“サイコ”の異名を持つ平成ノブシコブシ・徳井健太が、世の中のあらゆる事象を生温かい目で見通す連載企画「徳井健太の菩薩目線」。最新回では、“シルクタッチ”な笑いについて、独自の梵鐘を鳴らす――。
ご存知の通り、俺はテレビばかり見ている。千鳥さんが MC を務める『クイズ!THE違和感』を見ていたときのこと。
その日は、くら寿司の特集をしていて、「本当は存在しないくら寿司の商品を選んだらアウト」といった趣旨のクイズが行われていた。正解するとご褒美として寿司をいただくことができるという内容だったと思う。
出演者の一人である前田敦子さんが、ご褒美としてシャリの上にあふれんばかりのネタが乗っかったお寿司を頬張る――そういう瞬間があった。その寿司には、タルタルのようなソースがたっぷりかかっていて、俺は「これをきれいに食べるのは難しいなぁ」なんてことを思いながら画面を見つめていた。
案の定、あっちゃんの口元にはタルタルがついてしまった。おそらく、編集上でカットされているんだろうけど、スタジオではそのタルタルについて丁々発止が行われたのではないかと思う。オンエア上では、大悟さんの一言が乗っかっていた。
「顎の下に寿司をつけちゃうぐらい美味しいんやわな」
ウケにいくトーンでもなく、下げにいくトーンでもない、隣人のようなトーン。テレビを見ていた俺は、なんて上品なんだろうとうっとりしてしまった。
「あっちゃん、ここに付いてるよ」とさりげなく教えてあげることが一番優しいようにも感じられる。でも、これだと笑いにならない。だからといって、笑いを取りにいこうと思うと、「美味しいのは分かるけど、がっつきすぎだよ、あっちゃん!」という具合にウケのトーンで言い放つことになる。こうなると下品な笑いの取り方。自分の手柄にしてしまうケースになってしまう。
ところが、大悟さんはそのどちらでもない全員の気持ちをくみ取りながら、あっちゃんに対しても気を配る。さらには、スタッフは笑いどころとしておいしい。そんなフォローをたった一言に集約させ、笑いに変えてしまうのは、同業者である俺からすると、ものすごいことであり、ただただ感嘆してしまう。
大悟さんと仕事を一緒にさせていただくと、上品なフリを俺に対しても共演者に対してもしてくれる。大悟さんは、北木島という島育ちだからやんちゃでワイルドなイメージが先行していると思う。だけど、ワイルドとはほど遠いくらい上品な人でもある。
優しいという解釈をどう取るか――。
たとえば、車道側を歩いている女性に「危ないよ」と声をかけ、強制的に車道から遠ざける……これは優しいんだろうか。優しさというよりも、ごくごく当たり前のことでしかないわけで、これを優しいと解釈すると、すぐ人に騙されるのではないかと心配になってしまう。
俺は、優しさというのは、ユーモアと隣り合わせになっているものだと思う。気が付いたら、「あれ、私、車道じゃない方を歩いていたな」と感じ、よくよく考えたら「あの一言がきっかけだ」、そう自然に思ってしまうのが、優しさだと思う。
先の大悟さんのさりげない一言しかり、もっと世の中は気が付いてほしい。でも、あまりにもシルクのように肌触りがいいものだから、タッチされたことに気が付かない。気が付かないから、気が付かれないんだろう。
肌触りの良いシルクタッチ、かつ面白いコメントを出せる人って、芸人の中でもごくごく限られている。パッと思い浮かぶのは、麒麟の川島さん。そして、劇団ひとりさんなどなど。
川島さんが、現在『ラヴィット!』 でMC をしてるのはものすごく納得だし、ひとりさんが 『クイズ!あなたは小学5年生より賢いの?』でMCをしているのも、冷や奴に醤油をかけるくらいごくごく当たり前のことに感じる。
『あなたは小学5年生より賢いの?』で、すべての牙を抜いた状態でMCをしているひとりさんは、モンスターだ。どうやったら、あんなに総入れ歯みたいに牙を抜くことができるのか、理解ができない。普通なら、“オレ、面白いですよ感”が残ってしまうけど、あの番組におけるひとりさんは1ミリも出すことなく、凡人アナウンサーのふりをし続けている。
そうかと思いきや、『ゴッドタン』ではすべての毒を巻き散らしていく。そして、 デトックスできたことに満足したように、『あなたは小学5年生より賢いの?』で凡人アナウンサーに化ける。ゴールデン番組でしか劇団ひとりさんを見ていない子どもは、「面白くない人」と認識している可能性だってある。
劇団ひとりとはよく言ったもの。一体、一人で何役こなしているんだろうと思う。コントの中だけではなく、仕事でも百面相。あれだけ役柄を循環させているんだったら、最終的には土に還って、死体も残らないで消えていくんだと思う。劇団ひとりこと川島省吾は、かっこいい芸人だ。化ける人だから、モンスター、化け物に違いない。
そして、カワシマって何者なんだろうと思う。
ひとりさんも、くっきー!さんも、麒麟の川島さんも、みんな「カワシマ」だ。カワシマって名前は、お笑い界の中では、ワンピースでいうところのDの一族のような存在なんだろうか。どうしてこんなに異才ばかりなんだろう。