前回のコラムでは、安倍政権の歩みを教育行政の観点から振り返りました。幼児教育の無償化、私立高校の無償化、低所得者世帯向けの大学無償化という一大業績を残しましたが、いずれも数兆円規模の大型投資を伴いました。
しかし、総理が交代し、コロナ対応でも財政出動が続きます。少子化と高齢化で教育への公的投資がますます厳しくなって行く中で、次世代を育てるための財源はどう確保すればいいのでしょうか。
ポイントは、いかに現場に近いところで「再配分」するかです。まず一つは「営利」での民の力です。これまでの民間の営利教育は、塾などをみればわかるように利用する側の経済力の格差が課題でした。もし、塾などの事業者側がソーシャルビジネス的な発想を取り入れて、低所得者世帯向けの割引を行うとどうでしょうか。
これは民間事業者の努力だけではもちろん難しいので、行政側も積極的な事業者を減税で支援したり、大阪市のように塾通いのクーポンで家庭を応援したりすることが望ましいですが、それ以上に必要なのが民の力。投資やクラウドファンディングなどを通じて事業者を応援するような社会全体の意識改革です。突き詰めれば、お子さんがいない8割の家庭が、お子さんのいる2割の家庭を「未来」のためにサポートできるかどうかです。
もう一つの民の力は「非営利」部門です。
子どもたちの学習支援を通じて将来の格差をなくそうというNPOが各地で頑張っています。
また、学校への支援は勉強だけではありません。地域住民にもできることがあります。その基盤となるのが、地域社会が学校運営に参画するコミュニティスクールです。導入から15年以上経ちますが、全国の小中学校などの2割にあたる7600校にまで広がっています。
こうした学校の中には、ボランティアの市民がコロナの危機で力を発揮したところもありました。校内の消毒を市民が手伝い、一時休校の折にはITコーディネーターが、家で使っていないパソコンをかき集めてオンライン学習を下支えするといったこともあったそうです。
そうした民の力を糾合できる首長の存在も極めて重要です。都内では渋谷区の長谷部健区長が、小中学生の家庭の通信費を補助するなどオンライン学習の普及で一際冴えた手腕を見せました。
公的な制度な枠に基づきながら、民の力をいかに活用して再配分するか。コロナ禍を機に創意工夫がさらに問われます。
(東大・慶応大教授)