一貫してロウを用いて、身近で採集した虫をモチーフに表現を続けてきた作家・筒井伸輔の個展。今年2月に闘病の末、亡くなるまで本展に向けて制作していた新作や未発表の近作、インドネシア滞在中に制作された作品を展示する。
2017年夏、インドネシアのジョグジャカルタで滞在制作を行った筒井は、現地の人々との文化的交流だけではなく、自身の制作においても大きな出会いを経験。インドネシアのバティック(ろうけつ染)と自身の作品に技法やイメージに類似点が多いことに気づき、バティックで使用されるチャンティンという器具に注目する。チャンティンは、温めたロウを入れて図柄を描く細い口金のついた銅製の器具。それまで筒井は、モチーフが描かれた型紙をパズル状に切り分けてキャンバスに配置し、紙を一片ずつ外してロウを流し込んで画面を構成していたが、チャンティンを使用することによって、型紙を使用する従来の工程ではなく、キャンバスの上に直接ロウで線を引くことができるようになった。色面で構成していた絵画を線で構成することができるようになった筒井は、より平面を意識した作品を手掛け、新作ドローイングもより絵画的表現への探求心が感じられるものとなっている。
本展を目前にして2020年2月24日に筒井伸輔は永眠。昨年4月に食道癌が判明して以降、治療を続けながら最後まで気力を振り絞り大事な時間を制作に充てて本展のための新作を準備していたという。展示のレイアウトや額装など、可能な限り本人の意向に添った内容で行う。