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愛、信仰、運命—。この世界を生きる意味。『その先の道に消える』

2019.03.16 Vol.716

 アパートの一室で発見された、ある“緊縛師”の死体。重要な参考人として名前があがった桐田麻衣子は、捜査を担当している刑事・富樫がひかれていた女性だった。富樫は良心の呵責にさいなまれながらも、他の捜査員の目をそらすために、彼女の指紋を偽装し、捜査対象から外してしまう。

 しかし、それがほころびの第1歩となり、富樫は次第に追い詰められていく。そしてついに、同僚の葉山が富樫の前に現れ、富樫に詰め寄った。どこまで知られているのか分からないながらも動揺する富樫。そして、事態は意外な展開を見せ、葉山や麻衣子、そして姿の見えない犯人らがじりじりと交錯していく。その複雑で異様な人間関係を文字通り結んでいるのが、緊縛に使用される“麻縄”。単なる道具というだけではなく、日本人の宗教心や古代からなる日本人の思想にまで及ぶ展開は壮大な広がりを見せる。縄によって分けられた結界は、何を守り、何を破壊してきたのか。

 ミステリーでありながら、緊縛という非日常の行為に魅せられた男女の悲しみと破滅へ向かう真実は、誰にとっての救いなのか。登場人物の心の揺れや告白者が綴る闇も含め、文章からあふれ出る言葉のひとつひとつが胸に突き刺さる。中村文学の真骨頂ともいえる作品だ。

『その先の道に消える』
【著者】中村文則
【定価】本体1512円(税込)
【発行】朝日新聞出版

人間存在を揺るがす驚愕のミステリー!

2015.09.14 Vol.650

 ある町で連続通り魔殺人事件が発生した。目撃者の証言から、グレーのコートの男が重要参考人として浮上。所轄の刑事・中島と捜査一課の女性刑事・小橋がペアを組んで捜査にあたることに。しかし、2人に与えられたのは、地域の聞き込み。犯人に迫るような情報がなかなか上がってこない中、2人は聞き込み中に不審な男を見つける。職務質問をしようとしたところ、逃げる素振りをしたその男を捕まえると履いていたスニーカーには血がつき、リュックの中からは血のついた包丁が発見される。これで連続通り魔は捕まったかと思われたが、中島と小橋は、その男が犯人だとはどうしても思えないでいた。しかし、犯人逮捕を焦る警察はその男の犯行だと断定しかけ…。

 という事件と誰かの小さい時の火事の記憶、そして模倣犯の登場など、先がまったく読めない展開で進む第1部。何か不穏な空気をまとう不安をかき立てるストーリーが第2部で突如として動き出す。そこに記された“コートの男”の正体、そしてそれが明かされたことで、ますます迷宮にはまりこむ事件が、第1部とはまったく別の顔で進展し、読んでいるものの頭を混乱させる。さらにバツイチ刑事の苦悩と脳天気に振る舞う小橋の心の闇も徐々に明らかに。そして驚愕の第3部では、それらの謎をすべて回収してくれる展開に。そこにある運命に翻弄される男と女の悲しい人生が事件の核心だった。家族だけではなく、世の中、果ては神にまで見捨てられた人間は救われることがないのだろうか。

 著者初の警察小説は、事件の真相の解明とともに、人間の心の深淵を描き出す。

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