伊坂幸太郎の1年ぶりの新作長編は、双子の兄弟の不思議な物語。常盤優我と常盤風我は物心がついた時から、親の虐待を受け育ってきた。2人がその事に耐えてこられたのは、時間を、そしてその苦しみを“共有”できたから。学校の友人には、家庭での虐待の事実は悟られまいと気を使っていたため、本当の自分をさらけ出せないのは当然だが、それを差し引いても、2人の間には特別な結びつきがあった。
それは誕生日に起こる謎の現象。2人だけで守り続けてきたその大きな秘密を、ある男が嗅ぎつけて真相に迫ってくる。仕方がなく、常盤優我は仙台市内のファミレスでその男に語り出す。双子の弟・風我の事、幸せではなかった子ども時代の事、そして兄弟だけの特別な“アレ”の事。にわかには信じられない出来事だが、逆にほかに説明のつきようのない証拠を前にとまどう男。そうこうしているうちに、話は思わぬ方向へ進んで行き、風我が事故死をした事が明かされる。すると、そこまでの優我の語りからは想像がつかないスピードで物語は展開し、息もつかさずクライマックスへ突入する。
風我のいない世界で危険にさらされた優雅の運命はどこに向かうのか。そして2人の秘密を知ってしまった男は一体何者なのか。SFともミステリーともアクションともくくれない、伊坂ワールドの真髄がここに。読みながら表と裏の顔を巧みに使い分ける2人で1人の人生を体験できる。
『フーガはユーガ』
【著者】伊坂幸太郎【定価】本体1400円(税別)【発行】実業之日本社
【著者】伊坂幸太郎【定価】本体1400円(税別)【発行】実業之日本社