp/ )という大会が、YouTubeの「吉本興業チャンネル」で生配信され、僕はMCを担当した。100秒刻みのネタで100万円をゲットできる吉本独自のコンテストで、若手を中心とした60組の芸人が4時間にわたって登場する。審査員を務めるのは、本多正識(漫才作家・NSC講師)、お~い!久馬(ザ・プラン9)、椿鬼奴、久保田かずのぶ(とろサーモン)、中山功太、田所仁(ライス)――そうそうたるメンバー。

 20時配信スタートで4時間ぶっ続け。審査員の最年少は、41歳の仁。平均年齢50歳近い審査員が4時間にわたり審査する。クレイジーすぎるって、吉本興業さん。

 次から次に、若手が刻むようにネタをするものだから、もう途中から意識が遠のいていく。何かの社会実験に参加させられたような審査員たちの表情からは、一つずつ感情が消えていき、終盤を迎えるころには笑う気力も失せていた。

 感情が死んでいく。そんな中、決勝に残ったイチゴ、鉄人小町、若葉のころはとんがっていた。深夜0時。もうボロボロの初老の審査員たちを、どっかんどっかん爆笑させ、よみがえらせていた。きっと彼らは「来る」。真夜中に、どうかしているネタに爆笑している、どうかしている審査員たち。これだからお笑いはやめられないんです。

あきらめるにはもったいないほどの愛と夢。有田さんが掲げる新たな賞レース「愛情-1GP」構想。【徳井健太の菩薩目線 第182回】

2023.09.20 Vol.web Original

“サイコ”の異名を持つ平成ノブシコブシ・徳井健太が、世の中のあらゆる事象を生温かい目で見通す連載企画「徳井健太の菩薩目線」。第182回目は、新しい賞レースついて、独自の梵鐘を鳴らす――。

『ソウドリ』は、いつも発見をもたらしてくれる番組だ。

「ソウドリ解体新笑」という企画内で、有田さんとお笑いについて話をする機会に恵まれていることは、本当にラッキーなことだと思う。ラッキーなんて言ったら失礼かもしれないけど、有田さんのようなお笑い愛にあふれた人の隣で、今昔のバラエティや芸人についてあれこれ考察できるのは幸運というほかない。

 有田さんは先日の放送で、第一線で活躍するMCクラスの芸人が推薦する芸人が競い合う「愛情-1GP(あいじょうワングランプリ)」構想について語っていた。その話を聞いていて、俺は泣きそうになってしまった。

 めちゃくちゃ面白いのになかなか売り切れない芸人や、日の目を浴びることに恵まれない芸人がたくさんいる。でも、そんな芸人たちの底力に気が付いている兄さんたちは、いつか「こいつは売れる(売れてほしい)」と信じてやまない。

 彼ら彼女らにチャンスを与えることはできないか――。そこで第一線で活躍しているMCクラスの芸人たち、それこそくりぃむしちゅーさんをはじめ、今田さん、東野さん、有吉さん、ジュニアさん、 サンドウィッチマンさん、バナナマンさんなどが「俺のおすすめ芸人」を出し合って戦わせる。それが有田さんが掲げる「愛情-1GP」構想だ。まるで代理戦争。面白くならないわけがない。

 だって、わくわくするじゃない。

 推薦人であるMCクラスの芸人たちは、推薦する芸人に売れてほしいと願っている。でも、面白くない芸人を推薦してしまうと、自分の審美眼に疑いの目を向けられる可能性もあるから、へたな芸人は推薦できない。確実に面白い芸人を送り込む。つまり、クオリティが担保される。

  一方で、推薦された芸人は、推薦人であるMCクラスの芸人の顔に、泥を塗るようなことはできない。極端な話、死ぬ気で「愛情-1GP」で放つ一撃に、魂を込めると思う。

 今ある賞レースとは、まったく違うヒリヒリ感と緊張感。こんなサバイバルな状況で、推薦された芸人たちがノックダウン方式で戦っていく。それぞれにドラマがあって散っていく。あー、想像するだけで何だか泣けてくる。

 お笑いの世界に、「頑張ってきた人間が報われる」的な世界はいらないかもしれない。でも、若手時代を過ぎて、自分が中堅になると、愛情の存在にイヤでも気が付いてしまうときが来る。誰かの愛で今の自分がいるんだから、その愛を違う誰かにつなぐことはできないのか。だから、愛情が支配するような異質な賞レースが一つくらいあってもいいと思う。誰もバッドエンドにならない。そんな賞レースを見てみたいと思いません?

 ぐいぐいと話に引き込まれた俺は、「今すぐやってほしいくらいですよ。やりましょうよ!」なんて興奮していた。だけど、有田さんは釘を刺すように、「ただな……」とネックがあることを教えてくれた。もしも、「愛情-1GP」をテレビ番組として放送するなら、

「裏番組からMCクラスの芸人がいなくなるということなんだよ」

  推薦する芸人がVTR出演だったとしても、第一線で活躍する芸人を一堂に会すわけだから、スポンサーの兼ね合いを含め放送枠を取ることができるのかって問題がある――と。面食らった。

 現場を面白くしようという目線しかない自分とは、まるでレベルの違う戦いをしているんだって圧倒的敗北感。MCクラスの芸人たちは、こんなことまで俯瞰して、「面白い」を考えているのかって。

 テレビではない「枠」でやることも一つの選択肢なのかもしれない。だけど、影響力を考えると、やっぱり「テレビが一番なんだ」とも付言していた。自分が好きな芸人を推薦するなら、せっかくならテレビでやらせてあげたい。「愛情-1GP」は、とことん愛情にあふれた最高の企画だと思う。

 オリンピックが放送される時期だったらどうなるんだろうなんて考える。裏番組がスポーツ一色に染まり、芸人もあまり重要視されないタイミングだったら……でも、オリンピックに水を差すような賞レースは歓迎されないか。なんとかできないものか。

 あきらめるにはもったいないほどの愛と夢。「愛情-1GP」、やりましょう。

 

「ソウドリ解体新笑」で明かされた、演者とスタッフの魂が乗り移ったくりぃむしちゅーさんの番組〈徳井健太の菩薩目線 第147回〉

2022.09.30 Vol.Web Original

 

“サイコ”の異名を持つ平成ノブシコブシ・徳井健太が、世の中のあらゆる事象を生温かい目で見通す連載企画「徳井健太の菩薩目線」。第147回目は、「ソウドリ解体新笑」について、独自の梵鐘を鳴らす――。

 くりぃむしちゅー有田(哲平)さんがMCを務める『賞金奪い合いネタバトル ソウドリ~SOUDORI~』。その中で、今年4月から「ソウドリ解体新笑」というコーナーを定期的にやらせていただいている。

 毎回、今まで明かされていない有田さんのお笑い年表を開いたり、有田さんの転機を窺えたり、ソウドリウォッチャーの私、徳井健太は恍惚の連続であります。ありがとうございます。

 8月末に放送された「ソウドリ解体新笑」も、とても熱くて、まぶしかった。くりぃむしちゅーのお二人が、どのようにして冠番組を手にしていったのか……その裏側を有田さんが明かしてくれたのだ。

 お二人にとって初となる冠番組は、『くりぃむナントカ』だったという。くりぃむさんは早くして売れたというイメージがあった。だから、2004年まで冠番組がないというのは、少し意外だった。

 転機となったのは『虎の門』。そこで出会ったのが、その後、『くりぃむナントカ』を立ち上げる藤井智久プロデューサー(当時)だ。 

 意気投合したくりぃむさんと藤井さんは、特番の冠番組『生くりぃむ』という生放送番組を仕掛ける。ところが、放送前日までくりぃむさんは、『ぷらちなロンドンブーツ』のロケでイタリアにいたらしく、最悪の事態に巻き込まれる。飛行機が欠航し、初めての特番、しかも生放送という大舞台を欠席することになってしまったのだ。想像するだけで、悲しいし悔しいし怖ろしい。

 あくまでイレギュラーなトラブル。くりぃむさんに非はない。しかも、同じテレビ朝日の『ぷらちなロンドンブーツ』のロケによるまさかの事態。「もう一回何かやりましょう」、そうテレ朝サイドから声を掛けられたそうだ。

 このチャンスに、くりぃむさんは、恩人である明石家さんまさんと一緒に何かできたらと提案したという。だけど、さんまさんは色々あってテレ朝には行けない。でも、「くりぃむしちゅーとは出たい」。そこでさんまさんは、MBSでやっているラジオにくりぃむさんを呼んでトークをし、その模様をテレ朝で流すというウルトラCを敢行した――。全員、愛。愛がなければ、できっこない。

 結果を出したくりぃむさんは、2004年に『くりぃむナントカ』を始めることになる。だけど、これで終わりじゃない。このお話は、大河ドラマだ。

 同番組は、「芸能界ビンカン選手権」や「長渕ファン王決定戦」など数々の名企画を生んだ名バラエティだ。当然、視聴率もファンも獲得した。となると、期待してしまう。4年後、『くりぃむナントカ』は、水曜19時台のゴールデン帯へ昇格することになる。

 ところがその当時、裏番組には絶対王者がいた。ヘキサゴン。お化け番組の壁は高く、返り討ちに遭った『くりぃむナントカ』は、半年で打ち切りになってしまった。

 藤井さんは、「判断ミスだった」とくりぃむさんに謝ってきたという。その席で藤井さんは、もう一回仕事をしたい、ゴールデンでくりぃむさんと仕事がしたいと伝えた。ちゃんと視聴率が獲れて面白い番組をゴールデンで作るから。それが当たれば、また深夜でお笑いに特化した番組ができるから、少しの間、我慢してくれ――。

『シルシルミシル』はこうして誕生したと、有田さんは笑って教えてくれた。その後、くりぃむさんは深夜帯で『ソフトくりぃむ』を開始する。背筋がゾクゾクした。

『ソフトくりぃむ』は、俺たち平成ノブシコブシが『ピカルの定理』に出ていた頃だったから、よく出演させてもらった番組の一つでもあった。当時の俺は、実力がないながらもできる限りのことはやっていたつもりだった。

 でも、有田さんから語られる大河を知って、くりぃむしちゅーさんと藤井さんの魂が乗り移った番組だったんだと、今さらながら理解した。「できる限りのことはやっていたつもりだった」は、言い訳だ。あのとき、もっと頑張れたんじゃないかと、有田さんの話を聞いて後悔した。『ソフトくりぃむ』は、まるで独立を勝ち取った小国が、 “列強何するものぞ”の精神で、死ぬ気でやっていた番組だったんだ。振り返ると、ヒリヒリした現場だったのには、道理があったんだ。

 深夜に生まれたくりぃむさんの冠番組は、いまは『くりぃむナンタラ』となり、今年4月からは毎週日曜日の21時55分から1時間番組になった。ゴールデン・プライムタイムに、巡り巡って舞い戻ってきた。

 テレビ番組は、演者とスタッフの魂によって生まれるものがある。俺が言うことじゃないだろうけど、ゲストとして登場する出演者は、その気持ちをちゃんと想わないといけない。有田さんの話を聞いた今、いっそうその気持ちを持って、皆さんの番組にお邪魔したいと、私、徳井健太は思っています。

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