アパートの一室で発見された、ある“緊縛師”の死体。重要な参考人として名前があがった桐田麻衣子は、捜査を担当している刑事・富樫がひかれていた女性だった。富樫は良心の呵責にさいなまれながらも、他の捜査員の目をそらすために、彼女の指紋を偽装し、捜査対象から外してしまう。
しかし、それがほころびの第1歩となり、富樫は次第に追い詰められていく。そしてついに、同僚の葉山が富樫の前に現れ、富樫に詰め寄った。どこまで知られているのか分からないながらも動揺する富樫。そして、事態は意外な展開を見せ、葉山や麻衣子、そして姿の見えない犯人らがじりじりと交錯していく。その複雑で異様な人間関係を文字通り結んでいるのが、緊縛に使用される“麻縄”。単なる道具というだけではなく、日本人の宗教心や古代からなる日本人の思想にまで及ぶ展開は壮大な広がりを見せる。縄によって分けられた結界は、何を守り、何を破壊してきたのか。
ミステリーでありながら、緊縛という非日常の行為に魅せられた男女の悲しみと破滅へ向かう真実は、誰にとっての救いなのか。登場人物の心の揺れや告白者が綴る闇も含め、文章からあふれ出る言葉のひとつひとつが胸に突き刺さる。中村文学の真骨頂ともいえる作品だ。
【著者】中村文則
【定価】本体1512円(税込)
【発行】朝日新聞出版