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「広がるリスキリングの概念。家事や育児、介護の影響を受けがちな女性だからこそ…」〈女性とリスキリング・後編〉

2023.05.25 Vol.web original

 

 出産や育児などに合わせてワークライフバランスの変更を余儀なくされがちな女性たち。前編(「出産前後で激変したリスキリングへの意識。そもそも“意識が高い”わけではなく…」)では、第一子出産を機にリスキリングを意識したフリーランスの女性の声を取材。後編では、女性向けビジネススクールの主宰に、リスキリングを意識する受講生たちの背景や企業側の需要について話を聞いた。

【“0.5人分”の戦力を求める企業と、子育てや介護をしながらやりがいのある仕事を探す女性がつながっている】

 女性向けのビジネススクール「I’me(アイミー)」を主宰する笹木郁乃さんも「コロナを機に、ますますリスキリングを意識する女性が増えてきた」と語る。

―政府は昨年10月に5年で1兆円のリスキリング支援を表明していますが、その背景をどうとらえていますか?

「やはり、少子化ということが大きいと思います。また日本経済も長らく停滞しており、これから活性化させていくとなると、どうしても女性やリタイア世代にも活躍していただかないと働き手がいないということだと思います。以前はよく、40代で早期退職させて若い人を入れていた会社もありましたが、少子化が進めばそれにも限度がある。そうなるとパソコンが苦手な社員にもウェブスキルを身に着けてもらうといった、人材活用を進めていかなくてはならない、ということだと思います。

 ただ、最近“リスキリング”の概念は広がってきているように思います。以前は、リスキリングというと企業に勤めている方が、より結果を出すためにスキルアップするというイメージが主でしたが、コロナを機にリスキリングに対する意識や、参加する人の幅も広がったように思います。

 現在、我々のスクールにも企業に勤めている方から専業主婦の方までさまざまな受講生がいます。例えばパートで勤めていたけれど、コロナでシフトが無くなったことを機に自分の働き方を見直して、もっと自分が求められる人材になる必要性を強く感じたという方がけっこういらっしゃるんです。

 コロナで仕事が不安定になった経験から、在宅でもできる仕事を持っておきたいというところで、ウェブでできる仕事のスキルを身につけに来ている。うちでは、これまでの1200人ほどの受講生のうち、6割近くの方が40~50代の女性。子育てがひと段落して、今後の介護のことも念頭に在宅でもできる、かつやりがいを感じられる仕事を探しに来ているという印象です」

―実際に育休中の受講生はいますか?

「現在は把握しているだけで3名ほどいらっしゃいます。ただ、これまでも育休中の方というと、ほとんど出産2人目以降の方ですね。1人目の出産後にそういう余裕を持つのってやっぱり難しいですから。ただ受講生の方々と話していても、育休中にリスキリングを意識する人は実はけっこう多いのではないかと感じます。

 ある大手企業にお勤めの方だったのですが、妊娠を報告したところ産休に入る前から戦力外のような扱いになってしまい、育休が開けて会社に戻っても、もう居場所がないのではないかと思うようになった、と。実はうちの女性会員の中には、けっこうこういったケースの方が少なくないんです。できれば元の会社でまた頑張りたいけど、どうやら難しそうだ、それなら子育てしながら頑張れる道を自分で新たに探そう、ということなんだと思います」

―出産・育児などのライフイベントが働き方に大きな影響をもたらす女性にとって、リスキリングを意識するタイミングは多いということですね。

「育休中のリスキリングについての声の中には、子どもで手一杯なのにそれ以外に勉強もしなさいと押し付けられたように感じた人も多かったのではないかと思います。一方で、育休中に今後の収入や働き方を見つめ直す人も少なくない。そういうときに、将来設計を見据えながらリスキリングを意識してみるのは、ありだと思うんです。実際に育休中に学ぶ必要はなくても、さまざまなスキルアップの方法があることは知っておいて損はないはず。

“リスキリング”と耳慣れない言葉で言われてしまうと、難しいスキルや資格の勉強をしなければいけないように思ってしまうかもしれませんが、今はさまざまなセミナーやスクールがありますし、自分に合った、自分にもできるリスキリングと出会えるかもしれません。

 家事や育児、介護などに影響を受けがちな女性たちは働き方に悩むことも多い。だからこそ、自分でもすごく調べたうえでリスキリング/ビジネススクールを受講されている方が多い印象です。自分がやりがいを持ってできる働き方を探そうと、受講生の方々はとても積極的で一生懸命。うちでも受講生同士が、それぞれに事情を抱えながらともに頑張る仲間として交流し、リスキリングそのものを楽しんでいらっしゃるようです」

「出産前後で激変したリスキリングへの意識。そもそも“意識が高い”わけではなく…」〈女性とリスキリング・前編〉

2023.05.25 Vol.web original

 新生活になじみはじめ、スキルアップのためのリスキリングを考える人が増えるこの時期。「リスキリング」といえば、今年1月の参院本会議における岸田文雄首相の発言をきっかけに「育児・育休中のリスキリング」についてさまざまな意見が飛び交ったことは記憶に新しい。一方で「女性とリスキリング」について調べていくと、ライフサイクルに合わせてワークライフバランスの変更を余儀なくされがちな女性たちの葛藤の声が聞こえてきた。前後編で現場の声をリポートする。

【第一子を出産、育児中のフリーランサーAさんの話】

 第一子となる長女を昨年の春、出産したAさん(都内在住・34歳)。フリーランスのため自分の裁量で出産前から仕事量をコントロール。その間、リスキリングを考えたと言う。

「生まれる前と後とで自分の中で感覚がかなり変わったんです。生まれる前はわりと時間があって、資格の勉強をしてみたり通信講座を調べたり。WEBデザインなど、オンラインでもできたり、今の仕事にも生かせるようなリスキリングをいろいろ調べていました。

 でも産後は子どもの世話で自分の時間がほとんど無くなったんです。3時間おきの授乳に始まり、その間もあやしたりずっと抱っこしていたり、おむつ替えもありますし、ほぼ手が空かない状態。眠ってくれる20分、30分の間には部屋を片付けたり、急いで食事して、夕食の支度をしたり。体力的にも精神的にもいっぱいいっぱいで、とても出産前に考えていたようなリスキリングの時間なんてありませんでした。

 今はようやく保育園に入れることができて自分の時間も少しずつできて、またリスキリングを考えられるようになったのですが、今度は、無料で託児所を利用できるなど子どもを預かってもらいながらできるスクールを優先的に調べるようになりました。やっぱり、環境が整ってこそのリスキリングだなと思いましたね」

 1月の国会答弁での岸田首相の発言は、自民党・大家敏志議員が代表質問で、昇進・昇給遅れなどを考え産休・育休を取りづらいと感じている人のリスキリング支援を提案したことに対して、あくまで「育児中など、さまざまな状況にあっても主体的に学び直しに取り組む方々をしっかりと後押ししていく」と答えたに過ぎない。しかしこれを「育休中のリスキリングを奨励している」と受け止めた人も多く、ネットでは「育休中にリスキリングなんて無理」「そもそも育休は目が離せない乳幼児の育児のための期間」といった声が飛び交ったことは記憶に新しい。

  Aさんも「半分賛同、半分違和感という感じ」と語る。

「スキルアップしたい人を後押ししたいという主旨はよく分かりますし、助かる人も大勢いると思います。でも、育休期間を利用してリスキリングする人を応援します、と言われてしまうと…ちょっと違うかな、と。リスキリングと合わせて託児所も整備するとか保育施設に入りやすくするとか、施策としてそこまで考えられていれば反応ももっと違ったんじゃないかなと思いますが…。

 そもそも、同じ育休中でも状況や環境は人それぞれです。ワンオペで育児も家事も自分がしないといけないなど、リスキリングしたくてもできない人だっていますし、そもそもリスキリングを考えてなかったけど、あの発言で自分もしないといけないようなプレッシャーを感じた人もいると思います。さらに、リスキリング制度がある大企業の正社員の人とは違い、私のようなフリーランスや会社にリスキリング制度がない人は、スクールの費用をすべて自分で捻出しないといけないですから、数十万単位となるとやっぱりちゅうちょしてしまう。人によって状況は違うのに、できない自分はダメなのかと感じると不平等感にもつながってしまう気がします」

 そもそもAさんがリスキリングを意識した背景には、フリーランスであるため会社の育児休暇や国の育児休業制度の対象外ということに加え、やむにやまれぬ事情がある。

「私がリスキリングを意識した理由は、スキルアップをして高収入を目指したいというような意識が高いわけではなく、育児しながら働くうえで、なんとか収入を減らしたくない、収入の幅を広げたいという思いがあったから。どちらかというとネガティブな理由からなんです。どうしても出産前のようにフルタイム以上の時間、働くことはできませんし、育児をしながら在宅や空いた時間に副収入を得られるスキルや資格を身につけられたら…と思ったんです。産休・育休を機に退職してフリーランスや非正規になったりする女性は多いと思います。出産を機に仕事のやりがいも収入も失ってしまうとしたら、子どもを産んでいいのか迷ってしまうことは十分あり得ると思いますね」

 

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