“サイコ”の異名を持つ平成ノブシコブシ・徳井健太が、世の中のあらゆる事象を生温かい目で見通す連載企画「徳井健太の菩薩目線」。第168回目は、初めてやったことについて、独自の梵鐘を鳴らす――。
私徳井健太が出演させていただいている『楽しく学ぶ!世界動画ニュース』。愛にあふれた素晴らしい番組だと思っています。おべっかなんかじゃない。心の底からそう思うんです。
3月に放送された回で、「初めてやったことはありますか?」をお題にしたトークコーナーがあった。おなじく番組出演者であるいとうせいこうさんが、ライブシーンなどでおなじみの「騒げー!」というコール&レスポンスを、日本で初めて行った――と話されていた。
実は、せいこうさんはインド映画の傑作『きっと、うまくいく』の字幕監修を務めたほどで、日本語への造詣がマリアナ海溝くらい深い。日本語ラップを語る上でも欠かすことができない人でもあるから、海外で叫ばれていた「scream!」を、「騒げー!」に和語変換したそうだ。「叫べ」ではなく、「騒げ」に変換するあたりが、海溝よりも深い由縁だろう。
そんなレベルが違うエピソードの後に、いったい何を話せばいいというのか――。
あれこれと過去に自分がやったであろう「初めてのこと」を絞り出した結果、人生でもっとも愛していると言っても過言ではないパンドeastern youthにまつわるエピソードがあることを思い出した。
あれは19歳だったか20歳だったかのとき。NSCに入学するために田舎から上京してきた俺は、赤坂blitzで行われたeastern youthのライブに初めて行った。「夏の日の午後」という歌が始まると、どういうわけか俺は、そのイントロの合間に「オイ! オイ!」と叫んでいた。
演奏が終わると、eastern youthのボーカル/ギターの吉野寿さんが、「そのオイっていうのやめてくんねーかな」と言ったことを、今でも覚えている。ダサいコールをしていたと、我に返った。
はずだった。でも、今でも「夏の日の午後」が流れると、集まったファンたちは、そのイントロに合わせて「オイ! オイ!」と叫ぶ。いつの間にか恒例のシーンになっていた。
番組で、「「夏の日の午後」のコールは自分が初めて言ったと思う」と話してみたものの、果たして本当に自分が最初にその掛け声を行ったのかは定かではない。だから、本放送でこのエピソードが使われるかどうかは籔の中だった。ところが、ふたを開けるとそのエピソードががっつりと使われるどころか、eastern youthのライブ映像まで流れていた。
eastern youthもレコード会社も許可してくれたってことですか? もう、自分が初めてコールをしたかどうかなんて関係ない。高校卒業時に、お笑いの道に進むか音楽の道に進むか悩んでいた俺は、「圧倒的すぎてeastern youthにはなれない」と思い、お笑いの道を選んだ。
eastern youthに会ったことはないけれど、その20年後に、バラエティー番組でウソかホントか分からないエピソードを話し、eastern youthの映像が流れた――、それだけで胸がいっぱいになってしまった。とても感動してしまった。
『楽しく学ぶ!世界動画ニュース』のスタッフ陣は、俺と同世代の人が多い。みんな、eastern youthを知っていたらしく、スタッフさんたちもeastern youthの映像を流したかったらしい。なんて愛のあるスタッフなんだろう。
愛は止まらない。
このエピソードを紹介する際、より分かりやすくということで、俺が「オイ!」と声を上げる姿に、バンドメンバーが戸惑うといったイラストが流れた。
実は、当初のイラストは、現メンバーの吉野寿さん、田森篤哉さん、村岡ゆかさんが描かれていた。受注したイラストレーターさんは、現在のeastern youthのライブ映像を参考に描いたわけだから、おのずと男性、男性、女性の姿になる。ところが――。
「徳井君が見たのは20年以上昔のことだから、今のメンバーじゃないよね。当時は全員男性のメンバーだったから、このイラストだと違和感があるよね?」
と演出を担うスタッフさんから相談された。イラストレーターさんに書き直してもらうのも申し訳がないということで、最終的に吉野さんだけいかして、ドラムとベースに関しては影で表現するイラストへと微修正されていた。
神は細部に宿ると言うけれど、この番組のスタッフは宿らせようと頭を使う。汗もかく、足も動かす。それを愛と言わずしてなんと呼べばいいんだろう。素晴らしいスタッフたちに恵まれている。心からそう思うんです。