時折、大手企業の幹部向け研修や社長候補の若手幹部が学ぶセミナーで講師のオファーをいただきますが、近年はあまりお受けしていませんでした。文科大臣補佐官として公職を優先していたことが一番の理由ですが、新任役員や部長級の方々はビジネスパーソンとして、ある意味「完成」されていて、私からあまり申し上げることがないように感じていたことがあります。
もちろん、特定の社会課題がテーマの時で当該業界の企業幹部の方々と意見交換するのはむしろ大歓迎で私も現場の知見を大いに学ばせてもらっていますが、いわゆるビジネススクールのような社会人向けの学校、それもリーダー層向けでの講師経験が多くないのは確かです。
もともと大学教員として大学生や大学院生と学び語らい、あるいは社会創発塾で20代の社会人の皆さんと実践的課題を討議しているように、若い人と学びの場を構築・実践していく方が得意かもしれません。そして、私が主宰する学びの場では、プロジェクトベーストラーニング(PBL)を取り入れています。
PBLは、現実の課題の解決策を調べ考え抜くものなので、絶対的な「正解」があるわけではありません。ビジネススクールでも現実の企業のスタディケースを使って学びはしますし、討論も取り入れて一つの正解にこだわらずに思考法の訓練はしますが、少なくとも大手企業の幹部クラスの40代後半〜50代のベテランの方々にとっては「今更」と感じる部分も多いのではないでしょうか。
しかし、このほど企業幹部向けに新たな試みをやってみることにしました。5月に開講する「アゴラ・サーバントリーダーシップ・ビジネススクール」では、3つあるクールの第2クール(今夏)で、私自身がカリキュラムから講師陣のキャスティングまで全体をプロデュースできるとあって、これまでにない「オトナのビジネススクール」にします。
日本経済が「失われた30年」に突入したのは、企業の新陳代謝による活性化に乏しいこともありますが、既存の大手企業が新風を吹かせる天才的な若者たちとのコラボレーションが足りないと長年感じていました。そこで今度のスクールでは、10代から活躍している私の教え子の起業家たちのプレゼンを聞いて意見交換や討論などを展開しようと考えています。
良くも悪くも、歴史のある企業が幅を利かせているのは日本経済の現状です。ただ伝統的な大企業にはリソースがあります。企業の内部留保は475兆円と8年連続で過去最大を更新中。これをいかに若い才能への投資に振り向けるか。新しいスクールが、ベテラン役員の皆さんをインスパイアさせ、投資の目利き力を鍛える一助にしたいと思っています。
(東大、慶應大教授)