“サイコ”の異名を持つ平成ノブシコブシ・徳井健太が、世の中のあらゆる事象を生温かい目で見通す連載企画「徳井健太の菩薩目線」。第176回目は、入館手続きについて、独自の梵鐘を鳴らす――。
当たり前だからこそ、気が付かないことってある。ふとした瞬間に、その当たり前が、「そうじゃないんだよな」って気が付けたら、人生の徳を積めたような気持ちになると思うんです。徳を積めたら、シンプルにお得じゃないですか。
おかげさまで、いろいろなテレビ局へ行くようになりました。玄関に入って、「おはようございます」とあいさつを繰り返すうちに、警備員さんも顔を覚えてくれるようになるものです。
例えば、テレビ朝日の番組に出演する場合、テレビ朝日本社へ行くパターンとアーク(放送センター)へ行くパターンがある。あいさつを交わし、入館の手続きをしようとすると、「あれ? 今日は徳井さん、アークの方じゃないですか!?」なんて声をかけられることもある。
テレビ局によって、入館する手続きや方法は異なる。考えようによっては、それが局のカラーというか、それぞれの個性のようにも感じられて面白い。もちろん、こうした入館手続きはテレビ局に限った話ではなくて、出版社もそうだろうし、企業も必要に応じて手続きがあると思う。それこそ、我らが吉本興業の東京本部に入館するときも手続きが必要だ。部外者を中に入れないために、入館手続きには時間がかかることがあるだろう。どんなに顔を覚えられても、手続きは必要だ。
僕は人様に誇れるほど、あらゆる企業の入館手続きをしたことなんて無いけれど、Abemaの入館手続きはホントにびっくりする――。それが、あらためて気が付いた当たり前の中の発見。
Abemaは、渋谷にAbema Towersがあるけど、収録をするときは外苑前のシャトーアメーバへ行くことになる。特徴的な建物で、その入り口はガラス張りになっているため、中から外が見える構造になっている。つまり、警備員さんは中から外をうかがうことができ、どんな人が今から入館(手続き)をしようとするのか、なんとなく分かる。
普通だったら、「徳井さんですね。今確認しますのでお待ちください」といった具合に時間を要して手続きを行う。でも、シャトーアメーバは違う。
入口に入って、あいさつをするなり、「徳井さん、今日の楽屋は404です」と、ほぼ立ち止まることなくそのまま楽屋へひとっ飛び。まるで自動ドアのように、何も触れずに手続きが完結する。インターネットのようなアクセス性があるのだ。
そのやり取りが当たり前になっていたので、まったく気が付かなかった。よくよく考えれば、この対応、神がかっているんじゃないのって。入館手続きを経験したことがある人なら分かると思うけど、ほぼシームレスってなかなかない。最近は、事前にパスコードが発行されて、その数字やアルファベットを端末に入力するとQRコードが発券されてゲートを通過する――なんて企業もあるけれど、このシャトーアメーバの警備員さんのなめらかさには舌を巻く。
一日にたくさんの来客(出演者)がいるに決まっている。そのすべてに対して、あのなめらかさを実現しているのだとしたら、どんだけあの警備員さんたちは記憶力がいいんだろうか。
楽屋だって地下と4階があるため、必ず4階になるとは限らない。ということは、警備員さんたちは、誰がどの番組に出るかを把握しているわけで、把握するってことは、「今日は誰が来るのか」と予習をしているということ……? 考えれば考えるほどプロフェッショナル。誰かひとりスゴ腕の警備員さんがいるというわけじゃない。シャトーアメーバの入館担当の警備員さんは、全員が基本的に「徳井さん、今日の楽屋は404です」とパスしてくれるのだ。
どうしてこんなにスムーズな入館を実現しているんだろう。今度、時間があるときに聞いてみようと思う。「え? 他はそうじゃないんですか。自分たちはこれが当たり前だと思っているので」なんて言われたら、しびれちゃうかもしれない。
当たり前のことほど、簡単に気が付かない。だって、当たり前なんだから。でも、そうじゃないんだよね。その当たり前は、どうしてそうなったのか――そんな視点を持ってみると、あらためることやほめることが、はっきりと浮かび上がってくると思うんです。